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第二章  【西の王国】

2-56 コボルド討伐4

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「よし、準備はいいか?」




ドイルは目の前に整列した二つの隊に対し、出発の準備が整ったかを確認する。



第一部隊は警備兵一名、エレーナ、アルベルト、ルーシー、ソルベティ
第二部隊は警備兵一名、ハルナ、ソフィーネ、クリエ、カルディ





作戦として、第一部隊で魔物との遭遇した際の討伐を主に行う。
そのため、アルベルトの他に少し剣術が使える精霊使いとして、ルーシーのサポーターとしてソルベティが加わった。



第二部隊は攻撃の補助および、戦況を把握しつつ第一部隊の防御も行う。
ソフィーネは、第二部隊の対接近戦の要として加わってもらった。




コボルドと遭遇した際に、できれば最初のコンタクトは戦闘ではなく対話することで全員の意見は一致した。




今回アーリスは第一部隊に同行し、昨日の状況や出現場所などの情報提供として協力してもらうことになっていた。


その他の後方支援として、ドイル、オリーブ、アリルビート、シュクルスなどが山の入り口の拠点で待機することになった。
二つの部隊が対応仕切れなかった場合に、ここで食い止めことを目的とした。
また、山の中で何か起きた場合には、精霊使いがその場で大きな合図を出し、麓から応援に駆け付けるようにした。










「それでは、出発!」




ドイルが掛け声をかけ、エレーナたちは山に入っていく。
ハルナたちは、その五分後に出発する。



最初から急な勾配を、登って行くことになる。
ゆっくりと進み、なるべく体力を消耗することなく進んで行く。




「アーリスさん、西の国はどんな感じのところなのですか?私、一度も行ったことがなくって」





そう話したのは、エレーナだった。




「そうですね……西の国は、一言で言うと”強さ”が全てです」





そこには西の王国が建国されてから、その歴史に関係があった。



初代の国王が二代目の王を決める際に、国内で争いが起きた。
それは、王子自身の力とその王子に忠誠を誓う部下、厄介なのはその王子の力を利用しようとする者たちの力だった。

ただ、その争いに対して、王は一切口を出すことはなかった。


王子たちはその全ての力を上手く扱うことができなければ、王座に就くことはできない。
反勢力の力さえも引き込む実力があってこそ、王様だと言うことだ。

武力がなくても知力で、知力がなくても武力で。
歴代の国王は、様々な力によって国を治めてきた。

幸い、未だ下克上のようなことは西の国では起きていないとのことだった。
王家の血筋は、ここまで守られていた。




「へー……、やっぱり他の国はちょっと違うんですね」



「このディヴァイド山脈を隔てると、季節も違うようですし。その気候によってそこに住む人たちの生活様式が生まれ、それによりその土地の文化が生まれることにより、人々の考え方も大きな影響を受けていると言った研究者もいましたね」



ルーシーは過去に見たことのある文献から、その考え方に沿った内容の情報を思い出した。



「やっぱり西の方では、喧嘩っ早いというのは東の商人の方から聞いたことがあります。私もそこまで東の方に詳しくないので、比較したことはありませんが」



(上司の命令に逆らって、自分一人でここまで来てしまったアーリスも実は相当……)




エレーナは心の中だけでつぶやいた。









「それでは、一度ここで休息をとりましょう」



先頭を歩く警備兵が、後ろを振り返りそう告げた。
一時間ほどは、登ってきただろうか。

ふもとの方で聞こえていた音はもう聞こえなくなり、すっかり森の中の音だけになってしまった。
鳥の鳴き声、木々が風で擦れる音、小動物が枝から枝に飛び移る音が、いまの森の中では主な音となっている。




遅れて、ハルナ達の隊も到着した。
おおよそ五分後に到着しているため、先頭を歩く訓練された警備兵の歩幅の正確さには驚かされる。




「頂上まであと、三分の二といったところですね。今日も頂上は雲に隠れていますが……」



クリエは、水筒の水を一口飲んで上を見上げる。




「昨日はもう少し上の辺りで、一つの集団に襲われました。これからは、周囲に注意して進んだ方が良さそうです」




アーリスは、この場の全員に告げた。







「それでは、第一部隊は出発します」



おおよそ十五分間の休憩を終えて、エレーナたちはまた歩を進め始めた。

ハルナたちはそこからまた、五分後に出発することになる。








「ソルベティさん……でしたか。性は”マイトレーヤ”ですか?」


一番先頭を歩く、警備兵は後ろを振り向かずに話す。


周囲を警戒するソルベティも、その言葉の元を見ずに応えた。



「はい、そうですが」



「では、あなたが”グレイニン”隊長の娘さんなのですね」




――!?


ソルベティは少し、驚いて足を滑らせてしまった。
坂の下に転がり落ちる石は、曲がり角の森の中に消えていった。



「あなたは……父を知っているのですか?」



周囲の警戒を一瞬といてしまったが、ルーシーはその行為を見なかったことにした。





「やはりそうでしたか。若い頃に見た、その剣の柄の紋章に見覚えがありましたので。グレイニン隊長と一緒に隊を組んだことがあります」




ソルベティは、話しを聞きながら剣の柄をなでる。




「強くて誰からも慕われており、あの頃は憧れの存在でした。よく、騎士団への入隊を目指している話しを聞かせて頂きました。グレイニン隊長なら、絶対に間違いないと思っていましたよ……」




先頭の警備兵の声が、少し暗くなる。




「それを知った。当時の警備隊の総隊長が、その事を耳にして、グレイニン隊長を町の警備兵に飛ばさなければあんなことには……」



「有難う……ございます。もう少し、お話しを聞きたいのですが、今は作戦に集中しましょう。……任務が終わったらぜひ続きを聞かせてください」




「は!そうでしたね。今は作戦に集中します!」




警備兵は嬉しそうに、ソルベティの言葉に返した。






すると




――カン!



何かを弾き返す音がした。

後方左に、エレーナが作った氷の壁が見える。




「きました!コボルドです!」




アーリスは、叫んだ。

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