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第二章  【西の王国】

2-7 新たな使い手

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「それでは、ハルナさん。気を付けてね」


「はい!行ってきますティアドさん!」


「ソフィーネも、メイヤさんもお頼みしますね。……それと、ほどほどにね」





ティアドは優しく笑い、二人にハルナの安全をお願いした。
二人のメイドは互いの顔を見ずに、ティアドに挨拶を返した。




「「お任せください、ティアド様」」




なんだかんだいって、仲は良さそうだ。
ハルナは、なんで仲が悪いのか聞いてみた。

二人は全く同じ理由を告げた。




「「向こうが勝手に突っかかってくるのです!」」




特に問題も起きていないので、ティアドとハルナはこのまま放置することにした。

こう見えても、二人の息はぴったりだった。







先日のラヴィーネからの帰り道、コボルドの集団に遭遇した。


コボルト自体はそんなに戦闘力は高くはない。警備兵や精霊使いの初期の討伐対象としてよく依頼をう受ける。
ただ、中には精霊の力を使うものがいる。大きな数で集団で行動するコボルドには精霊の力を使うものがいると考えられている。

棍棒や他の旅人たちから奪った装備を持つものもいるが、熟練の技を持つ人間……しかも統率された集団となるなと、いくら数を集めても人間には敵わない。
そこで人間に対抗できる集団に集まり、その集団の数が上がっていく。その中心にいるのが精霊の力を操るコボルドだ。

遭遇したコボルドには、土の力を操るコボルドがいた。
他のコボルドたちの中には、人間の装備をしているものもいた。
ということは、どこかの人間は襲われてしまったのだ。



二人はティアドに確認し、掃討する許可を得る。

ハルナも出て行こうとしたが、ティアドに止められメイド二人に任せることにした。



結果は……圧勝。




その動きは、流れる様な動きで次々とコボルドをこの世から消して行く。
メイヤは、雑兵をメインに狙っていく。
くるくると回るスカートの裾は、踊りを踊っているかの様にも見える。

危険と感じたコボルドの長は、メイヤをメインに狙って礫をぶつけて行く。
が、その演舞の邪魔をすることはできなかった。

コボルドの長の止めはソフィーネが刺したが、その討伐した数は2:1でメイヤの勝利だ。
どうやら、囮かつ危険度を減らす役を買って出た様だ。


終わった後のメイヤは、息切れすら起こしていない。

とはいえ、ソフィーネもなかなかのものだったことは言うまでもない。

囮で引きつけてもらってたとはいえ、途中からは完全にソフィーネにターゲットは変わっていたが、全く問題はなかった。

二人は馬車に積んでいた樽の水で、手についたコボルドの体液を流し綺麗な布で水滴を拭き取った。



メイヤは、相手を何体倒したかは気にしていない。
しかしソフィーネが帰りの馬車の中で愚痴愚痴とメイヤに絡んでいた。
メイヤ自身は、少しは技術差を見せつける意図はあっただろう。
しかし、ソフィーネだからこそ安心して背中を預けることができていた。
ティアドが言うには、アレがメイヤのソフィーネの鍛え方なのだという。十分にソフィーネの、過去の性格を理解してのことなのらしい。


ハルナは、関心する。
二人の強さと、そのコンビネーションに。

ハルナもいつかはこの二人の様に!と、頭にエレーナの顔を浮かべて心に誓うのだった。





「……忘れ物はないわね?」



ハルナは、ティアドに書いてもらった推薦状がカバンの中にあるか確認した。




「大丈夫です、それでは行ってきます!」




ハルナは馬車の窓から、ティアドに向かって手を振る。

馬車はゆっくりと走り出す。
ティアドはその窓に向かって、手を振り返す。
今まで、こんな動作はしたことがない。


自分でも驚くほど、身体が自然に動いてしまった。


馬車は敷地の外に出て、門の角を曲がる。
そしてその姿は見えなくなった。


ティアドは、振っていたその手を静かに下ろす。


ハルナと出会って、ティアドは充実していた。
我が娘は未だ消息が不明だが、ハルナがその寂しさを埋めてくれている。
容姿が似ているが、性格はちがう。
それでも、実の娘の様に思えるのだった。



ティアドは胸の前で手を組んで、ハルナ達の道中の無事とこれからのことが問題なく進むようにと、目を閉じて大精霊に祈った。











エレーナは、処置室に運ばれる。
アルベルトは部屋の中に荷物を置いてくるとのことで、付き添ったのはオリーブだった。


状態を確認されるが、やはりまだ指が痛む。
思い当たる節を聞かれるも、特には考えつかないと返答した。



そして話しを聞いてくれた人は、エレーナの指のどこかで見たことある指輪の存在に気付く。



「こ、これは……!?」





慌てた様子で、周りの人に支持を出した。




「室長をお呼びして!」



(な……なに!?一体なんなのよ!)



急にバタバタと騒がしくなる周囲の気配に、エレーナは嫌な予感しかしない。
オリーブもこの慌ただしさに動揺し、エレーナの服の端を掴んだままだった。



しばらくして、ひとりの女性が連れられて部屋に入ってくる。
その女性は、アーテリアよりは一回り歳上なのだが、その振る舞いと容姿は老いを全く感じさせない美しさがある。
長く伸ばした髪の前髪が片目を隠して、妖艶な美しさに拍車をかけている。



そんな女性がエレーナ達の前に立つ。




「――手が痛いんだって?」




エレーナはボーッとその姿を眺める。




「……?」




女性は、不思議そうな顔でエレーナの顔を見る。



「痛みは……治まったのか?」





女性は再度話しかけて、エレーナはようやくそのことに気付く。



「え!?あ、はい。……いえ、まだズキズキしてます!」


「ふーん……その割には元気に見えるけどねぇ」




(言えない……!エレーナ様は見とれてただけなんて……絶対に言えない!?)




息を飲み込み、オリーブは心の中で呟く。





「ちょっと見せてみなよ、手」


「あ。はい!」




差し出しだ手を、その女性は手にとって眺める。
エレーナはそのことに、何故か照れて耳が真っ赤に染まる。
オリーブに関しては、釘付けにするその振る舞いをただ眺めることしか出来なかった。


そんな二人を余所に、女性はエレーナに告げる。




「ふーん……この指輪、アーテリアのやつの物かい?」


「え?そんなこと見てわかるんですか!?」



エレーナとオリーブはこの美しい女性が、かなりの能力を保有する人物ではないかと推測した。




「ん?……お前はラヴィーネからやってきた、アーテリアの娘のエレーナじゃないのか?この書類には、そう書かれてあるが?」


「――あ」




エレーナは、別な理由で顔の赤みが増した。




「まぁいいさ、それより……」




その女性は、指輪に触れて感じとる。

(これは……精霊が暴走してるの……か?)



女性は目を閉じて考える。



「ふむ……そうか」



目を開けて、女性はエレーナに指示を出す。




「おい、ちょっとこのまま力を見せてみろ。あ、そんなに無理しなくいいぞ。そこのコップに水を注ぐだけでいい」



女性はエレーナの指輪に触れたまま、反対の手でコップを差し出した。
エレーナは左手の人差し指をコップの中に入れ、恐る恐る水を注ぐ。



――!



「痛くない!ありがとうございます!」



喜ぶエレーナに対し、女性は告げる。



「当面お前は、精霊の力を使うことを許さん。この【ハイレイン・ミカ】の名において……な」




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