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第二章 【西の王国】
2-38 衣装合わせ
しおりを挟む翌日、精霊使いたちはまたハイレインの部屋に集められた。
今回は、付き添いの動向も許可されている。
招集された内容は、もちろん付き添いにも伝えてあった。
それが”衣装合わせ”ということも。
ハイレインのメイドが、衣装ケースを並べる。
そして、昨日の従者がハルナを見て頷く。
ハルナは昨日のうちに、全員に伝えていた。
”ハイレインの持ってくる衣装に決して驚かないように”……と。
当然、その前のやり取りは隠して。
運んできた衣装ケースが並べられ、メイド達はお辞儀をして退室する。
「さぁ、この中から気に入ったものを選ぶといい!」
そういうと、ハイレインは嬉しそうに衣装ケースの上にかぶせてあった布を一気に引き抜いた。
「……」
「うわぁ!」
「素敵!」
「うわぁ……」
それを目にした、四人の反応は様々だった。
それは、あのハイレインなら絶対に着なそうなこてこてのロリータドレスだった。
中には、ゴスロリと呼ばれるジャンルのものもある。
ハルナは思い出した。
フリマで、周りから似合わないから止められていたのに、自分の好みだと購入して一度も袖を通していない服が並べられていたことを。
まさに、そんな感じの衣装ケースの並び方だ。
ただ、一人だけ大はしゃぎしている人物がいる。
クリエだった。
彼女はこの中で一番身長が低い。
体系はスリムではなく、どちらかというとハルナよりだった。
夢のような服を見て、目の輝きが止まらない。
「こ、これ!これ着てみていいですか!?
笑顔でにっこりと答える、ハイレインはクリエのはしゃぎ具合に満足しているようだ。
エレーナはエレーナで、今まで自分では決して買うことのない服を目の前にして熟考していた。
この中で一番の拒否反応を見せていたのは、ルーシー。
(あ…ありない!?)
いつも、機能的な面と威厳を保つために軍用の制服を着用していた。
ソルベティも、同じような格好をしている。
どうやら、エレーナも決まったようだ。
衣装ケースの服とアクセサリーを何点か持って着替えに行った。
ハルナも、心を決めたようで衣装を持って着替えに行く。
ルーシーを見守る、ハイレイン。
その表情は、少し寂しげから怒りに変わる手前の表情だ。
「……悩ましいのはわかりますが、そろそろお決めにならないと」
そう、フォローするソルベティ。
「え……あ、そうですねいろいろあり過ぎて迷っちゃって……」
(なんで私だけ!?)
そんな思いも浮かんだが、ルーシーは名案を思い付く。
「ハイレイン様。このステキな衣装をこのソルベティにも着用させたいのですが……?」
――そう、道連れである
ハイレインの片目の表情が、不機嫌から明るい表情に変わるのがわかる。
「あ、あぁ。もちろん、構わないとも!」
その返事を聞き、ソルベティの身体がピクッと動いた。
ルーシーは、ホッと胸をなでおろす。
「さ、許可がでたわ。あなたも選ばさせてもらうといいわ」
表情は変えずに勝ち誇った口調で、ソルベティに告げる。
ようやく二人も、衣装を選び着替えるために退室した。
しばらくして四人の着替えが終わり、ハイレインの部屋に戻っていく。
そして……
――ぶぅふぉ!
