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第二章 【西の王国】
2-45 騎士団1
しおりを挟むアルベルトとソルベティとシュクルスとアリルビートは騎士団長の部屋に通された。
アルベルトとシュクルスが騎士団の訓練が見たいということでソフィーネにお願いし、見せてもらうことになった。
オリーブとカルディは王宮精霊使いの方に興味があり、リリィを通じてそちらへ見学に行った。
「それでは、こちらへ」
アルベルトたちは、騎士団の一人に訓練場まで案内された。
壁には様々な武器が飾られている。
飾られた道具は、なんらかの功績をあげた人が身に着けていたものだろう。
それとは別に、傘立てのような場所には練習用の武器が置いてある。
アリルビートはそのうちの剣を一つ、手に取る。
数回素振りをしてその感触を確かめる。
訓練用のため、刃はついていない。
シュクルスがその様子をみて気になっていたため、アリルビートはその手にしていたものをシュクルスに渡した。
シュクルスも剣を眺めている。
すると、
「貴様!誰が勝手に触っていいといった!その道具は、騎士団が王国を守るために日々厳しい鍛錬をしている道具だ。お前たちが気軽に触れるものではないぞ!!」
――ガシャーン!
シュクルスは、その声に驚いて剣を落としてしまった。
「貴様……騎士の魂でもある道具に、なんということを……!!」
「す……すみません!?」
その隣にいたもう一人の騎士が、パートナーをなだめながら言う。
「そんなに触りたかったのか?……ならば、その道具を使わせてやろう。俺とひとつ……どうだ?」
明らかに騎士は、威嚇してきていた。
アリルビートも、シュクルスの実力はわかっていた。
「騎士様、口を挟む無礼をお許しください。その剣は私が勝手に持ち出してしまったものです。それをそこのシュクルスに手渡したのも私です。罰は私が受けます」
そういうと、騎士はアリルビートを人睨みする。
「そういうのは、どうでもいいのだ。私が見た時は既に、こいつが持っていた。それにその道具を、地面に落としたのもこいつだ。部外者は黙ってみておるがいい」
そういうと、男は同じ場所から剣を一本取り出した。
そのまま、剣先をシュクルスに向ける。
「さぁ、かかってこい。愚か者の実力を見てやろうぞ!」
シュクルスは覚悟を決め、両手で剣を構えて対峙する。
「ほほぉ。様にはなっておるな、だが……実力はどうかな?」
シュクルスは、相手の隙を探る。
が、まったくその様子は見えない。
(だとすれば、隙を作るまで)
「たぁっ!」
相手は、舐めているのか右手だけで剣を構え、その腕は前に突き出して伸び切っている。
シュクルスは、その体制からは弾き返し辛い同一方向の右から左に浅い角度で斜めに切り下ろした。
しかし、その軌道に手ごたえは感じない。
避けられてしまった。
「馬鹿正直に、剣を受けると思ったか?」
シュクルスの空いた右の腋に、剣の柄が叩き込まれた。
「ガハッ!!」
胸に激痛が走り、息が止まってしまう。
「おい、どうした……お前の力はそんなものか?」
「くっ……まだまだぁ!!」
何度も切りつけるが、まったく相手にならない。
しかも相手は、胴体ばかり狙っている。
明らかに、傷がばれない様にしていた。
攻防はこのまま五分間続いた。
が、勝敗は明らかだった。
最後には、シュクルスはフラフラな状態でかろうじて立っている。
そこに相手は剣にわざと打ち付ける。
手の握力が、その衝撃に耐えられず、手から離れてしまった。
それを見て男はシュクルスを、剣で突き飛ばそうとした。
だが、男の突きは、シュクルスには当たらなかった。
アルベルトは、その剣を蹴り上げ軌道を変えた。
「もう、勝負はついていますよ」
アルベルトは男にそう告げた。
「お……お前、俺の剣を!?」
アリルビートは、シュクルスの弾き飛ばされた剣を拾い男に向き合う。
「……次は、自分がお相手しますよ」
アリルビートはこうなった事態に責任を感じ、この男を叩きのめすことだけを考えていた。
しかし、ここまでだった。
「――おい、お前たち!そこで何をしている!?」
その声は騎士団長だった。
「なぜ返事をせぬ……もう一度聞くぞ?そこで何をしておるのだ?」
騎士団の男は、慌てて答える。
「はっ。この者たちは、勝手に手入れされている騎士団の道具に触れて、しかも地面に落としておりました……それと、少し”稽古”をしたがっておりましたので、それで騎士団の力を身をもって体験してもらおうと」
「稽古だと?ダメージが特に体幹部側面のみに集中してるようだが、これも稽古の一環か?」
その様子に違和感を覚えた騎士団長は、一方的なダメージについて確認する。
「この者が鍛えられていない部分を、身体でわからせるためにやったことでございます。稽古では言葉よりも、身体でわからせる方が早いと思いまして……」
「わかった。もうお前たちは下がれ。自分の業務に戻るがいい」
男二人は、胸に手を当てて礼をし、この場から立ち去っていった。
「客人よ、大丈夫か?」
「は……はい。大丈夫です……」
「そうか?念のため医務室で診てもらうといい……おい」
騎士団長は、後ろに付いている男に指示しシュクルスを医務室へ案内するように指示した。
肩を貸そうとしたが、シュクルスはそれを拒否し自分で歩いていった。
その様子をソルベティは黙ってみていた。
両手は血が滲みそうなくらい、力強く握られていた。
そんな様子をみて、騎士団長はソルベティに声を掛ける。
「すまなかった。もう少し来るのが早ければ……」
その言葉に、ハッとするソルベティ。
「いえ。私の弟が弱かったのです。稽古をつけていただいて、今頃は感謝しているでしょう」
何の感情も込められていない言葉に、騎士団長はその怒りを察する。
だが、もうこれ以上は何も言えない。
力が及ばなかったのは確かだった。
王選の付添いとしてやってきたが、その実力はまだまだ未熟だった。
これは本人が越えるしかない。
アルベルトもアリルビートもそのことは、充分わかっていた。
「それでは、また私の部屋に戻ろうか……」
そういって、ソルベティたちを連れて騎士団長は、自室へ戻っていった。
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