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復讐実行の章 ※センシティブな内容となります
48:3回目の結婚記念日
しおりを挟むその日、公爵家はメイドの叫び声から始まった。
何事かと執事を筆頭に使用人達が夫婦の寝室へとなだれ込む。
周りの騒がしさに目を覚ましたジスランは、違和感を感じて腕の中へと視線を落とす。
いつものように、腕枕で寝ているマリーズが居るはずだった。
しかしそこにあったのは、紺色の髪。
コレットの赤い髪ですら無い。
「な!誰だ!」
腕枕を外して上半身を起こしたジスランは、布団を自分側へと捲った。
コレットのように妾を狙ったメイドでも潜り込んだのかと思ったのだ。
使用人達の前で全身を晒すがいい!
そんな底意地の悪い気持ちだったので、ジスランの横で眠る紺色の髪を持つ人物は、皆の前で全裸を晒す事になった。
「きゃあぁぁぁ!」
甲高い悲鳴を上げたのは、ジスランの横の人物では無い。
1番年若いメイドだった。
「な……にが……?」
驚いたのはジスランもだった。
頭の中が真っ白である。
ジスランの横で寝ていたのはマリーズでは無い。
そして、女ですら無かった。
紺色の髪をした痩せぎすの男が、前夜の名残を全身に散らした状態で横たわっていた。
「そんな、そんなはずは無い……昨夜もマリーと愛し合って……」
あまりの衝撃に、何事かブツブツと呟いているジスランは、自分の両手を見つめている。
「あら、皆様お早いです事」
使用人達の後ろから、聞き慣れた声がした。
全員が扉の方へ注目する。
そこに居たのは、本来ベッドで寝ているはずの人物、しっかりとワンピースを着込んだマリーズだった。
「ごめんなさい、ジスラン。私、もう隠し続ける事に疲れてしまったの」
涙を浮かべながら淋しげに微笑んだマリーズの後ろには、白い法衣を着た人物が立っていた。
教会の大司教である。
「なるほど、これが理由ですか」
納得したように頷く大司教を、皆が青褪めた顔で見つめた。
今日、ここに大司教が居る理由など、1つしかない。
今日の為に1ヶ月も前から、使用人達は準備を進めていたのだから。
ジスランとマリーズの、3回目の結婚記念日。
それが今日だった。
白い結婚による離縁。
それが成立するのが3年である事は、誰もが知っている常識だった。
「朝、まだ暗いうちからあの方と入れ替わり、さも夜を共に過ごしたかのように偽装しておりました」
混乱して何事かを叫び、暴れるジスランはここには居ない。
身繕いもそこそこに起きてきたアルドワン公爵夫妻と大司教、そしてマリーズ側の証人として医者が部屋に居た。
「二人の残滓を体に塗り、メイドが来るのをベッドの中で待つのは屈辱でした」
ハラハラと涙を流すマリーズは、嘘を吐いているようには見えない。
それはそうだろう。
その涙は、本気の、前回の涙だ。
具体的には、胎で二人の子供を育てていた時の屈辱である。
冷静に考えたらマリーズの話には矛盾点が出てくるのだが、息子が男色家だった事実に公爵夫妻の思考は止まっている。
「教会で調べたところ、マリーズ様は確かにまだ純潔を保っておられました」
大司教が事実を述べた。
そこにはマリーズを庇う意図も、ジスランを追い詰める策も、何も無い。
ただの事実。
「結婚してから3年経過していますので、教会としては白い結婚による離縁を認めるしかありませんな」
大司教の言葉に、アルドワン公爵夫妻も頷くしかなかった。
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