44 / 1,278
第二章 【西の王国】
2-13 仲直り
しおりを挟む「――っと、ただいま!……あれ?」
見渡すと、ここにいる全員が軽食をとっている。
ハルナは二つ目のサンドイッチを口に運ぼうとしていたところだった。
「お帰り、随分と長くかかったんだね……それでどうだった?」
ハイレインは手にしていた紅茶のカップを皿の上に置いて、ディグドに問いかけた。
精神の世界と現実の時間の流れは少々違うらしい。
ほんの二~三十分と思っていたが、三時間以上は経過していた。
ディグドはハルナの肩の上に乗り、一息ついた。
この場の全員が、ディグドの言葉を待つ。
「ハルナさん、そのサンドイッチ食べながらでいいから……」
ハルナは、サンドイッチをずっと手に持っていたらしい。
「で、エレーナさんの精霊と話しすることができたよ。まず、エレーナさんの不調の原因は契約した精霊さんの負の感情がエレーナさんの身体に感応して起きたものだと思う」
「私の……精霊様が?」
思わず、エレーナが驚きの声をこぼす。
「そう。まずは聞いてきたことを話すから、そこから考えて欲しいんだ」
そういってディグドは、エレーナの精霊が思っていたことをここの全員に話して聞かせた。
最初の契約が成立される前の話しから、先日に起きたあの事件のことまで。
今までの思いが積み重なり、今回の問題に発展したと思われる。
当然ながら、その話に一番ショックを受けていたのはエレーナだった。
毎朝、精霊に話しかけているし大切にしていると思っていた。
自分の精霊がそんな悩みを抱えていたことも知らずに。
「はぁ……私って本当にダメね」
そんなことないと、全力で否定したのはハルナとオリーブ。
しかも、全く同じタイミングだった。
「その二人の言う通りだ、エレーナ。お前自身がそんなに落ち込むような話ではない。それよりも、大切なのはこれからじゃないのか?」
「そうだよ。とにかく、エレーナは悪くないんだ。ではその精霊が悪いかといえばそうでもないと思う。精霊とはいえ意識があってそれぞれに考え方もあるんだ。他の生き物と何も変わらないんだよ。だから、こういう時は話し合うことが重要だと思うんだけど……どうかな?」
ディグドは、エレーナにそう告げた。
しばし、自分の胸に手を当てて考え込むエレーナ。
「……わかりました、話し合ってみたいと思います。でも、どうやって、話をすればいいんでしょうか?」
そこは任せてほしい!とディグドが声をあげようとした瞬間……
「あ、私の力はつかえないかなぁ!」
ハルナの反対の肩から現れたのはフウカだった。
「あ!この前のギガスベアの時のように、みんなで話すことができるの!?」
「多分ねぇ……できるよ!」
――ガタッ!
「ちょ……ちょっと待て、待て!お前たちは一体、何の話しをしておるのだぁ!?」
ハイレインはその場で立ち上がり叫んだ。
目の前の小娘たちは、ありえない能力の話題を平気でしている。
精霊使いの誰もが、一度は望んだことのあるあこがれの能力。
――精霊との会話
自分でさえ、ようやくディグドの力を借り仲介してもらっているのに……
「あ、あの……」
驚いたハイレインを見て、恐る恐るギガスベアの時の話をするハルナ。
フウカは意識ある生物と交流ができることを伝えた。
「というと、あれか?お前の精霊……フウカは、精霊と話しが出来て、それをみんなに伝えられる術があると!?」
これには多少余裕のあったディグドですら、開いた口が塞がらなかった。
「はい。ハルナの精霊であるフウカ様は風の精霊でもあるため、フウカ様が聞かれた音をそのまま風で振動させみんなに伝えることが出来るようです……」
そう、付け加えたのは実際にその場にいたエレーナだった。
「……ふふ、うふふふ、わははははは!もう驚きなどしない、私とて大精霊様の加護を受けた精霊使いなのだ!こんな……これしきの事で!」
そう告げるハイレインの目は、泳いでいた。
「そうだよ、ハイレイン……僕も同じ気持ちさ。だが、これも相手の意思が聞きとれて、風の精霊だからこそなんだろうね」
「なんか……すみません」
何故か謝るハルナだった。
「それじゃ、呼びますね……」
エレーナは、杖を手に取り精霊を呼び出す。
申し訳なさそうに、光が球の形を成して空中に現れた。
『あの……ごめんなさい……』
これがまず初めに、エレーナの精霊から発せられた言葉だった。
「あの……契約者からとしても、ご迷惑をかけてすみませんでした」
「もう、それはいい。それよりも君の精霊が暴走した理由はディグドから聞いたことで間違いないね?」
ハイレインはエレーナの精霊に、問いかけた。
『はい……うらやましかったんです。人気があって、いつも周りに誰かがいて……ずっと、その中心になりたかった
「でも、それって契約の前の話しだったよね?」
そこに気付いたのはオリーブだった。
「……それについては、思い当たるところがあるのよ」
と、エレーナ
「時々夢を見ていたの、その場面の。ずっと自分の昔のことかと思っていたけど、繋がってたから私にも見えたのね……きっと」
「それはありあるかもしれないね。特に契約している意識を持った精霊で、太いチャネルで繋がっていればそういうことも起こりそうだね」
「そして、思い当たるところがあるっていうのは……フウカ様のことよ」
名前を呼ばれたフウカは驚いた。
「夢の中で見た、精霊で少し意地悪っぽく対応していた精霊がいたの。それがフウカ様の雰囲気にそっくりだったわ」
「どうなの?フーちゃん、覚えてる?」
「ン―……おぼえてないかな?」
さらにエレーナの推測は続く。
「契約してまだ3年目だけど、今まではこんなことなかったもの。はっきりと覚えているのは、ハルナ……あなたが来た以降なのよ」
ハルナが来てからの日々は、とても慌ただしい日々だった。
ただ、エレーナ自身にもハルナとの差が付き始めているんじゃないかと焦っていたこともあった。
今となってはわからないが、それもエレーナの精霊のせいなのかも知れない。
「ということから、フウカ様がうちの精霊様の気にしてた精霊じゃないかと思ったのね……半分以上は勘なんだけどね」
「それについては、ご自身に確認するのがいいと思うんだけど……ただ、フウカさんは覚えていないみたいだけどね」
ハイレインはそう、提案してエレーナは自身の精霊に確認する。
「……どうなの?」
『多分、そうだと思う。あの頃は名前もないし……ただ、この感覚は間違いないと思う……』
エレーナの精霊は、申し訳なさそうに答えた。
「で、フーちゃんはどうなの?怒ってないの?」
ハルナがフウカに問いかける。
「怒るも何も、覚えてないし……これから仲良くすればいいんじゃないかな!!」
「……いいアイデアだね!」
ディグドもフウカの案に賛成し、ハイレインも目を閉じて承諾するように頷いている。
「……アナタはどうなの?」
エレーナは自分の精霊に確認する。
『フウカちゃんが良いなら……ぜひ』
――パン!
「よし、決まりね!!」
ハルナが手を叩いて締めたあと、部屋中に自然と拍手がわき起こった。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる