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山口 犬

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第二章  【西の王国】

2-35 父親の影

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「そうか……そろそろ、お主には今までのことを話した方がよいだろう」




グレイネスはコルセイルに、話しかけた。



「実はお主の父、”ニールゼン”はお前のことを心配して、ワシのところに相談に来ておったのだ……」




コルセイルは自分の父親の話題が出てきたことに驚き、顔をあげて王をみる。




「お主はガストーマ家が現在の状況に至るまで、どのような原因があったと考えておるのか?」


「それは……、私の父が収入もないのに贅を尽くし続けた結果だと判断しています」



「それは、何か記録からの判断か?」



「いえ、幼い頃の記憶によるものです。あれほど賑やかだった家が、大きくなるにつれ人が減り生活水準も落ちていきました」



「そうか……それはちょうどお主の家が、他の貴族から圧力を受けてきた時期の話しだな」




――え?



コルセイルは驚く。
他の貴族から圧力を受けてきた?
自分が今まで、他の貴族から聞いた話とは異なっていた。




「これから話すことは、大精霊と大竜神に誓って全て真実だ。それを聞いたうえで、お主の考えをもう一度聞こう……」







コルセイルの父、ニールゼンは貴族でありながら農業や鉱物の生産を行い、領地の住民の暮らしていけるようにいつも手を尽くしていた。
甘い汁だけをすする貴族が多い中、中流以下の家からは多くの支持を集める存在だった。


それにより領地内の経済も安定し、豊かな生活を送ることが出来ていた。



”出来上がった土地を自分の領地にすれば手間が省ける”……そう考え出す貴族も出始める。


ニールゼンはそういった貴族に対しても、角が立たない様に水面下で戦っていたのだ。
それも、全ては領地内で暮らす者たちの安寧のために……





ある日、とある貴族がニールゼンに話を持ち掛けてくる。


相手は古く歴史のある貴族で政治的にも影響力を持つ家柄だった。
その家と婚姻関係を結び、お互いの家を大きくしていこうという案だ。
要するに政略結婚だった。


確かに相手は、歴史のある家ではあるが、ここ最近よい噂を聞かない。
それに最近生まれたばかりの長女に、そんな重荷を背負わせることなどできるはずがない。


ニールゼンは、できる限り相手を怒らせない様に気を使いながらこの話を断った。


だが、相手からすれば”断る”という選択肢は無かった。
小さな家の比較的新しい貴族が、自分たちの意見に逆らうことなどあってはならなかった。




そこからガストーマ家に対する嫌がらせが始まる。

領地内の主な収入源であった、農作物や鉱物の価格が急に下落し始めた。
取引先もそれについては、口を濁すだけだった。


ニールゼンは理由を察する。
しかし、コルセイルの幸せを考えれば、あのような提案は決して受け入れることなどできない。
今では二人の娘の父親になっていた。


なんとか、領地の住人や家族が幸せになる手を探した。


既に、手遅れで各方面においてガストーマ家の不利な状況に追い込まれていた。



月に一度、屋敷の中で領地内の住人を招待し、食べ物を持ち寄った賑やかなパーティーに参加する人数も徐々に少なくなっていった。
この領地では生きていけなくなり、他の地へ移住するものが増えていった。





「……ニールゼンはワシに、住民の移住先とお主ら姉妹の無事を頼まれたのだ。コルセイル、お主のことは特に心配しておったのだぞ」



コルセイルは初めて聞く話に、動揺を隠せなかった。

青年期、コルセイルは父親のことを嫌っていた。
反抗期も重なっていたこともあるが、家の力が衰退していくその様は、全て父親の責任だと思っていたからだ。

それに、王国から守られていた?
その事については、思い当たることがいくつかあった。


家の再興を決意し、それに向けて走り始めた頃、法律にギリギリ触れるか触れないかの取引等を行う時、急に相手から取引中止の連絡や連絡が全く取れなくなったことが何度かあった。
その時は、見捨てられたり仲間に入れてもらえなかったといった感想を持ったが、今考えてみればその後にその取引先だった相手の話は全く聞かない。


(もしかして……!?)


コルセイルは、一つの真実に気付く。
悪いことに手を染めない様に、王国から守られていたのだった。



「……コルセイル。お主は頑張ってきたのは知っている。それを利用しようとするものがおった、お主の家の領地を狙う者も多かった。今回の件もそうだ、調べたところによると、お主の失脚を狙って計画の表舞台に立たされていたのだ。その欲を利用されて……な」





――カチャ


ドアの一つが開き、エストリオが入ってくる。
その後ろには、コルセイルの妹でありリリィの母親の”マーグレット”がいた。



「マーグレット……」


妹の顔見て、思わず名前を口にした。


マーグレットはエストリオに背中を押され、姉の近くに行くように促される。



「お姉様……もう、やめましょう。無理に再興など果たさなくても、いいじゃないですか。そんな無理しているお姉様の姿を……私は見ていられません」




「マーグレット……お前は私のことを憎んでいるだろう?家のためにミヤマエンと結婚をさせてしまった。私は、妹に酷いことをしてしまった」



コルセイルは怯えた目で、マーグレットを見る。




「いいえ、憎んでなどいません。こうして、リリィも生まれました。幸せな家庭を持つことが出来たのです。それに……知っています」



コルセイルは驚く。



「お姉様は家のためにと言っていましたが、ガストーマの家のことは自分一人で責任を負うつもりだったのでしょ?だから私は裕福なミヤマエン家に嫁がせて、苦労しない様にと家を出させたのでしょ?」



「マーグレット……お前」


「私だって、いつまでもお姉様の後ばかり追っていたあの頃とは違うんです。私にもお姉様の荷物を少しは背負わせてください……」





二人は強く抱きあった。
二人はこの世に残された、ニールゼン・ガストーマの最後の家族なのだ。



その様子を周りは優しく見守っていた。

そこで、グレイネス王は再び確認した。



「コルセイルよ……もう一度問う。リリィは今回の王選を辞退をすると申しておる、これはリリィの意思だ。今回異議申し立てをした発議者のお主の意見を聞きたい」




コルセイルは、マーグレットの顔を見て頷く。
リリィには、優しい笑顔で見つめた。


そして、ここ最近にない落ちついた心持ちで、王の問いに対して答えた。


「……私は、リリィの意思を尊重し、王選の辞退を認めます」




その言葉を聞き、グレイネスは立ち上がってこの場に宣言する。





「――うむ。これをもって”リリィ・ミヤマエン”の正式参加者の辞退を認め、代わりに”ハルナ・コノハナ”を正式な王選参加者として決定する!」


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