49 / 1,278
第二章 【西の王国】
2-18 鉄壁の少女
しおりを挟む――カチャ
「どちら様でしょう?」
「あ……あの。わ、私……クリエ・ポートフといいます。こ……今回はご挨拶にお伺いしました……」
ソフィーネは怯えている小さなクリエを安心させるため、笑顔で部屋に招き入れる。
「どうぞ中へ、後ろの方もどうぞ」
「失礼します……」
クリエより一回りよりもう少し上の年齢の女性は、軽く頭を下げ部屋の中に入っていく。
ハルナがいる部屋の中に通すも、先ほどまでと様子が違っていた。
エレーナとルーシーは念のため他の部屋からベランダに身を潜めていた。
「あの……ハルナ様は、いつこちらにお着きになられたのですか?」
何か会話をと、話題を探っていたクリエがハルナに問いかける。
「私は、昨日こちらに到着しましたよ。クリエさん……すみません、クリエ様は本日到着されたんでしたっけ?」
小さい体で、気弱そうな雰囲気のため少しでも緊張をほぐしてもらおうと親しく声を掛けようとしたが、あったばかりのためなるべく失礼の無いようにとの思いで言いなおした。
「あの、ハルナ様……クリエで構いません。私なんて、そんな大したことないですし……」
顔を真っ赤にして、クリエが告げる。
「じゃあ、私もハルナでいいですよ。私だって、そんなに大した人間ではないので気軽にお話しできたらな……って思ってます」
クリエにそういうと、ハルナはにっこりと笑った。
「……よかった。やっぱり最初にご挨拶できたのハルナさんで良かったです!先ほど初めてお目にかかった時に、”この人は優しい方だな”って思ったんです。だけど、”カルディ”が家の順番があるからってハルナさんを最後にしたんですよ!」
たぶん、クリエは”言わなくてもいい”ことを言ったのだろうとハルナは感じる。
ハルナは家の関係性など、まったくわからないのでほとんどダメージはなかった。
――むぐぅっ!
さらに調子に乗って話そうとするクリエの口をカルディが後ろから両手で塞ぐ。
「……あの、失礼しました。ハルナ様、どうかお気を悪くされない様に。この通り、クリエ様は精霊使いとしても人としてもまだまだ未熟なお方。これからもぜひ、お付き合い頂けますようお願いいたします」
ハルナは、カルディは先ほどの挨拶の順番の件について気にしているのだと感じた。
家のこともそうだが、こちらの世界に来てまだ一年も経っていない。
分からないことだらけなのだから、まったくそういった作法については気にしていなかった。
むしろ、ハルナがそういうところを気にしなければならないのだと思っていた。
「大丈夫です、カルディさん。頭を上げてください。私も、知らないことが多いのでそういうところも含めてお付き合いしていただけると助かります」
よくわからないような言葉になってしまったが、ハルナなりの気を使ったことは相手には伝わっていた。
そのタイミングで、メイヤがお客様とハルナのお茶を用意してくれた。
ハルナはメイヤたちが淹れてくれる紅茶が好きだった。
苦過ぎず、良い香りで紅茶の味わいを楽しめる様に調節してくれているのだ。
自分でもやってみるが、渋みが出過ぎたり色だけ付いたお湯のようになったりとあの味わいが出せない。
フリーマスで使っている茶葉のため、安くはないだろう。
そう何度も無駄にして、もったいないことするなら美味しく淹れることができる人に任せた方が環境にも経済的にも良いと考え、途中から自分で淹れることをあきらめていた。
すると、ドアが開き人が入ってくる。
エレーナだった。
「こんにちは、クリエ・ポートフ様。わたくし、エレーナ・フリーマスと申します」
ハルナは驚く。
(あれ?ベランダにいたよ……ね?)
後から聞いた話だと、精霊を使って部屋にいるアルベルトを呼び出してシーツを使って自分の部屋まで戻ったようだった。
『ここ……二階だよ?』
とその時ハルナは口にしそうになったが、今が無事なので良しとした。
アルベルトも手助けしていたようなので、問題はないのだろう。
「初めまして、エレーナ様。エレーナ様は、ハルナさんと大変仲が良いとお聞きしておりますハルナ様のようなお方と友達なんて、とってもうらやましいです……」
あまり見慣れていないエレーナに対し、下にうつむきながら答えるクリエ。”友達”の部分は、クリエの本音が伺えた。
「え。じゃあ、友達になればいいじゃない」
「え?」
そのエレーナの発言に驚くクリエ。
「そうね……友達が増えるのはうれしいことだし……あ。もし、クリエさんが良かったらですけど」
「え!?ぜ……ぜひお願いします!!」
「よかったわね、ハルナ!」
そのとき、また新たにこの部屋に来客が訪れた。
ルーシーだった。
実は、エレーナが入ってきた時に入れ替わりで外に出て、ルーシーは再度部屋に入るタイミングを伺っていたのだった。
「あら……皆様お集りでしたのね?改めまして、私ルーシー・セイラムと申します。どうぞよろしく」
初めて会うような雰囲気を醸し出しながら、ルーシーが入室する。
「る……ルーシー様。初めまして……私……」
「存じ上げていますよ、クリエ様。……確か、”鉄壁の少女”でしたっけ?」
「その呼び方はお止め頂きたい……ルーシー様」
口を挟んだのは、クリエを見守っていたカルディだった。
「すみません……悪気があったわけではないのです。失礼しました」
「いいのです……ルーシー様。これも私が自分で越えなければいけない壁なのでしょう」
「あ……あの……」
ハルナが二人の間に入っていく。
「よろしければ、ルーシーさんもお茶……いかがですか?」
「あぁ。ありがたく頂戴します。ハルナさん」
ルーシーも、席に腰っ掛けるとメイヤが新しいお茶を持ってきてくれた。
そしてしばらくすると、全員の話しが弾んできた。
この中ではクリエが一番年下だった。年齢は十七歳だった。
三年前、ラヴィーネで精霊使いとなりその後、土の町に戻り実績を上げていく。
クリエと組むと、負傷者はいない。守備に関しては、完璧だった。
ただ、クリエは極端に恐れがひどかった。
その恐れる気持ちが過剰に反応し、鉄壁な守りを見せているのではないかといわれている。
そのためパーティを組む際には、別に攻撃要員を用意する必要がある。
しかし、同じレベルの場合クリエと組む場合は編成が難しいとされていた。
防御は良いが、経験を積んだ期間が同じくらいのメンバーだと攻撃力がそれについてこなかった。
その防御力の高さが次第に噂になっていき、上級者たちがクリエに声を掛けることが多くなってきた。
これにより評価が次第に上がっていき、今回の王選に選ばれるまでとなっていた。
(ということは……クリエ様は、ルーシー様と相性が良いのかも)
ソルベティはその話を聞いて、今はクリエのことを心の片隅にとどめておくことにした。
「大変唐突で申し訳ないのですが、皆様に聞いていただきたいお話しがあるのです……」
そう切り出したのは、クリエの後ろにいたカルディだった。
「この話は、皆様が信頼が置ける方たちと判断しましたのでお話しさせて頂きます」
ざわついていた部屋に無音の時間が訪れ、全ての意識がカルディに注がれる。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる