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第二章 【西の王国】
2-25 コルセイルの思惑
しおりを挟む「お……お父様!?」
エレーナは思わず、声をあげる。
まさか、自分の味方であるはずの親が今回の人選に異議を唱えるとは。
――もしかして、自分の娘が危険なことになるのを避けるため?
いや……”王国のために!”という性格ではないが、何でも経験をし自己研鑽をしなさいと育てられてきた。
こんな重要な経験ができることに、反対をするはずがない。
――誰かに弱みを握られている?
正義感が強く人の道に外れた行動を嫌う父親が、弱みを握られて操られるなんて信じられない。
そういう時にでも家族や王国に相談し、例え自分が不利になろうとも操られるような人物ではない。
エレーナの頭の中で激しく思考を回転させ、父親の行動の理由を探そうとする。
しかし、その時間は王の発言で止められてしまった。
「エストリオか。ならば、法律としては問題はないな。……して、今回の件に関する問題点と修正案を聞かせてもらおうか、コルセイルよ」
目を細めて、王はコルセイルに発言するように促した。
「はい……。今回の人選は四名のうち、三名は王国が推薦している同一人物がそれに承諾し招集に応じております。しかし、一名ほど王国で推薦した者以外で町の方からの推薦で選ばれておる人物がおります。こちらでその人物について調査しましたところ、つい最近になり精霊使いとして登録されております。これでは、重要な王選の試練の中において王子を守ることは難しいのではないかと進言いたします」
「なるほどのぉ。こちらの調べでは、その者は先日起きたモイスティアでの一件で活躍した人物の一人と聞いておる。仲間や住民にも配慮し十分資質ある人物であると判断しておるのだが?」
「その件につきましても、いささか不明な点もございます。あの混乱に陥れた者たちは、どこの者かも分からない怪しい者達です。もしかすると、その一件も仕組まれたものである可能性もございます」
「ふむ……コルセイル殿はその証拠を何か掴んでおるのか?」
「い……いえ。証拠を掴むまでには至っておりませんが、そういった疑わしきところがある人物を王選に参加させてしまうことが問題なのではないかと考えております」
騎士団長は、黙ってコルセイルを見守っている。
王宮精霊使いの長も、先ほどよりは気持ちを落ち着かせてその言葉を聞いていた。
「お主の言い分はわかった。では、今回どのようにするのが良いと思うか……既にその案も用意してあるのだろう?」
「はい、その通りございます。今回私の推薦します人物とそちらのハルナ殿を、どちらが本当に王選に参加すべきふさわしい人物か選んでいただくのはいかがでしょうか」
その話を聞いて、エレーナは怒りに身体が震える。
エレーナからすれば、勝手なことばかり言っているように思えるからだ。
あの時のあの苦しみをあの女性は、自作自演の可能性があると言っていた。
だが、エレーナには発言権はなくうえに、ハイレインからの”何もしなくていい”という言葉も気にかかっている。
一時の感情で状況を悪化させない様に、エレーナは深呼吸をして気持ちを落ち着かせて次の流れを待った。
「今回の賛同者である、大臣エストリオ。お主もこの意見に賛同していると考えて良いのか?」
「……問題ございません、王よ」
エストリオは胸に手を当てて、お辞儀をし問題ないということを行動で示した。
「わかった。では、コルセイルよ。お主が推薦する者の名を告げよ」
「私の紹介します精霊使いの名は”リリィ・ミヤマエン”でございます」
「ほほぉ。ミヤマエンか……確かお主の妹が嫁いだ先の家だったか?そのリリィとやらにはもちろん話はしておるのだろうな?」
「はい、もちろんです。よろしければ、今こちらにお呼びいたしますが?」
王と二人だけで話が進められていく。
周囲の者は、ただ黙って王の対応を見守るしかなかった。
「では、その者をこちらに連れてまいれ」
コルセイルは一度、お辞儀をし一旦部屋を出る。
そして、後ろにもう一人の精霊使いを連れて入室する。
王の前に立たせて、挨拶をさせた。
「お初にお目にかかります、王よ。私がリリィ・ミヤマエンです」
「リリィよ、話しは聞いておるな。お前自身は、今回の王選に参加することを承知しておるのか?」
王は、リリィの後ろにいるコルセイルに目をやる。
しかし、コルセイルは動揺することもなく平然とした態度でこの場に立つ。
「はい、承知しております。私も王国のお役に立てるように、努力してまいりました。今回このような機会を与えていただき、感謝しております」
「わかった。それでは、今回コルセイルの発議を受け入れ、【ハルナ・コノハナ】と【リリィ・ミヤマエン】のどちらが、王選の候補者にふさわしいか見極めを行うこととする!」
グレイネス王が、この場にいる全員にそう告げた。
このことにより、場は騒然とする。
一人だけ、うつむいたまま口元に笑みを浮かべるコルセイル。
この場の雰囲気が落ち着き始めてた頃を見計らい、コルセイルは王に告げる。
「王よ、私の案を受け入れていただいたことに感謝致します。それでは、後日この件に関して貴族や大臣たちにより話し合いを行い、どちらが候補者にふさわしいか話し合いの場を持ちたいと思いますがいかがでしょうか?」
ここまでくれば、コルセイルはリリィが候補者に選ばれることになると確信していた。
貴族の中には、自分たちの意見が反映されづらいこの王選の制度に不満を感じているものが多かった。
その者たちの数を取り込めば、貴族代表であるリリィが王選の候補者から外されることはない。
コルセイルは、今にもあふれ出す笑いを堪えることに必死だった。
この時のために様々な準備をしてきていたが、ここまで順調に事を運ぶことが出来たのは自分の計画の精度の高さがあってこそだと自分自身を称賛していた。
「うむ、それについては、ワシに妙案がある……」
コルセイルは、王のその言葉を聞き身体が固まった。
「あ……あの、話し合いで決めた方が良いのではないでしょうか?そうでなければ、皆も納得されないと思いますが……」
「コルセイル殿よ、口を慎みたまえ。王が妙案があると申されておるのだ」
騎士団長が、コルセイルの言葉を制する。
「ははっ、申し訳ございません……」
「コルセイル殿の話しも分からんではない。しかし、これは他人が決めることではなく、本人にその資質があるかどうかが重要なのだ。ワシはそのことに関して良い方法を持っておるのだ」
グレイネス王は立ち上がり、手を前に出してこの場にいる全ての者に告げる。
「本日この二名の者のどちらが王選の候補者に相応しいか見極めを行うことが決定した。その方法や日時については追って通知する!」
「「ははっ!」」
一同が胸に手を当てて、王にお辞儀をしその言葉を受諾した。
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