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第二章 【西の王国】
2-36 上長
しおりを挟むハルナ達は城を出て、宿泊施設戻った。
エレーナはその帰り際、エストリオのことを何度か見ていたが、今はそういう時ではないと判断して我慢した。
「ふー、ただいま!」
ベットの上に大の字で寝転ぶエレーナ。
その勢いでスカートの裾もめくれ上がり、女性にとってあられもない姿になっている。
こんな姿は、アルベルトには絶対に見せてはダメだとハルナは思った。
「っていうか、私のベットなんですけど!?」
「まぁいいじゃないのよ、こうやって王選の参加も無事決まったことなんだしさ!」
部屋の奥からソフィーネが出てきた。
「おかえりなさいませ、ハルナ様。これでようやく本来の流れに戻ることが出来ましたね」
「有難うございます、ソフィーネさん……だけど、もうなんだか終わりを迎えたような気持ちですよ。こんなにバタバタするなんて」
そして、この部屋にさらに人が集まってくる。
――バン!
ドアが勢いよく開いた。
「おかえりなさい、ハルナさん、エレーナ様!」
やってきたのは、オリーブとアルベルトだった。
「いろいろと大変でしたね」
アルベルトはハルナに気を使ってくれた。
「そうよ、何があったのか教えましょうか?」
いつの間にか、ベットの端に座り体裁を整えて気取って話すエレーナ。
祠の中の出来事、発表の場での騒動、リリィの辞退、コルセイルの過去。
エレーナは自分が見てないところも、見てきたかのように話す。
「……というわけなのよ」
その内容の濃さに二人は言葉を失い、せっかくソフィーネが淹れてくれたお茶がぬるくなってしまう程だった。
「ひとつ気になることが……」
そう切り出したのは、アルベルトだった。
「ずっと気になっていたのは、この件がルーシーさんやクリエさんの掴んでいた情報と同一の件だったのかということです」
「確かに……」
エレーナは、アルベルトの言葉に返す。
本人たちに確かめるのがいい……はずだったがあの日から、疎遠となってしまっている」
――コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。
開けるとそこにはメイヤが立っていた。
そしてメイヤは後ろに立つ人物に部屋に入るように勧める。
「……元気にしていたかい?エレーナ」
エレーナは、その声に驚き振りむく。
「お……お父様!!!」
エレーナはベットから立ち上がり、エストリオの元に駆け寄りその身体に抱き着く。
その姿を見て、アルベルトも立ち上がりお辞儀をする。
「エストリオ様、お久しぶりでございます」
「おぉ、アルベルトか。今回はエレーナの付き添いだったね。いつもエレーナを守ってくれて感謝する、ありがとう」
(親公認で、ポイントが上がりましたね。アルベルトさん!!)
そんなことを頭の中で思う、ハルナだった。
「ところで、ハルナさん」
ハルナは急に、エストリオから話しかけられてビクッとする。
「は、はい!」
「今回はハルナさんには、いろいろと頭が上がりません。本当にありがとうございます」
エストリオはハルナに向かって、深々と頭を下げる。
「よ……よしてくださいよ!こちらこそ、エレーナにもアーテリアさんにもすっごーくお世話になっていますし!」
ハルナは、焦って言葉を返す。
頭をあげ、エストリオは気付いていないハルナに説明した。
「今回の王選、ウェンディアさんの失踪により大荒れになる予測でした。それは先ほどのコルセイルのように、王国とのつながりを強めたいという貴族たちの野望で、王選に参加しようとしているものが多かったのです」
「で……でも、今回はリリィさんしか参加していなかったですよね?」
ハルナがエストリオに質問する。
「それは、事前にハルナさんに決まったからですよ。確かに推薦状は王都に来てから受け取っていますが、モイスティアからの報告ではハルナさんで問題ないかとの打診を事前に受けております」
「ハルナさんに決まっていなかった場合はどうなっていたのでしょうか?」
この質問はオリーブからだった。
「それについては、今回のように見極めを複数人で行う予定でした。その選別方法は、今回の”祠”の前に精霊使いとしての技術を競うことも考えておりましたね」
(予選も考えてたんだ……)
「……ですから、今回の騒動がそこまで大きくならずに済んだことも、見極めのときに素晴らしい結果を見せていただいたことにも感謝しております」
「え?……でも、結果はリリィさんになりましたよね?」
「あぁ。それですが、申し訳ございませんがハルナさんを利用させて頂きました……」
「利用……どういうこと?」
父親に怒りながらそう問いかけるエレーナ。
「王国側で、貴族たちの怪しい動きを掴んでいたからなのだ」
「それが、コルセイルさんだったわけですね?」
ハルナの問いに、エストリオは首を横に振る。
「コルセイルのガストーマ家は王の話しにもあった通り、先代から頼まれていたためどちらかというと保護対象であった。だから、今回コルセイルの発議の賛同者として見守ることにしたのだ」
「……ということは、他の貴族がガストーマ家を狙ってた?」
「流石だな、エレーナ。そういうことだ」
ハルナの頭にはサッパリ理解できていなかった。
「エレーナ、教えてもらってもいい?」
「やっぱり……つまりね」
ガストーマの領地は未だに他の貴族から狙われていた。
狙っている貴族の策略により、その土地の産物は市場に流通されていない。
だが、土地としては十分に良い土地であるため、奪ってから再度手を加えればよいと考えていた。
もし、リリィが王選の参加の権利を得られた場合は、協力した報酬として。
万が一リリィが王選の権利を得られなかった場合は、発議自体を王への反逆としてでっち上げ貴族の称号を奪えばその領地は奪えることになる。
ただ、今回リリィが辞退したことに焦ったコルセイルは、今までのことを話そうとしたため命を狙われたのだと推測した。
ガストーマ家はいま、コルセイル一人で管理している。
そのコルセイルがいなくなれば……
捕まったあの男たちも、本当の依頼者は知らないだろう。
そうすることにより、これを企てた貴族は手を汚さずガストーマの領地を何らかの手段で手に入れることを考えていたという推測だ。
「ふ……ふーん。その貴族も悪いやつね!!」
「エレーナの推測で、ほぼ当たっているだろうと王国でも見ているのです。そこでもやはり、ハルナさんの存在があったからこそ、他の貴族の息がかかった精霊使いが選ばれることを阻止できたのです」
「へ、へー……そうなんですね」
良く分かったような分からないようなハルナだった。
「でも、なんでそんなにお詳しいのですか?」
そこで、メイヤが初めて口を挟む。
「あら、エストリオ様は私たちの上長よ?」
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