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フィンの森の塔
しおりを挟む-魔法使いと目を合わせると死ぬ
これは人間の世界で語られてきた物語だ。
もちろん、そんな訳はない。
都合のいいように人間が誰かが死んだ理由を作ったのだろう。
...しかし、その逸話のせいで私以外の一族は死ぬ運命になった。
いまから8年前の今日。
私が10歳だった頃のことだ。
『アーティ、今日は月が綺麗よ』
そう、母のベトゥスアが言い、その時家族で住んでいたコテージの外へ出た時、皇帝の軍が私たち一族を襲った。
魔法使いが残る北の国にも襲撃があり、
北の国の魔法使いは全滅したそうだ。
私たちは攻撃魔法で戦いながら、皇帝軍から逃げていた。
途中で父のノアルドが止まり、軍をひきつけ始めた。
「ノアルド....!!!!」
ひきつけることは出来たが、上手くは行かず父は無惨にも殺されてしまった。
その姿を見た母も私と兄と姉に「生きて」というような目を向けて軍の方へ進んで行った。
きっと母も殺されてしまったのだろうと、軍がまた追いかけてきて気づいた。
今度は兄と姉が私の前に立ち、
「逃げて、アーティ。あなたの魔法なら逃げられる。」
そう言って戦い始めた。
このような時のために、魔法使いの一族では末っ子に透明化と気配を消す魔法を習得させることがある。魔力を残して死ねば、その魔力がいつか形を変えて再び魔法使いの形へ戻るからだと、父がよく言っていた。
《 પારદર્શક 》
ふっと息を吐き、透明化の魔法を使い兄と姉のそばを離れ、コテージがあったエレニカ国の外れの森へ向けて走った。
兄と姉の攻撃魔法の爆発音などが途中で聞こえなくなったため、私以外の家族は死んでしまったんだと思った。
アルフォルドはもう、私しか居ないのか...
いや、魔法使い自体私しか居ないのか。
10歳の私にはそれはかなり心細かった。
家族や他の魔法使いが死んでから、皇帝軍が引いたことを確認して私は逃げ込んだフィンの森を新たな住処とした。
-森は魔法使いを敵対していない人にしか入れないように、塔は私を心から愛する人しか登れないように....
なんとしてでも生き残る事を考えて、強力な魔法をかけた。
その結果、8年たった今でも、この森へ入ってくる人はまだ誰もいない。
前の前の皇帝が魔法使いに殺されたから国の人は魔法使いを敵対しているみたいだし。
まぁ、私には関係の無いことだけれど。
そう思いながら塔の屋根の上で満月を見上げる。
「満月なんて見てたら、思い出しちゃうわ。あぁ、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。私、上手くやれてるかな。」
月へ向けて、ボソッと伝える。
寂しくなると昔からこればかりしている。
こうすると、心が落ち着くような気がする。
「おやすみ、みんな。」
ぐっと伸びをして、魔法で仕立てたシルクのネグリジェを波打たせ布団へ入る。
眠る前に保護魔法をかける。
《 રક્ષણ 》
太陽が昇る前に目を覚まして、また屋根にのぼる。
目を閉じて、魔力を集中させ夜のうちに誰か森へ入ってきていないか確認する。
今日ももちろん誰も森へ入ってきていない。
朝ごはんは、硬いパンと目玉焼きと森で採れたいちご。
「手入れなんてしてないのに、こんなに立派ないちごがなるのね....森ってほんとうに素敵だわ。」
今日もいい朝だ。
こんな日は森の奥のお気に入りの場所へ行こう。
そう決めて、軽食をカゴに入れて、ブーツを履き、私は塔を出た。
-こんなところ、地図には無いはずだが...
