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第二章 【西の王国】
2-18 鉄壁の少女
しおりを挟む――カチャ
「どちら様でしょう?」
「あ……あの。わ、私……クリエ・ポートフといいます。こ……今回はご挨拶にお伺いしました……」
ソフィーネは怯えている小さなクリエを安心させるため、笑顔で部屋に招き入れる。
「どうぞ中へ、後ろの方もどうぞ」
「失礼します……」
クリエより一回りよりもう少し上の年齢の女性は、軽く頭を下げ部屋の中に入っていく。
ハルナがいる部屋の中に通すも、先ほどまでと様子が違っていた。
エレーナとルーシーは念のため他の部屋からベランダに身を潜めていた。
「あの……ハルナ様は、いつこちらにお着きになられたのですか?」
何か会話をと、話題を探っていたクリエがハルナに問いかける。
「私は、昨日こちらに到着しましたよ。クリエさん……すみません、クリエ様は本日到着されたんでしたっけ?」
小さい体で、気弱そうな雰囲気のため少しでも緊張をほぐしてもらおうと親しく声を掛けようとしたが、あったばかりのためなるべく失礼の無いようにとの思いで言いなおした。
「あの、ハルナ様……クリエで構いません。私なんて、そんな大したことないですし……」
顔を真っ赤にして、クリエが告げる。
「じゃあ、私もハルナでいいですよ。私だって、そんなに大した人間ではないので気軽にお話しできたらな……って思ってます」
クリエにそういうと、ハルナはにっこりと笑った。
「……よかった。やっぱり最初にご挨拶できたのハルナさんで良かったです!先ほど初めてお目にかかった時に、”この人は優しい方だな”って思ったんです。だけど、”カルディ”が家の順番があるからってハルナさんを最後にしたんですよ!」
たぶん、クリエは”言わなくてもいい”ことを言ったのだろうとハルナは感じる。
ハルナは家の関係性など、まったくわからないのでほとんどダメージはなかった。
――むぐぅっ!
さらに調子に乗って話そうとするクリエの口をカルディが後ろから両手で塞ぐ。
「……あの、失礼しました。ハルナ様、どうかお気を悪くされない様に。この通り、クリエ様は精霊使いとしても人としてもまだまだ未熟なお方。これからもぜひ、お付き合い頂けますようお願いいたします」
ハルナは、カルディは先ほどの挨拶の順番の件について気にしているのだと感じた。
家のこともそうだが、こちらの世界に来てまだ一年も経っていない。
分からないことだらけなのだから、まったくそういった作法については気にしていなかった。
むしろ、ハルナがそういうところを気にしなければならないのだと思っていた。
「大丈夫です、カルディさん。頭を上げてください。私も、知らないことが多いのでそういうところも含めてお付き合いしていただけると助かります」
よくわからないような言葉になってしまったが、ハルナなりの気を使ったことは相手には伝わっていた。
そのタイミングで、メイヤがお客様とハルナのお茶を用意してくれた。
ハルナはメイヤたちが淹れてくれる紅茶が好きだった。
苦過ぎず、良い香りで紅茶の味わいを楽しめる様に調節してくれているのだ。
自分でもやってみるが、渋みが出過ぎたり色だけ付いたお湯のようになったりとあの味わいが出せない。
フリーマスで使っている茶葉のため、安くはないだろう。
そう何度も無駄にして、もったいないことするなら美味しく淹れることができる人に任せた方が環境にも経済的にも良いと考え、途中から自分で淹れることをあきらめていた。
すると、ドアが開き人が入ってくる。
エレーナだった。
「こんにちは、クリエ・ポートフ様。わたくし、エレーナ・フリーマスと申します」
ハルナは驚く。
(あれ?ベランダにいたよ……ね?)
後から聞いた話だと、精霊を使って部屋にいるアルベルトを呼び出してシーツを使って自分の部屋まで戻ったようだった。
『ここ……二階だよ?』
とその時ハルナは口にしそうになったが、今が無事なので良しとした。
アルベルトも手助けしていたようなので、問題はないのだろう。
「初めまして、エレーナ様。エレーナ様は、ハルナさんと大変仲が良いとお聞きしておりますハルナ様のようなお方と友達なんて、とってもうらやましいです……」
あまり見慣れていないエレーナに対し、下にうつむきながら答えるクリエ。”友達”の部分は、クリエの本音が伺えた。
「え。じゃあ、友達になればいいじゃない」
「え?」
そのエレーナの発言に驚くクリエ。
「そうね……友達が増えるのはうれしいことだし……あ。もし、クリエさんが良かったらですけど」
「え!?ぜ……ぜひお願いします!!」
「よかったわね、ハルナ!」
そのとき、また新たにこの部屋に来客が訪れた。
ルーシーだった。
実は、エレーナが入ってきた時に入れ替わりで外に出て、ルーシーは再度部屋に入るタイミングを伺っていたのだった。
「あら……皆様お集りでしたのね?改めまして、私ルーシー・セイラムと申します。どうぞよろしく」
初めて会うような雰囲気を醸し出しながら、ルーシーが入室する。
「る……ルーシー様。初めまして……私……」
「存じ上げていますよ、クリエ様。……確か、”鉄壁の少女”でしたっけ?」
「その呼び方はお止め頂きたい……ルーシー様」
口を挟んだのは、クリエを見守っていたカルディだった。
「すみません……悪気があったわけではないのです。失礼しました」
「いいのです……ルーシー様。これも私が自分で越えなければいけない壁なのでしょう」
「あ……あの……」
ハルナが二人の間に入っていく。
「よろしければ、ルーシーさんもお茶……いかがですか?」
「あぁ。ありがたく頂戴します。ハルナさん」
ルーシーも、席に腰っ掛けるとメイヤが新しいお茶を持ってきてくれた。
そしてしばらくすると、全員の話しが弾んできた。
この中ではクリエが一番年下だった。年齢は十七歳だった。
三年前、ラヴィーネで精霊使いとなりその後、土の町に戻り実績を上げていく。
クリエと組むと、負傷者はいない。守備に関しては、完璧だった。
ただ、クリエは極端に恐れがひどかった。
その恐れる気持ちが過剰に反応し、鉄壁な守りを見せているのではないかといわれている。
そのためパーティを組む際には、別に攻撃要員を用意する必要がある。
しかし、同じレベルの場合クリエと組む場合は編成が難しいとされていた。
防御は良いが、経験を積んだ期間が同じくらいのメンバーだと攻撃力がそれについてこなかった。
その防御力の高さが次第に噂になっていき、上級者たちがクリエに声を掛けることが多くなってきた。
これにより評価が次第に上がっていき、今回の王選に選ばれるまでとなっていた。
(ということは……クリエ様は、ルーシー様と相性が良いのかも)
ソルベティはその話を聞いて、今はクリエのことを心の片隅にとどめておくことにした。
「大変唐突で申し訳ないのですが、皆様に聞いていただきたいお話しがあるのです……」
そう切り出したのは、クリエの後ろにいたカルディだった。
「この話は、皆様が信頼が置ける方たちと判断しましたのでお話しさせて頂きます」
ざわついていた部屋に無音の時間が訪れ、全ての意識がカルディに注がれる。
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