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幸せな復讐の章
29:愛と欲
しおりを挟むある朝目覚めると、ジスランは違和感を感じた。
夢の中でマリーズを抱き、腕の中に閉じ込めたところまではいつも通りだった。
しかし今朝は、腕の中にまだ感触が残っている。
いや、感触などではなくこれは……。
ジスランは慌てて起き上がって、掛けていた布団を剥がした。
「なんでお前がここに!」
ベッドの中に居たのはマリーズではなく、コレットだった。
裸のコレットは、見るからに事後だ。
胸元や体のあちこちに赤い印が残り、歯型まである。
ジスランが引き入れたのでは無いのは、ベッドから離れた位置にコレットの服が脱ぎ捨ててあるので確実だった。
だがそれは理由にならない。
メイドとして雇い入れた人間と、夜を共にしたのは間違い無いのだ。
「クソ……嵌められた」
ジスランはコレットをベッドから蹴り落としたい衝動を抑え、そっとベッドを抜け出る。
そのまま側にあった服を身に着け、両親の部屋へと向かった。
ジスランは朝起きたらベッドにコレットが居た事、マリーズを抱いた夢を見た事、そしておそらくコレットの純潔を奪ってしまった事を、包み隠さず両親に話した。
父親は激昂し、コレットを追い出す為に執事を呼ぼうとしたが、それをジスランが止めた。
「マリーとコレットは友人なんだ」
ジスランが告げた事実に、両親の顔が曇る。
コレットは、貧乏だからと実家から出され、アルドワン公爵家に働きに来たのである。
そのコレットを追い出せば、行く先はマリーズの所だと予想出来た。
しかも解雇理由が「ジスランと閨を共にしたから」では、マリーズに婚約破棄されても仕方が無いだろう。
「コレットは、愛妾にしなさい。この際、欲望の捌け口にでもすれば良いわ」
コレットを嫌っているアルドワン公爵夫人は、コレットを利用する事を選択した。
「そうだな。子が出来ないように気を付ければ良い。マリーズ嬢は後2年は嫁いで来ないのだからな」
夫人の案に、公爵も同意した。
コレットの待遇は、何も変わらなかった。
ジスランと体を繋げば優遇される予定だったのだが、相変わらず洗濯をしている。
それでも前よりはデートに連れて行ってくれるし、変わらずお菓子を分けてくれるし、マリーズが来た時には高級菓子をくれるのも変わらない。
夜中にベッドに潜り込めば、当たり前のようにジスランはコレットを抱いた。
コレットは、ベッドの中でジスランが自分を「マリー」と呼ぶのだけは嫌だったが、「マリーとの時に名前を間違えたら困る」と言われ、渋々了承した。
お飾り妻に、自分達の関係がバレたら困るのは理解していたからだ。
ばらすのならば、子供が出来た時だとコレットは思っていた。
そしてジスランが学園を卒業し、公爵家の仕事をするようになり、二人の関係は益々深まっていった。
洗濯場で立ったまま、獣のように後ろから突かれる事もあった。
マリーズが公爵家を訪ねて来た後にそうなる事が多いので、コレットはジスランが自分を愛している証明で抱くのだと誤解していた。
そしてコレットを抱いた後、ジスランは必ず飴をコレットの口に入れる。
大して美味しくない飴だが、疲れた自分を気遣って甘い物をくれているのだと、コレットは喜んでいた。
────────────────
高位貴族の令嬢は、結婚するまで純潔を守るのが当然で、そういう状況になるのが結婚後なので、敢えて「お飾り妻」となっております。
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