アップルパイ

プラノ

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感情

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「あっ....俺、寝ちゃってました?」

ガバッと慌ててあの子は起きた。
撫でていた手をサッとしまい、「昨日はごめんね、」と謝った。

「あ、拓也さん、台所借りてもいいですか?」

とあの子は言った。
朝ごはんを作ってくれるらしい。



「拓也さん、これ使ってもいいですか?」



「拓也さん、この味どうですか?」




「拓也さん、できましたよ~!!」




.....今更だが、あの子はよく俺の名前を呼ぶ。俺は、あの子のこと「君」だとしか呼んだことがない。




-でも今は、あの子を名前で呼んでみたいと思った。


「あ、ありがとう.....いつもごめんね、ぉ....大倉...く、ん」


あの子は少し照れくさそうに、笑ってご飯を食べ始めた。


箸の持ち方とか、茶碗の持ち方とかが、すごく綺麗だなと思った。


....こんなこと考えてるおじさんどうなんだろうか。


「あ、大倉くんはさ、なんで料理とかできるの?」

ふと疑問に思って聞いてみた。

「え、あぁ俺、姉が2人いて昔からお菓子作りを教えこまれてたんですよ。普通のご飯は最近勉強したんですけどね、」

「え、そうなの?!それで、こんなに美味しいの.....あ、でもなんで料理しようと?」

俺が聞くと、あの子は少し顔を赤らめて答えた。

「あ、その.....好きになった人に、食べてもらいたかった...から、です。」


「へぇ、そうなんだ、こんなに美味しいもの食べれる好きな人は幸せだね。」

また、あの子は照れて、少し嬉しそうに「そうだといいです」と言った。




-『好きになった人』そのワードが頭にずっと残っていた。


「あ、そうだ拓也さん。」

あの子は少し真面目そうな顔をして、こちらを見てきた。

「俺、まだここに来てそんなに経ってないんですけど、引っ越します。あと1週間くらいしたら、」














あの子はこの話をして、用事があると家に帰った。
俺は、モヤモヤした気持ちを抱えながら、高校の友人に会いに都市へ出かけた。


PM 14:00

駅前で待ち合わせをし、高校の友人に会った。

「おー、櫻井久しぶり。」

「あ、橋本、んじゃ、行くか。」


友人の橋本は高校の部活が同じだった。
あまり友人が多くない俺の、1番と言っていいほど話が合う奴だ。

橋本とはこんな時間から駅前の居酒屋に入った。



結構な時間、今何やってるとか、趣味がなんだとか、恋愛の話をした。

「あ、そうだ、櫻井。お前、彼女いないのか?」

「うん、いないけど。」

「ふーん。気になるヤツとかは?」

橋本のその質問で、何故かあの子を思い浮かべた。
俺が答えずにいると、にやにやしながら「どんな子?どんな子?」と聞いてきた。


「気になるっていうか、
ただ、その....
隣の家の人なんだけど、
目が綺麗な人で、
明るくて、
お菓子作りが上手くて、
料理も上手くて、
礼儀正しくて、
かっこよくて、
たまに友達といる所見るけど、
なんかそこはあんまり見たくないと思うけど、素敵な人.....」




橋本は目をぱちぱちさせて、

「え、櫻井はその子のことどう思ってんの?」


「普通にいい子だな、って。」

「好きじゃないの?!」

「好きなわけないだろ、」

「恋人にしたいとか思わないの?」

「こ、恋人に?! ....そんな、、、」


橋本はふぅと息をついて、俺に言ってきた。


「櫻井。お前、そのお隣さん好きでしょ。恋だよ、それ。」


恋.....?

「あ、でも....さ、橋本、、、そいつ、男だよ、」


橋本は は? というような顔で言う
「そんなの関係あんの?好きなら好きでいいだろ。」


なんだか、今までのモヤモヤが消えていくようだった。


「あの子、引っ越しちゃうって....好きなやつにご飯食べさせたいって、」

何故か分からないが、俺は泣いていた。
初めてあの子のアップルパイを食べた時のように。






「櫻井、行ってこい。伝えてきな、」
橋本は俺の方をぽんと叩き、送り出してくれた。








帰り道、アパートの近くの道を走っていた。目の前にはあの子の姿があった。


一一「っ....大倉くん...!!」

あの子は驚いたようにこちらを見て、かけてきた。

「あ、拓也さん!いい所に!....その、今まで沢山お世話になったので、これ、今、買いに行っ....拓也さん?」


また俺はボロボロ泣いていた。


「ごめん、離れないで.....行かないで....また、隣のやつにケーキとか食べさせないで....俺だけにしてくれないか....」

「君が、好---」

言いかけた時だった。

強く抱きしめられ、

「....俺も、好きです。大好きです、拓也さん。
...初めて見た時から、俺のケーキ食べてくれた時から、好きです。この人に俺の物食べて欲しいなって思ってたんです。」



「大倉くん....本当に、?」





「はいっ....本当です、だから、拓也さん、俺の....俺の傍にずっと居てください、」



大人気ないが、ワンワン泣いている俺を抱きしめながら、あの子はそう言った。

「あぁ、、」

俺はそうとしか答えられなかった。




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