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第二章  【西の王国】

2-55 コボルド討伐3

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「う……うーん……」




ゆっくりと目を明けると、女性は自分が知ない場所にいることに気付く。

全身に痛みが生じているが、骨折や大きな裂傷のような痛みではない。
身体の装備も外されていて、寝ている近くにまとめて置かれている。


毛布の下の姿は、下着だけのような姿になっていた。
誰か脱がせてくれたのだろう。




女性は、記憶が途切れる前までのことを思い出してみる。
山に入りその途中でコボルドに襲われて……精霊使いの女性に助けれられた。


そして、思い出す。
自分には、やらなければならないことがあった。





「あ、お目覚めになられたのですね?どうですか、身体を起こせますか?」




テントの中に、クリエが入ってくる。

この女性は、クリエをみて思う。これまで見たことのない女性だと。
だが、服装からみてもメイドではない。




女性は言われた通り、ゆっくりと身体を起こした。




「いま、お水をお持ちしますね」



クリエはそう告げて、一旦テントの外に出た。



そして、思考を働かせ始める。




――誰かにこの話をすべきか?


しかし、親切にはしてくれているが、こんな危険な話に巻き込んでしまうのは……
となると、やはりじっとしてはいられない。
早くまた、山の中に戻らないと。
まだ、ケガが回復しないうちは自分の身も危険になるし……





女性の思考は行ったり来たりと、結論が落ち着かなかった。




しばらくすると、テントにクリエが戻ってきた。




「はい、冷たいお水です。飲めますか?」



その後ろには、先ほどの記憶にある精霊使いの姿が見えた。





「目が覚めたんですね、大丈夫ですか?」



ハルナはクリエからコップを受け取った女性に話しかけた。




「危ないところを助けていただき、本当に有難うございました……」




女性は、コップを手にしたままハルナに向かって頭を下げる。




「いえいえ、いいんですよ。困ったときはお互い様ですし……それよりも、何故あんなことに?」





女性はコップの水を一口含み、ゆっくりと喉の流し込んでいく。
乾いた身体に水が染みていく感覚が広がっていく。



コップの水を全て飲み終えた時、エレーナやルーシーたちもこの場所に加わった。




そして、女性の話しを聞く。




「私は西の王国の周辺警備兵です。今回、西の警備隊がコボルドの討伐のために、この一帯を燃やしてしまう計画があるのです」




「あの、それって結構大事になるんじゃないですか?」



ハルナは女性に問いかける。



「被害は大きくなるでしょう。森の育った木々やそこで生活している生き物も、焼けてしまう恐れがあります。生き残ったとしても、小さな生き物は大きな生き物に的になり生態系のバランスが大きく崩れてしまう恐れがあります」



「東の王国には、そういった連絡は来ていないようですが?」



後から入ってきたドイルが告げる。



「これは西の王国の警備隊が独断で決めた内容です。一部の者は反対の声をあげましたが、結果的には……」


「決定を覆すことはできなかった……?」




ルーシーが女性の代りに、答えを導いた。




「でも、私たちの方でも今回のような討伐隊を組んで、危険の排除には力を入れていますが?」



我慢できずにエレーナも、意見を述べる。




「はい。西側でも承知しておりますが、最終的に望むような成果が出ていないため最終手段にでるようです」




「何の相談もなしに……勝手ですね」



ソルベティは、怒りを隠しきれない。



「私も協力すべきということは進言しましたが、東にしても西側に何の相談もない……と」



「何を勝手な!?」



ドイルもここにいない相手に怒鳴りつけた。




「ですから、私一人で解決できればという条件で、今回山に入ったのです。コボルドの長に、話し合いを求めて」



「でも、あの様子だとそれも……」


「はい……魔物は聞く耳もないといった感じで襲ってきました」



女性は、身体にまとった毛布を握りしめて悔しそうに告げる。




「でも、命が助かって何よりでしたね……今は身体を休めてまた考えていきましょう」



ハルナがそう告げるが、女性はゆっくりと首を横に振る。





「私が数日中に無事に戻らないまたは、交渉が決裂した場合には、当初の計画通り山が燃やされてしまうのです」


「え?その期限はいつまでですか?」


クリエが問う。




「はい……今日を入れて三日以内。ですので、明後日までに良い結果を持ち帰らなければなりません」




「もう、時間がないですな」



「私たちが行って、説得することは可能でしょうか?」


リリィが確認する。



「おそらく難しいでしょう。助けていただいて失礼かと思いますが、あなた方が、王宮クラスの役職でない限りは、掛け合ってももらえないでしょうね」




「今から書状をもらいに行ったとしても、間に合わないでしょうね」



ルーシーが冷静に判断する。




「とにかく、明日山に入りましょう。討伐にしても進んで行くことで西の町につけば止める案も浮かぶかもしれませんし」


強硬策のようではあるが、当初の予定通りと今の最善の手ということも考慮し、アルベルトは提案する。
ハルナたちも、その提案を受け入れた。

ルーシーたちは、明日の準備のためにと計画を練ることにした。




ハルナがテントを出ようとしたときに、何かを思い出したかのように急に立ち止まる。



――きゃっ!


その後ろを続いて出ようとした、一番最後のクリエがハルナの背中に鼻をぶつける。




「ところで、あなたのお名前は?」



ハルナが、緊張をほぐすように笑顔で問いかける。



「私は、アーリス。アーリス・ノーウェル」



「私は、ハルナよ。よろしくお願いしますね、アーリスさん」



ハルナは手を差し出し、アーリスはその手を握り返して握手をする。






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