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未来の過去の章

19:淑女は色々包み込む

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「まぁ!素敵な髪飾りですわね」
 ピンクダイヤの蝶の髪飾りは、それほど大きくは無いが輝きとデザインで高価な物だとすぐに判る物だ。
 ミレイユは手放しで褒めているが、マリーズは自分の意見を聞かずにジスランが勝手に買った物だとの認識が強く、実はあまり好きな意匠では無い。

 ジスランの瞳の色である琥珀色や黄色で無いだけマシだと思おう。
 マリーズは溜め息を吐き出す。
「あら、どうなさったの?」
 ミレイユがマリーズの溜め息に気付き、不思議そうに聞いてくる。
 傍から見れば、恋人に高価な贈り物をされた幸せな令嬢のマリーズが、溜め息をく理由など無いのだ。

「マリーはぁ、気持ちだけで嬉しいのにぃ」
 はぁ……と、頬に手を当てて
「高い贈り物なんて要らないの」
 嘘である。
 コレットに貢ぐ余裕も無いほど、たっぷりと金を使わせようとは思っている。
 しかし、ここではしゃいで自慢をすると、同性に嫌われてしまうだろう。


 嬉しくない贈り物だったので、本気の溜め息と表情が出来ているのが幸いだった。
「マリー様は、とても謙虚でいらっしゃるのね」
 ミレイユが言う。
「だってぇ、マリーには何も返せないし」
 シュンとしてみせると、周りで話を聞いていた令嬢達が寄って来る。

「大丈夫ですわ。きっと見返りなど求めていらっしゃらないわよ」
「いつもお昼にいらっしゃる方ですわよね?」
「クストー伯爵令嬢の事を大切に思っていらっしゃるのは、皆知っておりますのよ」
「あの方、たしか公爵家のご嫡男でしたわよね?」
「婚約まで秒読みかしら?フフフッ」

 同性には嫌われる頭の悪そうな話し方をしていたのだが、意外にも反感は買われていなかったようである。
 もしかして将来の公爵夫人になるかもしれないので、少しでも仲良くなっておこうという打算が有るのかもしれないが……。
 むしろ、前回のマリーズの方が遠巻きにされていた。


「クストー伯爵令嬢は、話し方はちょっとアレですけれど、実はとても勉強が得意でいらっしゃいますのね」
 一人の令嬢が話を変える。
「ワタクシも思っておりました。最初は話し方から男好きの……んんっ……恋多き女性かと思っておりましたが、アルドワン公爵令息以外と仲良くなさる様子も無いでしょう?」
 真似たのが男好きのコレットなので、そこはしょうがないかな……と、こっそりマリーズは思う。

「まさかクラスで1番を取るとは思いませんでしたわ」
 この前のテストの事を言っているのだろう。
 学期末に行われる物とは違い、クラスの中での順位のみが判るテストが最近あったのだ。
 前回もマリーズはクラスで1番を取っていた。


「やはり、そういう所をアルドワン公爵令息は見抜いていらっしゃったのね」
 確かに、公爵夫人にはある程度の能力が求められるはずだ。
 しかし、ジスランはマリーズを閉じ込め、コレットを表舞台に立たせていた。
「あまりぃ、そういうのを見抜く力は無い気がしますぅ」
 マリーズは、心からそう思っていた。

「まぁ、謙虚ですわね」
 しかし周りの令嬢達は、マリーズが謙遜したのだと思ったようである。


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