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30:次世代を……
しおりを挟む厨房の余剰注文を止め、正式に寄付分として業者には注文する事に決まった。
最初は顔を青くしていた料理長は、これからは正式に貧民街や孤児院への炊き出しを行う事になった事、今までの事は罪に問わない事を聞いて、涙を流して喜んだ。
貴族としての評判も、その方が上がるだろう。
自領ではないので、この程度の支援が精一杯だった。
職業訓練や義務教育など、前世知識で色々助ける案は浮かぶのに、それを実行する伝手と財力が無かった。
「世知辛いわ」
マリアンヌは溜め息と共に呟く。
ジェルマン侯爵ならば多少の無理は通せるだろうが、義父がそこまで福祉に関心があるとも思えないし、説得する自信もマリアンヌには無い。
「ケヴィンが侯爵になってからが本番ね」
前世では、社会不適合者とされた問題児達を更生させる施設で働いていた。
本当に理不尽な暴力を好むなど極一部で、社会に反抗するにはそれなりに理由があるものだ。
傍から見たら大した事ないクダラナイ理由でも、本人達には大切な事だったりする。
因みにそういう目で見てみても、ケヴィンはその極一部に分類される。
最低のクズ野郎である。
それから一年もせず、シモーヌが妊娠した。
毎晩励んでいた割には遅い気もするが、授かりものなので、そういうものだと納得するしかない。
「扉はまだあのままでしょうか?」
シモーヌが執事に聞く。
マリアンヌに蹴破られてから、シモーヌの部屋には扉がない。
一応のプライバシー保護の為に、カーテンで廊下とは遮られている。
「奥様から、悪さが出来なくて良いでしょう、と言われております」
それは扉を直す気は無いという事だった。
本当は扉を直す計画はあった。
しかしシモーヌが実家に「ジョアキムが後継者になったから、支援できる」と勝手に連絡していた事が発覚し、無くなったのだ。
自業自得である。
そしておめでたい話がもう一つ。
「奥様、重い物は持たないでください!」
護衛がマリアンヌへと駆け寄って来る。
「このくらいなら大丈夫よ」
手から箱を取り上げられたマリアンヌは、不満そうにする。
中身は毛糸で、大きさの割には重くない。
「下が見えなくて転んだらどうします?一人の体じゃないんですよ!」
そう。
マリアンヌも妊娠していた。
「お父さんは心配性ね」
マリアンヌはお腹の子へと話し掛けた。
護衛の一人は、マリアンヌの母方の遠縁の男爵令息だった。
次男なので騎士になり、マリアンヌの実家に雇われていた。
マリアンヌの母方の実家である伯爵位を継がせる子供の父親に、相応しい相手だった。
密かにマリアンヌへ淡い恋心を抱いていたのだが、マリアンヌがケヴィンに嫁いで、その恋は終わったはずだった。
骨と皮になり、生きているのが不思議な姿で実家に戻ったマリアンヌに離縁を勧め、「離縁したら俺が責任持つ!」と宣言した男である。
マリアンヌの留守中に勝手に第二夫人を娶ったケヴィンには、文句を言う資格は無いとマリアンヌは思っている。
既に後継者はいるし、仮面夫婦がお互いに愛人を持つのはよくある事だ。
しっかり契約書も交わしている。
しかもマリアンヌの産む子は、ジェルマン侯爵家ともコシェ伯爵家とも関係の無い、マリアンヌの母方の伯爵家を継ぐのだ。
クズのケヴィンの血を入れる必要は、全く、微塵も、些かも、一切、全然無いと思っている。
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