ハイレイン思わず、口から吹き出してしまった。
クリエの姿が、ピンポイントにはまったらしい。
少し長めのスカートで肩とスカートの裾にふくらみがあり、白いタイツで登場する。
クリエは幼児体系のためハルナにはぱっと見で、お姉ちゃんのおさがりでの七五三かピアノの発表会に見えた。
今回のサイズはエレーナやルーシーたちの格好に合った衣装ばかりでクリエには大きすぎたのだった。
しかし、ハイレインは大喜びだった。
「うむ、いいぞ!そのままでも私は構わないが、サイズを合わせた方がよさそうだな……」
勿体なさそうにそう告げると、呼ばれたメイドがサイズをするために測りに来る。
次にハイレインが目を付けたのが、ルーシーだった。
嫌がっていた割には、一番似合っていた。
オフショルダーのワンピースドレスにアームカバーを付けており、大人の雰囲気が漂う容姿だった。
エレーナはワンピースで肩から胸元にかけてふわふわした素材が付けてあった。
袖はなく、ワンピースで丈は足首が見えるまでの長さだ。チョーカーと黒いリボンのカチューシャを付けている。
足元は紐で縛っているブーツだ。
ソルベティは、よくあるスカートがふんわりした素材で上半身がしっかりとした作りになっているワンピース。
薄手の生地を使ったボレロを羽織っており、その姿はルーシーにも負けていない。
ハルナは、よくあるワンピースを選んでいた。
しかし、それだけではとメイドの方が帽子を選んでくれてそれなりの格好にはなった。
これで、ようやく全員の衣装が決まった。
オリーブも勧められたが、今回の主役はエレーナということで上手く回避することが出来た。
エレーナも初めてのファッションに興奮気味で、オリーブが断ったことにホッとしていた。
「よし、全員の衣装が決まったようだな。後はこちらに任せてくれればいい。では、当日を楽しみにしていてくれ給え!」
一同は部屋の外へ出て、元の服に戻ろうとする。
その前にエレーナは、アルベルトの元へ行った。
「ねえ、アル。どうこの格好?初めてなんだけど、似合う?」
と、アルベルトの前でクルッと回って見せた。
そんな言葉が聞こえたハルナは、アルベルトの顔を見た。
すると、そんなに表情は変えていないが拒否反応のオーラが漂っていた。
だが、アルベルトもハルナの真剣な視線に気付いたのか、喉元まで来ていた言葉を飲み込み答えた。
「あ……良いんじゃ……ないかな?」
「えへへへ!そう思う?私もちょっと気に入ってるんだ!」
そういって、エレーナは元の服へ着替えに部屋を出た。
その後を追っていくようにハルナも付いて行くが、その前にアルベルトに礼を言った。
「有難うございます……ああいう時は褒めてあげた方がいいんですよ」
「面倒な性格ですね……」
「ふふふ。でも、きれいになるのはアルベルトさんも嬉しいでしょ?」
「(ゴホン)……まぁ、だらしないよりはいいですね」
「それでも、ああいう風に言ってあげてくださいね」
「わかりました、なるべくそのようにします」
その言葉に納得をして、ハルナも着替えようと先を急ごうとした。
だが、どこからか強い視線を感じる。
(……な、なに!?)
見渡すと、廊下の途中に”アドバイス”をくれた従者がハルナのことを見ていた。
恐る恐るハルナは近づいていく。
そして、近くなったころにハルナから声を掛けた。
「あの、昨日は……有難うございました。おかげで、ハイレイン様にも納得いただけるような衣装選びができました」
と、お辞儀をした頭をゆっくりとあげながら、相手の顔を見る。
「――はっ!あ、ハルナ様。わたくしあなた様のような原石に気付かず、その器量を見誤っておりました。これまでの失礼、お許しくださいませ!」
「え?な……どうしたんですか?顔をあげてください!」
ハルナは慌てて、相手の背中と肩に手を当てて深いお辞儀を正そうとした。
顔をあげたとき、その女性の顔は至極の笑みを浮かばせていた。
「あぁ、ハルナ様はなんてお優しい……こんな穢れたわたくしにも手を差し伸べてくださるなんて」
ハルナは心の中で引いていた。
この女性、怪しい薬でもやっているんじゃないかと。
その思いをぐっと抑えつつ、女性に問う。
「どうしたですか?何か昨日と、様子が違うようですが……」
すると女性は、待ってましたとばかりに答えた。
「昨日もハルナ様の興味にわたくしも、大いに共感するところがあり、もっとお近づきになりたいと思っておりました。ですが、今日の衣装合わせにおいて、群を抜くファッションセンスを見た時にわたくしの全てを奪われてしまいました……」
「あ……ありがとうございます」
ハルナはかろうじて、返事をする。
「いえ、ハルナ様からお礼など勿体のうございます!……あ、あの。できましたらハルナ様のシモベとして使って頂ければと思い……」
「え!?……あの、シモベとかではなく……その協力者とかお友達とかでいいんじゃないでしょうか?」
「あ……え……いいのでしょうか?」
「も……もちろんですよ!」
そう言って、笑顔を作って見せる。
内心は、踏んじゃいけないものを踏んだ気持ちにもなっていた。
「ところで、まだお名前お伺いしてなかったですよね?」
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「わたくし。エフェドーラ家のマーホン……”マーホン・エフェドーラ”と申します」
「マーホンさん、それじゃこれからよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ、お任せください!」
挨拶を交わすと、ハルナはやや足早に着替え部屋まで急いだ。
背中には、尋常じゃない汗が流れていた。
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