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第二章 【西の王国】
2-9 パズルのピース
しおりを挟む「到着でございます、ハルナ様」
「有難うございます、長旅お疲れさまでした」
「それでは、荷物はわたくしが運んでおきますので、メイヤ様は手続きをお願いしても?」
「はい、ではハルナ様……参りましょう」
メイヤは馬車の扉を開け、ハルナに降りる様に促す。
足場の段差を数段降りて、ハルナは初めて王都の地に降りた。
続いてメイヤが降りてきて、エントランスの近くにいるメイドにティアドから預かった書簡を手渡し取次ぎをお願いする。
メイドはその書簡を持ち、建物の奥へと消えていった。
馬車の方では、ソフィーネは重い荷物を軽々と運んでいる。
次に乗り込んで下ろせば、荷物降ろしの作業はお終いのようだ。
同じタイミングで、先ほどのメイドが白いローブを羽織った他の人物を前にして戻ってくる。
その人物はやや早歩きで、何か急いでいる感じがした。
「ハルナ様……でしょうか。我が室長がお呼びですので、お部屋にお連れする前にご案内させて頂きます」
その人物はこちらに伺うともなく、勝手に物事を進めていく。
相手は、自分よりも格下であると言わんばかりに。
メイヤは、アーテリアからの書簡をこちらの室長に手渡すように言われていたため手間が省けると判断した。
「ハルナ様、ご一緒しますので参りましょう」
その言葉にうなずき、ハルナは白いローブの人物の後を追って進んでいく。
時間は少し戻り、別の場所――
「それで……お前は、この人物を知っているのか?」
再度ハイレインは、エレーナに問いかける。
知っているが、あのような別れ方をしどのような顔で会えばよいのか。
一方で知らない場所で、ハルナと一緒という安心感もある。
葛藤しているエレーナに、厳しい声が飛んできた。
「……何故黙っておる。室長様の問いに答えなさい!」
ハイレインの隣にいる人物から、脅しを込めた声で返答を急かされる。
「……はい。知っております」
「そうか……」
ハイレインは何か先ほどまでとは違う、エレーナの波立つ感情を読み取る。
(もしかして原因は……これか?)
「よし。ハルナとやらをここに通せ」
「畏まりました……」
部屋に伝えに来た従者はお辞儀をし、ハルナをこちらの部屋に誘導しに戻った。
「お前は、そのハルナとやらと仲が悪いのか?」
「いえ……悪いというか……良いというか」
そんなはっきりしない返答に対し、オリーブが答える。
「そのようなことはございません!先日のモイスティアの事件の時も、お二人はとても活躍されていたと聞いております!そのようなお二人の仲が……悪いはずが……悪いなんて信じられません……」
オリーブが勝手に発言したことを、側近の従者はまた苛立ちを覚えるが、ハイレイン自身は喜んでいた。
「そうか、お前たちは……信頼されているのだな」
ハイレインは、ほんの一瞬仲間のことを思い出し、自分の過去を懐かしんだ。
家や貴族のしがらみもなく、ただ仲間と旅をしていた日々。
決して楽なものではなかったが、信頼し助け合い目的を達成していく。
あの充実感は、もう久しく味わっていない。
(いや、もう味わうことはできないだろうな……)
そんなことを感じながら、次の言葉を発する。
「そういえば、先ほどガブリエル様にお会いした……いや、治癒してもらったと言ったか?その後には、何か変化を感じなかったか?」
「いいえ、特には何も。個人的に気になっていることですが……」
「なんだ?何でもいい、言ってみろ」
片目を出した方の瞳からは、喜びの感情が伺える。
今の周りの従者は気にし過ぎているのか、ハイレインに対して自分の意見を言わない。
今日王都についたばかりのこの娘たちは、気軽に何でも話しかけてくる。
それがハイレインにとっては、うれしい出来事だった。
「はい。痛み出したのは、指輪を付けてからなのです。この指輪は母親のアーテリアが所有しているものでした。以前この指輪を付けさせて頂いたときは、外すことが出来たのですが、今では外すことが出来ません」
――!
「外せ……ないと?」
「はい……」
エレーナの指輪が外せないことは、初めて聞く情報だった。
勿論、指輪が外れない理由は知っている。ハイレインの指に付けられた指輪もそうだから。
ハイレインは年齢の割には豊満な胸の前で、腕を組んで考える。
(外れない指輪……精霊の暴走……ガブリエル様との接触……)
キーワードが頭の中で、パズルのピースのように存在する。
ただ、それら全てを繋げる理由がどうしても見当たらない。
(引っかかる……何か見落としていないか……)
――あ
ハイレインは、足りなかったパズルのピースを探すためにひらめいた。
「お前はどうやって――」
と、その時……
「――失礼します。ハルナ様をお連れしました」
その言葉にハイレインの発言は途切れてしまった。
側近の者が、その従者に入室の許可を出す。
従者の後を追って、二人の人物が扉の陰から姿を現す。
窓からの光によって、その表情が映し出された。
ハイレインはエレーナからハルナの方へ向き直し、客人に対して挨拶する。
「ようこそ、ハルナ。私がこの施設を管理する総責任者のハイレイン・ミカだ」
そういって、ハイレインは握手を求める手を差し伸べる。
「初めまして、ハイレイン様。ハルナと申します、よろしくお願いします」
ハルナは、ハイレインの差し出された手を取り挨拶する。
ハイレインは手を握ったまま、その後ろの人物に声を掛けた。
「お前は……メイヤ……か?」
メイヤはスカートの端をつまみ、一礼する。
「ご無沙汰しております、ハイレイン様。只今、フリーマス家でお世話になっております」
「そうかそうか!今は、フリーマスの家にいるのか!……ん?なぜ、モイスティアから来たのだ?」
メイヤはそう来ると思い、アーテリアからの書状をハイレインに手渡した。
本来なら、側近の従者が受け取るのだが、今回は直接ハイレインが受け取る。
従者たちは、エレーナの際には反抗的なオーラを出していたがハルナの時には全くその気配を出していなかった。
それは、その後ろに元諜報員であるメイヤがいたことを知っていたからだ。
貴族たちは知っている。
諜報部に圧力をかけ、その結果その家が衰退してしまった過去を。
彼らは、”なんでも”知っている。
諜報部に歯向かうことがどういう結末になるか、間接的にも知ってしまった。
それに加え、武力でも敵わないことも知っている。
そこから貴族の間では、”諜報部には目を付けられない様に”という風潮が広まっていった。
ゆえに、ハルナの行動が不愉快であっても元諜報員をその後ろに付けてきたものに対して、それを表情や口に出すものはいなかった。
ハイレインはその書状を開き、読み始めた。
……
「そうか……」
読み終えて、書状を畳む。
ハイレインは先ほどの疑問とは別に、もう一つ追加したいパズルのピースを増やすべくエレーナに質問する。
「先ほどお前に仲が良いか悪いかを聞いたが、聞き方を変えよう」
ハルナはその言葉にきょとんとした顔で見つめる。
「――エレーナ。お前は、この”ハルナ”が憎いのか?」
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