「おい、この森地図にはないよな。こんなところに森なんてあったか...?」
「陛下....お言葉ですが、森なんて私には見えません。私にはただの荒地にしか見えません...」
私もそうだ、と何人も騎士がそう言う。
だが、「私には森が見えてます。陛下。」
と騎士....ニールが言う。
確かに森が目の前にあるのに見えないという、そんなおかしなことがあるのかと不思議に思ったが、とりあえず国の領地開拓と把握のためにニールと進むことにした。
とても美しい森だった。
青色や黄色の蝶が飛び回り、色とりどりの花が見事に咲き誇っている。
「誰か、管理している者がいるのか...?」
そう思うほどだった。
しばらく歩いていると、一緒にいたはずのニールが消えた。
「またあいつは....仕方ない。後に合流すれば良いか。」
昔からの長い付き合いだったが、ニールはよく1人で消える。私を守らねばならない使命がありながらも消えてしまう。
全く...いつまでたっても変わらないなと思い馬と進んでいくと紫の藤の花のカーテンを抜けた先にひとつの塔があった。
焚き火の後、洗濯物が干してあるなど人が住んでいることが分かる。
「誰かいるのか、、、?」
呼びかけてみるが、返事がない。
「隠れているのか...?おい!誰かいないのか...!!」
何度声をかけても結果は同じだった。
日も暮れ始め、今日は諦めることにした。
藤の花のカーテンをくぐるとニールがいた。
「どこにいたんですか、陛下。また1人で...」
「っな...消えたのはお前じゃないか、ニール。....それより、この奥に塔がある。多分誰か住んでいるみたいだ。」
それは...と興味深そうに藤の花のカーテンをニールがくぐるが、「何も無いですよ、陛下。」と不思議そうに言う。
まさか、と思いもう一度私はカーテンをくぐってみたが、塔が消えていた。
実に不思議な事だった。
次の日の早朝、太陽が昇る前に私はまたあの森へ行った。
今日は藤の花のカーテンをくぐったら塔があった。
「...朝早くてすまないが、誰かいないか。話が聞きたいんだ...!」
そう言って見るが、やはり返事はない。
ガタッと何かが落ちる音がしたはずなのだが...。
また帰るしかないか...そう思い、
「また来る。その時は顔を見せてくれ。」
と言い残し、森を去った。
-私のお気に入りの場所。
それは森の奥にある滝。小さいけれどとってもいい場所。
私が生やした花が元気に咲いていて、芝生が生え、暖かい太陽が照らす。
動物たちもたまにここで休んでいる。
「あら、モノ。おはよう。今日もいい朝ね。」
モノは、私がこの森へ来た時からよく話し相手になってくれる鹿だ。
私には会いに来てくれたのだと思いたいけれど、モノの本命は私が持っているリンゴだ。
「またこれ...?りんご好きなのね。どうぞ。」
ありがとうとお礼をするように私の頬にキスをしてリンゴを銜えて走っていった。
私は持ってきた軽食をつまみながら、横になる。太陽の光が心地よくてつい寝てしまった。
起きた時はもう暗くなっていた。
夜の森を歩くのはちょっとだけ怖いから瞬間移動をして塔に戻る。
《 ઘર 》
お昼に眠ったけれど、ベットに寝っ転がったらまたすぐに眠ることが出来た。
「のか...!!話が聞きたいんだ!」
誰かの声がする...男の人の声だ...
-っ.... (ガタッ
驚きのあまりベットから落ちてしまった。
魔法はかかっている。森にはかなり強力なのが...人よね...?魔力を感じないからそうよね....
声を出さないように口元を手で押え、頭をフル回転させる。
「また来る、その時は顔を見せてくれ。」
...また来るですって!?
「魔法を強化させないと...」
森へ入ってきた男が去ったことを確認して、私は屋根に登り魔力を強化させることにした。
マナが足りるか分からないけれど...
《 જાદુઈ વૃદ્ધિ = પ્રેમ અને શાંતિ 》
倒れ込んでしまうくらい体力を削る。
「もっと鍛えないとダメね...」
きっとこの魔法をかけた後に入ってこれる人はいないだろうなと思っていた。
それから3日後、朝食を作っている時だった。
「もしかして朝ごはんを作っているのか。」
また、あの男の声がした。
「お願いだ、話がしたい。降りてきてくれないか....」
「あんなに強い魔法をかけたのにどうして...」
声に出てしまうくらい驚いた。
かけた魔法は 愛と平和...
男が私を殺すことは無いだろうと確信し、塔の外へ移動した。
(確か、人間には強気で話すんだっけ)
昔姉が言っていたことを思い出す。
「あなた、何しに来たの。」
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