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第二王子の場合
公爵家との関係 sideリバデネイラ王家の場合
しおりを挟む第二王子がやらかした。
ラローチャ王国の王宮内、リバデネイラ王家へ激震が走った。
まさに、激震である。
王家の交代が有り得る程の、大失態。
むしろ国家転覆だろうか。
一応世襲制ではあるが、いつ交代してもおかしくない王座。
貴族の三分の二が賛成したら、王家がただの貴族へと成り下がり、他の王家の血筋を持つ貴族家が成り上がる事も可能である。
その資格があるのは、パディジャ公爵家とオリバレ公爵家の二家だ。
そもそもこの三家で建国した国である。
もしリバデネイラ王家の血が入ってなかったとしても、パディジャ公爵家かオリバレ公爵家の直系が王になるならば、不満は出ないだろう。
そのような中、ただでさえ今の王家は求心力が低く、パディジャ公爵家が影の王家などと揶揄されているのに、王家が頼み込んだ婚約を、第二王子が公の場でパディジャ公爵令嬢へ破棄宣言したのだ。
「国王陛下はおいでかな?」
先触れも無く、パディジャ公爵が王宮へと急襲した事で、婚約破棄事件が発覚した。
王家が独自に情報を得るよりも先に、パディジャ公爵がにこやかに婚約破棄の書類を揃えてしまっていた。
国王は、大人しく記名するしかない。
王宮内でも、賓客を迎える特別な応接室。貴賓室と言った方が解りやすいだろうか。
その部屋へ通されたパディジャ公爵。
記名済の書類を見て満足そうに頷いたパディジャ公爵は、横にいた者に書類を渡す。その者はパディジャ公爵の従者ではなく、王宮の文官である。
迅速に手続き出来るように、気を使った王宮側が用意した者だった。
とりあえず一段落したと気を抜いた国王に、パディジャ公爵が話し掛けた。
「それで、うちの可愛い可愛い天使のフランシスカがね、どこぞの筋肉馬鹿に椅子から引き落とされて、そのまま床を引き摺られたのだよ。どう思うかい?」
口端は弧を描いているが、目は笑っていない。
国王が何も言えないでいると、更に話が続く。
「それからね、フランシスカの為に広げた筈の情報収集の力をね、何を思ったかフランシスカを陥れる事に使った痴れ者がいてね。君はどうするべきだと思う?」
どう思うも何も、処刑されてもおかしくない程の事柄だった。パディジャ公爵の言っている相手は、まだ平民である。
「子供の不始末は、親の責任だよね。だってきちんと教育出来ていないって事だからねえ」
パディジャ公爵の指が机をトントンと二度叩いた。さっさと返事をしろ! という催促である。
「そ、れ……では、騎士団長には責任を取らせます。商会も、閉鎖……させ、ま、しょう」
途切れ途切れに国王が処罰内容を口にすると、パディジャ公爵は笑顔で頷き、ソファの背もたれに寄り掛かる。
「まぁ、まだ学生だしね。そこは本人に責任取らせようか。あぁ、残り二人は紛い物に蝙蝠だから、そちらに任せるよ」
パディジャ公爵が手を上げる。書類を汚さないようにと断っていたお茶を、持って来ても大丈夫だという合図である。
出された紅茶の香りを楽しみ、一口飲んで息を吐き出したパディジャ公爵を、国王が静かに見つめていた。
何か言われても、絶対に聞き漏らさないと緊張している様子で、これではどちらの立場が上なのか判らない。
「元凶は、うちのフランシスカに任せるから、手出し無用だ」
パディジャ公爵がカップを置く僅かな音が、部屋にやけに大きく響いて聞こえた。
「まだ、王家でいたいだろう?」
暗に、横槍を入れたら、たとえ王家でも容赦しないと言っている。
第二王子と男爵令嬢、そして騎士団長子息、大商会子息の運命は、フランシスカの手に委ねられた。
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