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03:変化する奥様

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 目覚めたマリアンヌが1番初めにした事は、実家のジュベル伯爵家へ連絡するようにモニクへ頼む事だった。
 今まで何度も何度も、モニクはマリアンヌへ「ご実家に連絡しましょう」とお願いをしていた。
 しかしケヴィンに常に「俺の許可無く実家に連絡するな」「後継を産む前に実家に帰る女は育ちが悪い」「貴族として夫に従うのが常識」と、行動を制限されてしまっていた。

「あの、旦那様は良いのですか?」
 常に夫の顔色を伺い、緊張して笑顔も無くなり、ついには食事もまともに出来なくなったマリアンヌ。
 そのマリアンヌがケヴィンを全然気にせず、実家に連絡するように言ったのだ。
 モニクが戸惑うのも当然である。

「私が私の実家に連絡するのに、誰の許可が必要ですか?」
 キッパリと言い切るマリアンヌに、モニクは「はい!」と返事をして部屋を出た。
 部屋の中には、女性医師が残っている。
 マリアンヌは医師へと視線を向けた。

「先生」
 呼ばれた医師は、優しい笑みを浮かべ返事をする。
「はい。どうしたの?」
 まるで子供に話し掛けるような笑顔である。
 それでもいつものマリアンヌであれば、オドオドとしてすぐに顔を逸らされてしまっていた。

 しかし今日のマリアンヌは違った。
 しっかりと医師と視線を合わせ、不敵とも見える笑顔で微笑み返してきたのだ。
「お願いがございますの。ケヴィンとその関係者は、この部屋に入れないでください」
 医師は大きく目を見開き、マリアンヌを見つめた。


 常に怯え、かたくなに夫であるケヴィンの命令に従う妻。
 暴力を振るわれても「私が不出来だから」「私が悪いのです」と自分を責めていたマリアンヌ。
 そもそもマリアンヌは、ケヴィンを名前で呼ばない。
 必ず「主人」と呼んでいた。

「出来るだけ頑張るけど、彼が私の言う事に従うか……」
 医師の言葉に、マリアンヌは口をつぐむ。
 変わろうとしているマリアンヌには申し訳無いが……と医師は表情を曇らせる。
 ケヴィンは、典型的な男尊女卑思考の貴族だった。
 たとえ医師の言葉でも、相手が女性というだけで従わないのは予想出来た。

「逆らうなら、医師として「伯爵夫人が死にそうだ」と王宮に報告すると脅してください。実家から誰かが来るまでで大丈夫ですわ」
 マリアンヌは再び口を開き、とんでもない事を言い出した。
 夫であるケヴィンを脅せと言うのだ。
 あまりの変わりように、医師は戸惑いを隠せずにいた。



「なぜマリアンヌは居ない」
 夕食の場にマリアンヌが居ない事を、ケヴィンは横に立つ執事へ聞く。
 居ない理由を知りたいのでは無く、居ない事を責めているのだ。

「奥様は、安静にするようにと医師に指示されて、お部屋で休まれています」
 執事の返答に、ケヴィンは持っていたナフキンを、置いてあった皿に投げつける。

「さっさと連れて来い!主人の食事に付き添わない妻が居るか!」
 ケヴィンに怒鳴られても、執事は深く頭を下げるだけで呼びに行く気配が無い。
 それどころか「医師の指示では、私では……」と拒否する始末だ。

 その様子にケヴィンはイライラと席を立つと、マリアンヌの寝ている部屋へと向かった。


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