66 / 1,278
第二章 【西の王国】
2-35 父親の影
しおりを挟む「そうか……そろそろ、お主には今までのことを話した方がよいだろう」
グレイネスはコルセイルに、話しかけた。
「実はお主の父、”ニールゼン”はお前のことを心配して、ワシのところに相談に来ておったのだ……」
コルセイルは自分の父親の話題が出てきたことに驚き、顔をあげて王をみる。
「お主はガストーマ家が現在の状況に至るまで、どのような原因があったと考えておるのか?」
「それは……、私の父が収入もないのに贅を尽くし続けた結果だと判断しています」
「それは、何か記録からの判断か?」
「いえ、幼い頃の記憶によるものです。あれほど賑やかだった家が、大きくなるにつれ人が減り生活水準も落ちていきました」
「そうか……それはちょうどお主の家が、他の貴族から圧力を受けてきた時期の話しだな」
――え?
コルセイルは驚く。
他の貴族から圧力を受けてきた?
自分が今まで、他の貴族から聞いた話とは異なっていた。
「これから話すことは、大精霊と大竜神に誓って全て真実だ。それを聞いたうえで、お主の考えをもう一度聞こう……」
コルセイルの父、ニールゼンは貴族でありながら農業や鉱物の生産を行い、領地の住民の暮らしていけるようにいつも手を尽くしていた。
甘い汁だけをすする貴族が多い中、中流以下の家からは多くの支持を集める存在だった。
それにより領地内の経済も安定し、豊かな生活を送ることが出来ていた。
”出来上がった土地を自分の領地にすれば手間が省ける”……そう考え出す貴族も出始める。
ニールゼンはそういった貴族に対しても、角が立たない様に水面下で戦っていたのだ。
それも、全ては領地内で暮らす者たちの安寧のために……
ある日、とある貴族がニールゼンに話を持ち掛けてくる。
相手は古く歴史のある貴族で政治的にも影響力を持つ家柄だった。
その家と婚姻関係を結び、お互いの家を大きくしていこうという案だ。
要するに政略結婚だった。
確かに相手は、歴史のある家ではあるが、ここ最近よい噂を聞かない。
それに最近生まれたばかりの長女に、そんな重荷を背負わせることなどできるはずがない。
ニールゼンは、できる限り相手を怒らせない様に気を使いながらこの話を断った。
だが、相手からすれば”断る”という選択肢は無かった。
小さな家の比較的新しい貴族が、自分たちの意見に逆らうことなどあってはならなかった。
そこからガストーマ家に対する嫌がらせが始まる。
領地内の主な収入源であった、農作物や鉱物の価格が急に下落し始めた。
取引先もそれについては、口を濁すだけだった。
ニールゼンは理由を察する。
しかし、コルセイルの幸せを考えれば、あのような提案は決して受け入れることなどできない。
今では二人の娘の父親になっていた。
なんとか、領地の住人や家族が幸せになる手を探した。
既に、手遅れで各方面においてガストーマ家の不利な状況に追い込まれていた。
月に一度、屋敷の中で領地内の住人を招待し、食べ物を持ち寄った賑やかなパーティーに参加する人数も徐々に少なくなっていった。
この領地では生きていけなくなり、他の地へ移住するものが増えていった。
「……ニールゼンはワシに、住民の移住先とお主ら姉妹の無事を頼まれたのだ。コルセイル、お主のことは特に心配しておったのだぞ」
コルセイルは初めて聞く話に、動揺を隠せなかった。
青年期、コルセイルは父親のことを嫌っていた。
反抗期も重なっていたこともあるが、家の力が衰退していくその様は、全て父親の責任だと思っていたからだ。
それに、王国から守られていた?
その事については、思い当たることがいくつかあった。
家の再興を決意し、それに向けて走り始めた頃、法律にギリギリ触れるか触れないかの取引等を行う時、急に相手から取引中止の連絡や連絡が全く取れなくなったことが何度かあった。
その時は、見捨てられたり仲間に入れてもらえなかったといった感想を持ったが、今考えてみればその後にその取引先だった相手の話は全く聞かない。
(もしかして……!?)
コルセイルは、一つの真実に気付く。
悪いことに手を染めない様に、王国から守られていたのだった。
「……コルセイル。お主は頑張ってきたのは知っている。それを利用しようとするものがおった、お主の家の領地を狙う者も多かった。今回の件もそうだ、調べたところによると、お主の失脚を狙って計画の表舞台に立たされていたのだ。その欲を利用されて……な」
――カチャ
ドアの一つが開き、エストリオが入ってくる。
その後ろには、コルセイルの妹でありリリィの母親の”マーグレット”がいた。
「マーグレット……」
妹の顔見て、思わず名前を口にした。
マーグレットはエストリオに背中を押され、姉の近くに行くように促される。
「お姉様……もう、やめましょう。無理に再興など果たさなくても、いいじゃないですか。そんな無理しているお姉様の姿を……私は見ていられません」
「マーグレット……お前は私のことを憎んでいるだろう?家のためにミヤマエンと結婚をさせてしまった。私は、妹に酷いことをしてしまった」
コルセイルは怯えた目で、マーグレットを見る。
「いいえ、憎んでなどいません。こうして、リリィも生まれました。幸せな家庭を持つことが出来たのです。それに……知っています」
コルセイルは驚く。
「お姉様は家のためにと言っていましたが、ガストーマの家のことは自分一人で責任を負うつもりだったのでしょ?だから私は裕福なミヤマエン家に嫁がせて、苦労しない様にと家を出させたのでしょ?」
「マーグレット……お前」
「私だって、いつまでもお姉様の後ばかり追っていたあの頃とは違うんです。私にもお姉様の荷物を少しは背負わせてください……」
二人は強く抱きあった。
二人はこの世に残された、ニールゼン・ガストーマの最後の家族なのだ。
その様子を周りは優しく見守っていた。
そこで、グレイネス王は再び確認した。
「コルセイルよ……もう一度問う。リリィは今回の王選を辞退をすると申しておる、これはリリィの意思だ。今回異議申し立てをした発議者のお主の意見を聞きたい」
コルセイルは、マーグレットの顔を見て頷く。
リリィには、優しい笑顔で見つめた。
そして、ここ最近にない落ちついた心持ちで、王の問いに対して答えた。
「……私は、リリィの意思を尊重し、王選の辞退を認めます」
その言葉を聞き、グレイネスは立ち上がってこの場に宣言する。
「――うむ。これをもって”リリィ・ミヤマエン”の正式参加者の辞退を認め、代わりに”ハルナ・コノハナ”を正式な王選参加者として決定する!」
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる