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第二章 【西の王国】
2-86 ハイレインからの返答
しおりを挟む翌朝――
今回は全員で、朝食の支度をする。
昨晩は何もできずにムズムズしていたニーナも、今朝は自分から率先して手伝いを行っている。
が、普段から行っていないためすぐに横で見ていたアーリスにその作業を取られてしまっていた。
結局、皿を並べたりするだけになった。
テーブルには質素だが、色鮮やかな食事が並べられている。
今朝もアーリスが用意したものばかりだった。
食事の用意が終わり、テーブルに全員が揃ったことを確認し、ドイルの号令で食事が開始された。
口にした者たちから”旨い”、”初めて食べた!”等々、料理に対し賞賛の声が聞こえてくる。
今回の警備隊は、先発隊の後食料の運搬や伝達などの兵士が数日ごとに入れ替わったり新しく配置されてきていた。
その者たちは今まで通り仕事だけをこなしに来ていたので、この食事の質の高さに驚いた。
アーリアスは西の警備隊の中で食事当番も行っていたが、味に関しては何の評価や感想すら貰えなかった。
だが、東の国の人々は喜んでくれている。
自分の食事を美味しいと褒めてくれる。
そのことがアーリスにとっては、嬉しくてたまらなかった。
なのでこの数日、アーリスは進んで調理を受け持っている。
そのことに対してドイルを初め、東の警備隊は申し訳なさそうにしているがアーリスに頼り切っていた。
貴重な食材も美味しくなるならそれに越したことはない、と。
エルメトは喜ぶアーリスの姿を見て、不思議とホッとした気持ちになった。
「ド……ドイル様ぁ、只今戻りました!」
使いに出ていた、連絡係の警備兵が息を切らして戻ってきた。
「おぉ、戻ってきたか!どうだ?食事は済んだのか?きょうの食事もとっても旨いぞ!」
上機嫌に答えるドイルの表情とは反対に連絡係の表情は固まっていた。
「――?」
ドイルはすぐに、その表所を読み取りハイレインからの返事を要求した。
恐る恐る連絡係は、腰に付けていたカバンの中から一通の書簡を取り出しドイルに手渡した。
ドイルは書簡に巻かれた紐を解き、封を開けて中身を取り出した。
――
ドイルは読み終えた書簡を再び折り畳み、エレーナに渡した。
「エレーナ様、これを」
「ふぁい?」
エレーナは一口サイズのサンドイッチを口の中に頬張ったまま、ナプキンで手を拭いて書簡を受け取る。
片手の飲み物で口の中のものを胃に流し込みながら、書簡の文字を追った。
――んぐっ!? ゴホッゴホッ!!
エレーナはその内容に驚き、食べ物が気管に入りむせた。
「ちょっとぉ!?エレーナ、大丈夫?」
ハルナはエレーナの背中を軽く叩き、楽になるように介助をする。
エレーナは、この世界の文字があまり読めないハルナに変わり、目の前の席に座るルーシーにその手紙を渡した。
「……え?」
その内容に、ルーシーも思わず声を出してしまった。
「ちょっと、どうしたの?どうなったの??」
ハルナはエレーナの背中をさすりながら、その内容が気になって仕方がなかった。
ルーシーの隣にいたクリエが、その書簡を読みハルナに伝えた。
「ハイレインさん……”西の国の動向には、一切関与しない”って」
その言葉を聞き、背中をさするハルナの手が止まった。
ニーナも、ハルナの顔を心配そうに見つめる。
「そ……そんなぁ」
アーリスも足の力が抜けて、地面に座り込んでしまった。
メイヤはその手紙を預かり、その内容を確認した。
ハイレインからの返答は次の通りだった。
・東の国として、西の国内の動向については関与しない
・西の国から協力の要請があった場合に考慮する
・山の警備に関しては、東側のルートに関しては行うが、魔物との共存については検討が必要
「そんなに簡単なことではなかったようですね」
アリルビートが感情を抑え、いま誰もが思っていることを言葉にした。
「これから……どうすれば」
エルメトはテーブルの上で手を組んみ、悔しそうな表情で悩んでいる。
ボーキンは冷静な表情で、愕然とするニーナのことを思いやっていた。
「とにかく……これからのことを話し合いましょう」
エレーナはそう告げて、一度仕切り直しすることを提案した。
朝食のテーブルを片付けて、全員がテーブルの周りに集まった。
しかし、誰一人この場に見合った言葉が見当たらなかった。
このままでは埒が明かないと、ドイルが重い口を開いた。
「ボーキンさん、西の国の方々はこれからどうするおつもりですか?」
「東の国の助力が得られなくなったことは誠に残念ですが、我々の当初の目的であるニーナ様を王にするという最終目標には変わりありません。また西に戻り、地道に仲間を増やしてまいります」
「あのぉ、ボーキンさん。お伺いしてもよろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
「西の国の王選の活動は派閥の支持を増やすことが目的で、相手を傷つけないとお聞きしました。今回、ゴーフさんへの襲撃はルール違反なのではないですか?」
クリエは、ずっと不思議に思っていたことを質問した。
特に今回の場面では言う必要はないと、判断し黙っていたが東の国からの協力ができないとなったいま、伝えておいた方が良いと思い発言をした。
「そのご質問はもっともです。確かにお互いが傷付けてはならない人材は、”王国の運営に関与している者”だけなのです。今回は襲撃した人物は雇われたものだと思います。ですからそういう者が襲ったとしても、裏に王選の関係者が指示したという証拠がなければ、それはただの”事故”なのです」
「それで、今回はその”事故”に仕立てようとした可能性が高い……と?」
アルベルトが、ボーキンの発言を確認する。
「……その通りです」
だがその事実を確認しても、東の国としては何も助けられない。
このままでは、もう一人の王子に決定してしまう可能性も高い。そうなれば、東の国も決して安全ではなくなる可能性も出てくる。
できれば、この重要な分かれ道を何とかして協力していきたい。
「――あ」
ハルナがおもわず声を出した。
悲痛な沈黙の中での一声は、容易に響き渡りハルナに視線が集中する。
「どうしたの、何かいい案が浮かんだ?」
エレーナが、そのまま黙ってしまったハルナに話しかけた。
「ハイレインさんの返答で最初にあった”東の国として”っていう言葉がずっと気になってるんだけど、これ、どういう意味かな?」
「それは、その言葉ぁ……通りじゃ……ないの?」
語尾になるにつれ、自信がなくなっていくエレーナ。
二頭の馬が、人を乗せて近づいてくる。
「どうした。何か、困り事でもあったのか?」
「私にもお力になれることがありますか?ハルナさん、エレーナさん」
ハルナは、その声の方を向いてその名前を呼んだ。
「ス、ステイビル王子とキャスメル王子!どうしてここに!?」
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