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41:因果応報

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 夜会会場の真ん中へ、喧騒の真ん中へ、ケヴィンとシモーヌが向かう。
 進んでいる間も続く罵声ばせいと破壊音。
「なぜ俺が怒られるんだ。次期侯爵に無礼を働いたその女こそ、罰せられるべきだろう」
「彼女は婚約者を待っていると、そう断らなかったか?」
 言い争う声の片方は、間違い無くジョアキムだった。
 相手の姿は人垣で見えない。
 しかしケヴィンは嫌な予感がしていた。

「たかが子爵家の女の婚約者などに、なぜ俺が遠慮してやらなくてはいけないんだ」
 何を言っている!?
 話の流れ的に、ジョアキムが婚約者を待っていた女性を、無理矢理どこかへ連れて行こうとしたようだった。
 爵位に関係無く、婚約者の居る女性や既婚女性と、同意なく二人きりになるのは紳士として恥ずべき行為だ。

「貴様はたかが伯爵家の息子だろう。貴様が殴ったのは、家令息だぞ」
「だから何だ、俺は次期だ」
 シモーヌが「ヒッ」と小さな悲鳴をあげる。
 ジョアキムは次期侯爵であろうと、現在は伯爵子息だ。
 殴った相手が公爵か侯爵かは姿が見えないので判らないが、どちらにしても確実に格上だ。


 ジョアキムの言葉に、ケヴィンは目の前が真っ暗になった気がした。
 まだケヴィンですらコシェ伯爵であり、ジェルマン侯爵を継いでいない。
 それなのにまるで、自分が侯爵のように振る舞っているジョアキム。

 やっと辿り着いた騒ぎの中心には、ジョアキムとガストン、倒れている男性と治療している人、可憐な少女、少女を庇う第四王子が居た。

 ケヴィンとシモーヌが辿り着いたのとほぼ同時に、反対側から王家直属の近衛騎士も到着した。
「この者達を拘束しろ」
 第四王子の命令により、ジョアキムとガストンは後ろ手に拘束された。
 完全に罪人扱いである。

 当然だろう。
 王子の婚約者を無理矢理会場から連れ出そうとし、おそらく止めようとした公爵令息を殴り、第四王子へ暴言を吐いたのだから。



 王家主催の夜会で、第四王子とその婚約者をおとしめる発言をし、公爵家令息へ暴行した責任を取り、ジョアキムは廃嫡された。
 そして管理不行き届きとして、コシェ伯爵家は2階級降格して男爵となった。

 その場にいたガストンも同罪とされ、コシェ男爵家は継げるが、ジェルマン侯爵家の後継者資格を剥奪された。
 今、ジェルマン侯爵が必死に養子を探しているが、全て断られている。
 このままならば、孤児院等から全然血の繋がらない子供を養子にするか、ジェルマン侯爵をケヴィンの代で終わらせるしかないだろう。


「マリアンヌに子を産ませていれば」
 最近、ジェルマン侯爵も侯爵夫人も、ケヴィンを見る度に同じ事を言う。
 更に「今からでも新しい妻を迎えて、後継者を産ませろ」と迫る始末だ。
 その心理的圧力は、ケヴィンを病ませる寸前だ。

 その圧力は、シモーヌの前でも変わらない。
 シモーヌは精神的に参ってしまい、あれ程溜め込んでいた贅肉が全て無くなり、骨と皮だけになるのもそう遠くないだろう。

 ジョアキムは廃嫡になり、部屋から一歩も出なくなった。
 このまま死ぬまで、コシェ男爵令息として、引き籠もるつもりだろう。

 ガストンは、継げる爵位が伯爵から男爵になった事で、兄を怨んでいる。
 爵位を継いだ後、大人しく兄を養うとは思えない。

 せめて父親のジェルマン侯爵が死ぬまでは、自分がコシェ男爵で居ようとケヴィンは思った。



 終
────────────────
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これにて終了です。


感想欄を開けますが、申し訳ありませんが返信は致しません。
しかし、全て読ませていただきます!!

今回は内容が内容なので、余りにも過激な感想は非公開にする可能性があります。
逆に悪口のような感想を書いておいて「削除してください」は、遠慮無く公開させていただきます(最近別作で、なろうであったのですよ)
批判と批評は違いますからね!


こんな作者ですが、また次作でお会い出来たら幸いです
(*^_^*)

次作は、身代わりにされた令嬢が、前向きに頑張る無自覚ざまぁにしたいです(笑)
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みんなの感想(16件)

寝子月(nekozuki)
ネタバレ含む
解除
sarumaro
2023.04.29 sarumaro

爽快!面白かったー

解除
セリ
2023.03.07 セリ

一気読みしました!面白かったです!

解除

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