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第二章  【西の王国】

2-88 ニーナ・K・ファーロン

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「西の襲撃者たちの檻が、爆発しました!」


「え、どうして!?まさか自爆??」


「いえ、捕まえた際の所持品検査では爆発物の類は見当たりませんでした。よって、外からの攻撃かと思われます」



エレーナの推測を、報告に来た警備兵が否定する。


「ねぇ、エレーナ。それがさっきコボルドさんが言っていた人たちだとしたら……?」



「まだ、近くにいるかもしれないわね!?」




「よし!付近の捜索だ!相手はどんな奴か分からないし、まだ爆発物を持っている可能性も充分にある。複数人で行動せよ!」




ドイルが警備兵に、付近の捜索を命じた。
警備兵たちは二~三名で一組となり、暗闇の中を松明の明かりで捜索する。


アルベルトは、松明を持つことによって相手がこちらを見つけやすくなることを危惧していたが、捜索開始から三十分が経過してもこれ以上攻撃される恐れがなかった。


そのことから考えても今回はこの拠点への攻撃というわけではなく、あの者たちを始末するのが目的だったようだ。
この意見全員一致し、今夜は夜間の警備を増員して眠りにつくことにした。





あっという間に、夜が明ける。
警備用の焚火の火も消され、空はすっかり明るくなっていた。


アーリスは今日も食事の支度をするために、早く起きた。
テントを出て水場に向かおうとすると、アーリスよりも早く目が覚めていたニーナがいた。

ニーナはテントよりもさらに奥に進んだ場所にあるベンチに腰かけて、朝の霧がかかるディヴァイド山脈を眺めていた。



ニーナはこちらを見つめるアーリスに気付き、話しかけた。




「おはよう、アーリス。よく眠れた?」


「おはようございます……ニーナ様は、よく眠れませんでしたか?」


「そうですね。昨夜の騒動もあったし、いろいろと考え過ぎちゃって……外を見たら、もう空がうっすらと明るくなってたから起きちゃいました」


「ニーナ様……」






無理に笑って見せるニーナの笑顔が、痛々しく思えた。




たまたま王家に生まれ、まだ若いうちから国を背負う重圧にさらされている。


アーリスはふと、自分がニーナと同じ年の頃を思い出してみる。


既に警備兵へ入隊した兄を追いかけるため、日々訓練と身体づくりに励む毎日。
でもそれは、決して誰かに強制されていたものではなく、自らの意思で自主的に行っていたものだった。


それに、自由な時間もあった。
同世代の友人がいて、おしゃべりをして、ケンカもして、恋愛もした。

ニーナにはそういった普通の十五歳の楽しみなど、これから経験することはできないだろう。



これから始まる王選では、一個人の自由よりも国や国民全体の責任を背負うことになる。



特に今回はこの王選に敗れた場合、西の国の危機が訪れる可能性が高い。
そのためには、なんとしてもこの王選を勝たなければならない。


もし……もしも、カステオが何の問題もない兄だったら、ニーナもよろこんで王座を渡しただろう。

だが、そんなことを考えていても状況は変わらず、ただただ時間ばかりが過ぎていった。
ニーナはそこから、”この国をどうすれば救えるか”だけを考えるようになった。



そんな重圧が、若干十五歳の方に伸し掛かってくる。




――自分がその立場だったとしたら




アーリスはそう考えると、心臓が締め付けれられるような感覚に見舞われる。


だが、目の前の少女はその重圧に立ち向かっている。
この小さな身体で、自分の運命と戦っている。



(――私がこの方の力にならないと!!)



アーリスは思いを新たに、ニーナへの忠誠を誓った。






「……アーリス?どうしたの?」


「は!?すみません、ニーナ様……少し、ぼーっとしておりました」


「大丈夫?ずっと緊張が続いていて、疲れてるんじゃないの?……あ、そうだ。私も食事の支度をお手伝いましょう!」


ニーナは、手を叩いて名案だと言わんばかりに目を輝かせている。




「え?いや……ニーナ様に……」


アーリスは断りかけたが、せっかくの機会をに楽しんでもらおうと手伝ってもらうことにした。



「……もう、朝の支度は大変なんですからね。邪魔しないでくださいよ?」



アーリスは、笑いながらニーナにお手伝いをお願いした。
ニーナも嬉しそうに腰を上げて、アーリスの後を付いて行く。







「……おはよう……ございますぅ」


「あ。クリエさんおはようございます!」


「ニーナさん、アーリスさん、早起きですね?……っと、いまから食事の準備ですか?それなら、私も手伝いますよ!」


「えぇ、クリエさん。一緒にやりましょう!」


ニーナは年の近いクリエを気に入っていた。
同世代の友達……いや、友達という相手がいなかった。
さらに、東の国の人物は、ニーナに普通に接してくれる。
西の国の王女とは認識しているが、異なる国のためかそんなに畏まらずに接してくれることがニーナは嬉しかった。


アーリスやボーキンもハルナたちの態度には節度があり、ニーナに対して親切に接していることに不満はなかった。
このまま、良い関係が構築できれば嬉しいことはない。





「ねぇ、アーリス!次は何をすればいいの?」


「次は、”アーリス特製お手軽簡単スープ”を作っていきます。まず最初に……」



(妹や娘がいたらこんな感じなのかな……)



アーリスは楽しそうなニーナの姿を見て、嬉しい気持ちになる。
この楽しい時間が少しでも続けばと願った。



「うーん……いい匂い!」


次々と美味しそうな朝食の匂いにつられて起きてくる。


そして、全員が集まり賑やかな朝食が始まる。






このあと食事が終わり間もなくして、西の警備兵が東の麓に到着した。




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