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20:自因自果

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「なぜ皆、普通の紹介状が貰えると思うんですかね?」
 モニクが紅茶を淹れながら言葉を口にする。
 マリアンヌへの問い掛けと言うより、独言に近い。
 ただただ純粋に疑問なのだろう。

「自分達のした事が、紹介状を貰えない程の酷い事だとは思っていないのでしょう」
 答えたのはマリアンヌではなく、メイドのクロエ・ルニョーだった。
 マリアンヌがジュベル伯爵家から新たに連れて来たメイドの一人である。

「大丈夫ですよ。彼女達はこの先、自分達の行いの、その事に気付けるでしょうから」
 もう一人のメイド、デボラ・ヴァラドンも会話に参加する。


「そういえば、元料理長とキッチンメイドは、場末の酒場で雇ってもらえたそうですよ」
「まだ料理にたずさわれたんですね!」
「逆です!貴族の屋敷から締め出されたんですよ」
皿洗いスカラリーメイドとしても断られたらしいわよ」
 三人は顔を見合わせてから、クフフと笑う。

 仲良く話しているメイド達を、マリアンヌは温かい目で見守っていた。
 ジュベル伯爵家ではよく見る光景であり、ジェルマン侯爵邸では見た事の無い風景。
 会話の内容はかなり不穏ではあるが、そこは敢えて考えない事にした。



 マリアンヌは、チェンバーメイド達の紹介状を手ずから用意する為に、後継者訪問を取り止め、別邸へ戻って来ていた。
「奥様、本日はチーズタルトと3種のベリータルトです」
 お菓子作りが得意な料理人は、最近は空いた時間は別邸の厨房でお菓子を作っていた。

 本邸の厨房だと、どうしてもオーブンなどは料理の方が優先されてしまう。
 焼き時間の長いケーキなどが作れないと悩んでいたので、別邸の厨房を解放したのだ。

 マリアンヌは、目の前のタルトを手に取り、一口頬張った。
 淑女としては間違っているが、絶対にこの食べ方の方が美味しいのを知っている。
「決めた!もう一人料理人を雇いましょう」
 マリアンヌの言葉に、料理人は顔を青褪めさせた。


「ク、クビですか?」
 料理人が泣きそうになり、呟く。
「はあぁ!?何でそうなるのよ。もう一人貴方の代わりになる人を雇って、貴方はパティシエとして独立するのよ」
 パクパクとタルトを食べ進めるマリアンヌを、年若い料理人はポカンと眺める。

「もしかして、お菓子だけを作るのは嫌なの?無理強いはしないから素直に言いなさい」
 マリアンヌの強い口調に、料理人は慌てて首を横に振った。
「パティシエが何だか判りませんが、お菓子だけを作って良いならその方が幸せです!」
 涙を浮かべて喜ぶ料理人を見て、脅かしてゴメン、とマリアンヌは心の中で謝った。



 大量にあったタルトは、マリアンヌと、モニクとクロエとデボラで綺麗にたいらげた。
 本邸へ歩きながら「日持ちするものは、孤児院に差し入れましょう。美味しすぎて危険だわ」とマリアンヌがお腹をさすりながら宣言するのを、メイド三人も自分の下腹や腰を摘みながら同意した。

 すぐに変化が出るわけは無いのに、そこは女心である。
 いや、実際に胃は膨らみ、服に余裕が無くなっていたので、あながち気の所為では無いのかもしれない。


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