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未来の過去の章
16:深まる仲
しおりを挟むジスランの機嫌が悪くなっていない事を確認して、マリーズは言葉を続ける。
「なんと今日!お友達になりましたぁ!」
ミレイユの後ろに回ったマリーズは、その肩に両手を置いて顔だけをヒョコッと出す。
本当は、ここでジスランを選んだ方が好感度は上がるだろう。
それは理解している。
しかし、動けなくなっていたマリーズを助けてくれたミレイユと、これからも仲良くしたいと思ってしまったのだ。
「でもぉ、先輩!ありがとうございます!マリーがお昼一人だって言ったからぁ、わざわざ探してくれたんですよねぇ?マリー感動しちゃいましたぁ!凄い優しいですぅ」
馬鹿みたいに持ち上げ、マリーズが褒めまくると、ジスランは「まあな」と言いながら満更でもない顔をして食堂を出て行った。
最後にミレイユに向かって「これからもマリーと仲良くしてやってくれ」と、まるで恋人の友人に言うように、声を掛けて行った。
「なんですか、さっきのあのクズ男は。公爵家だからと何をしても良いとでも思っているのですか?」
食事を取り席に座ると、ミレイユがすぐに声を荒らげて話し始めた。
高級食堂は席に着くと給仕が来るが、下級食堂は自分から食事を取りに行く。
その違いも楽しいと、密かにマリーズは頬を緩める。
「昨日入園式で会いましたぁ!玉の輿ですよ、玉の輿ぃ!」
前半は普通に、後半は潜めてマリーズは囁く。
席の間隔が狭く、しかも横並びに座っているので内緒話が出来るのである。
「貴女、まさかあのようなのが好みなのですか!?」
心底驚いているミレイユに、マリーズは心の中で「そんな訳無いじゃない」と呟く。
実際の口は「えぇ?良くないですかぁ?」と話す。
「男性の趣味は、余りよろしくないのね」
ミレイユは嫌味ではなく、本心から言っている。
内心では同意しつつも「そうですかぁ?」とマリーズはとぼける。
これからジスランとは仲良くしなくてはいけない。
卒業と同時に結婚する為に。
「だってぇ、ミレイユちゃんも言ってたじゃないですかぁ。公爵家ってぇ」
マリーズは、人格や見た目では無く、その地位が魅力なのだとハッキリと告げる。
下手に見た目を褒めたりするより、ミレイユに反対されないだろうとの判断だ。
「さっきも気になったのですが……」
ミレイユの眉間にうっすらと皺が寄る。
「その『ミレイユちゃん』と言うのは何なのですか?」
つい勢いで呼んでしまい、そのまま呼び続けてしまったのだが、どうやら駄目だったらしい。
マリーズはシュンと落ち込んだ演技をする。
「ごめんなさぁい。マルタン伯爵令嬢」
素直に謝ると、ミレイユは焦り出す。
「べ、別に怒っているではありませんわ。なぜそのように呼ぶのかを聞いたのです」
早口で言うミレイユに視線を向けると、表情は怒っているようだが、耳や頬が少し赤い。照れ隠しだったようだ。
マリーズはフフッと笑ってしまう。
既に25歳まで生きた、しかもかなり過酷な人生だった記憶の有るマリーズから見れば、13歳のミレイユは可愛い妹のようなものだ。
もしも向かい合わせで座る高級食堂だったら、大人の笑顔でミレイユを見つめている事に気付かれたかもしれない。
しかし今は横並びに座り、照れ隠しの為にミレイユはそっぽを向いている。
「それではぁ、ミレイユ様?にしますねぇ。マリーの事はぁ、マリーでもマリーズでも良いですよぉ」
マリーズが言うと、そっぽを向いたまま「では、マリー様と呼びます」とミレイユが答える。
その耳は、今度は隠しようもなく真っ赤だった。
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