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未来の過去の章
11:嘘つきは誰
しおりを挟む「あのぉ、お店にはコレットという人は働いていないそうですぅ……」
ジスランに聞いて、コレットの働いている店まで行ったマリーズは、ジスランを向かいのカフェで待たせてコレットのいるはずの店へと入った。
そして店員に、本当にコレットの事を聞いて来たのだ。
結果は否。
しかも「今日は全員出勤してるわ。お友達は居る?」と店長が店員全員と顔合わせをさせてくれた。
その結果をジスランへ報告するが、当のジスランは心ここに在らず……と言った感じである。
マリーズがジスランの視線の先を辿ると……店の陰に、表通りを見ては隠れる店の制服に似た私服を着たコレットが居た。
フルーツの入った買い物カゴを持って、通りに出たり隠れたりしているコレットは、向かいの店からは丸見えでとても怪しかった。
「あのぉ、コレットが居なかったから、マリーは帰りますね!……マリーの事はナイショにしてくださいね。色々詮索したって怒られちゃう」
そこまで言って、マリーズは失敗した!と思った。
詮索と言う言い回しを、コレットは知らなかった。
ジスランも「小賢しい言葉を使うな」と怒っていたからだ。
しかし今に限ってはそれどころじゃなく、聞き流されたようだ。
「俺も帰るよ」
窓の外のコレットから視線を外さずにジスランが言う。
一人称を「僕」と繕う事も忘れている。
「それではまた、学園でお会いしましょうね、旦那様」
ジスランの横を通る時、マリーズは低い声で呟く。
「え?何か言ったか?」
やっと視線をコレットから外したジスランが、マリーズを見る。
「何も言ってないよぉ?またね!せんぱい」
胸元で小さく手を振り、マリーズは先に店を出た。
コレットは、戸惑っていた。
予想と違う方向から歩いて来たジスランは、いつものような甘い笑顔は浮かべておらず、コレットの事を上から下まで観察するように見てきた。
「オーナーにぃ、また買い物を頼まれちゃったのぉ……」
コレットが甘えた声を出す。
彼女の場合計算ではなく、天然である。
いつもならここで「大変だな」と重いカゴを持ってくれるのに、今日は「そうか」としかジスランは言わなかった。
「制服が皆と違うようだが?」
ジスランの視線が、コレットが働いているはずの店の店員を見る。
丁度オープンテラスの客に飲み物を提供する為に出て来た店員は、コレットの服よりもシンプルで動き易そうだ。
「実はぁ、平民に混じって貴族が働くなんて恥ずかしいでしょう?とオーナーが気を使ってくれたのぉ。だから裏方の仕事しかしてないんだぁ」
これはもしジスランが店に来て、コレットが居なかった事を問い詰めてきた時の言い訳に、前から考えていた設定だった。
その為、スラスラと言葉が出て来る。
「……そうか」
思っていたのと違う反応に、コレットは首を傾げる。
「貴族、か」
ジスランの呟きの意味をコレットは知らない。
コレットの家は準男爵なので、準貴族だ。
しかし態々自分を準貴族と言う者は滅多にいない。
ただそれだけの事なのだが、ジスランはマリーズの撒いた種により、疑心暗鬼になっていた。
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