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第二章 【西の王国】
2-13 仲直り
しおりを挟む「――っと、ただいま!……あれ?」
見渡すと、ここにいる全員が軽食をとっている。
ハルナは二つ目のサンドイッチを口に運ぼうとしていたところだった。
「お帰り、随分と長くかかったんだね……それでどうだった?」
ハイレインは手にしていた紅茶のカップを皿の上に置いて、ディグドに問いかけた。
精神の世界と現実の時間の流れは少々違うらしい。
ほんの二~三十分と思っていたが、三時間以上は経過していた。
ディグドはハルナの肩の上に乗り、一息ついた。
この場の全員が、ディグドの言葉を待つ。
「ハルナさん、そのサンドイッチ食べながらでいいから……」
ハルナは、サンドイッチをずっと手に持っていたらしい。
「で、エレーナさんの精霊と話しすることができたよ。まず、エレーナさんの不調の原因は契約した精霊さんの負の感情がエレーナさんの身体に感応して起きたものだと思う」
「私の……精霊様が?」
思わず、エレーナが驚きの声をこぼす。
「そう。まずは聞いてきたことを話すから、そこから考えて欲しいんだ」
そういってディグドは、エレーナの精霊が思っていたことをここの全員に話して聞かせた。
最初の契約が成立される前の話しから、先日に起きたあの事件のことまで。
今までの思いが積み重なり、今回の問題に発展したと思われる。
当然ながら、その話に一番ショックを受けていたのはエレーナだった。
毎朝、精霊に話しかけているし大切にしていると思っていた。
自分の精霊がそんな悩みを抱えていたことも知らずに。
「はぁ……私って本当にダメね」
そんなことないと、全力で否定したのはハルナとオリーブ。
しかも、全く同じタイミングだった。
「その二人の言う通りだ、エレーナ。お前自身がそんなに落ち込むような話ではない。それよりも、大切なのはこれからじゃないのか?」
「そうだよ。とにかく、エレーナは悪くないんだ。ではその精霊が悪いかといえばそうでもないと思う。精霊とはいえ意識があってそれぞれに考え方もあるんだ。他の生き物と何も変わらないんだよ。だから、こういう時は話し合うことが重要だと思うんだけど……どうかな?」
ディグドは、エレーナにそう告げた。
しばし、自分の胸に手を当てて考え込むエレーナ。
「……わかりました、話し合ってみたいと思います。でも、どうやって、話をすればいいんでしょうか?」
そこは任せてほしい!とディグドが声をあげようとした瞬間……
「あ、私の力はつかえないかなぁ!」
ハルナの反対の肩から現れたのはフウカだった。
「あ!この前のギガスベアの時のように、みんなで話すことができるの!?」
「多分ねぇ……できるよ!」
――ガタッ!
「ちょ……ちょっと待て、待て!お前たちは一体、何の話しをしておるのだぁ!?」
ハイレインはその場で立ち上がり叫んだ。
目の前の小娘たちは、ありえない能力の話題を平気でしている。
精霊使いの誰もが、一度は望んだことのあるあこがれの能力。
――精霊との会話
自分でさえ、ようやくディグドの力を借り仲介してもらっているのに……
「あ、あの……」
驚いたハイレインを見て、恐る恐るギガスベアの時の話をするハルナ。
フウカは意識ある生物と交流ができることを伝えた。
「というと、あれか?お前の精霊……フウカは、精霊と話しが出来て、それをみんなに伝えられる術があると!?」
これには多少余裕のあったディグドですら、開いた口が塞がらなかった。
「はい。ハルナの精霊であるフウカ様は風の精霊でもあるため、フウカ様が聞かれた音をそのまま風で振動させみんなに伝えることが出来るようです……」
そう、付け加えたのは実際にその場にいたエレーナだった。
「……ふふ、うふふふ、わははははは!もう驚きなどしない、私とて大精霊様の加護を受けた精霊使いなのだ!こんな……これしきの事で!」
そう告げるハイレインの目は、泳いでいた。
「そうだよ、ハイレイン……僕も同じ気持ちさ。だが、これも相手の意思が聞きとれて、風の精霊だからこそなんだろうね」
「なんか……すみません」
何故か謝るハルナだった。
「それじゃ、呼びますね……」
エレーナは、杖を手に取り精霊を呼び出す。
申し訳なさそうに、光が球の形を成して空中に現れた。
『あの……ごめんなさい……』
これがまず初めに、エレーナの精霊から発せられた言葉だった。
「あの……契約者からとしても、ご迷惑をかけてすみませんでした」
「もう、それはいい。それよりも君の精霊が暴走した理由はディグドから聞いたことで間違いないね?」
ハイレインはエレーナの精霊に、問いかけた。
『はい……うらやましかったんです。人気があって、いつも周りに誰かがいて……ずっと、その中心になりたかった
「でも、それって契約の前の話しだったよね?」
そこに気付いたのはオリーブだった。
「……それについては、思い当たるところがあるのよ」
と、エレーナ
「時々夢を見ていたの、その場面の。ずっと自分の昔のことかと思っていたけど、繋がってたから私にも見えたのね……きっと」
「それはありあるかもしれないね。特に契約している意識を持った精霊で、太いチャネルで繋がっていればそういうことも起こりそうだね」
「そして、思い当たるところがあるっていうのは……フウカ様のことよ」
名前を呼ばれたフウカは驚いた。
「夢の中で見た、精霊で少し意地悪っぽく対応していた精霊がいたの。それがフウカ様の雰囲気にそっくりだったわ」
「どうなの?フーちゃん、覚えてる?」
「ン―……おぼえてないかな?」
さらにエレーナの推測は続く。
「契約してまだ3年目だけど、今まではこんなことなかったもの。はっきりと覚えているのは、ハルナ……あなたが来た以降なのよ」
ハルナが来てからの日々は、とても慌ただしい日々だった。
ただ、エレーナ自身にもハルナとの差が付き始めているんじゃないかと焦っていたこともあった。
今となってはわからないが、それもエレーナの精霊のせいなのかも知れない。
「ということから、フウカ様がうちの精霊様の気にしてた精霊じゃないかと思ったのね……半分以上は勘なんだけどね」
「それについては、ご自身に確認するのがいいと思うんだけど……ただ、フウカさんは覚えていないみたいだけどね」
ハイレインはそう、提案してエレーナは自身の精霊に確認する。
「……どうなの?」
『多分、そうだと思う。あの頃は名前もないし……ただ、この感覚は間違いないと思う……』
エレーナの精霊は、申し訳なさそうに答えた。
「で、フーちゃんはどうなの?怒ってないの?」
ハルナがフウカに問いかける。
「怒るも何も、覚えてないし……これから仲良くすればいいんじゃないかな!!」
「……いいアイデアだね!」
ディグドもフウカの案に賛成し、ハイレインも目を閉じて承諾するように頷いている。
「……アナタはどうなの?」
エレーナは自分の精霊に確認する。
『フウカちゃんが良いなら……ぜひ』
――パン!
「よし、決まりね!!」
ハルナが手を叩いて締めたあと、部屋中に自然と拍手がわき起こった。
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