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19:パーティードレス
しおりを挟むパーティー当日。
シャーロットは家族用の居間でセザールを待っていた。
さすがに今日は『リズ』は居ない。
今朝早く、キャンピアン公爵家へエリザベスになる為に帰って行った。
勿論、籠に入って『リズ』のままである。
公爵家の自室で、姿変えのネックレスを外し、『茜』になるのだ。
「エリザベス様のドレス姿、楽しみだわ」
同じ赤系統でも、今までシャーロットが着ていた品の無い派手な赤とは違い、エリザベスのドレスは深い紅でとても上品だった。
いつもパーティーで見かける度に、どうせ赤いドレスならば、あのような物を選んで贈ってくれれば良いのに……とシャーロットは思っていた。
そうして昔のパーティーを思い出していると、扉が開かれた。
ノックも無く入って来たのは、その下品な赤いドレスを着たティファニーだった。
シャーロットは、無言で目を逸らした。
口を利きたくないのも有ったのだが、とても貧相でシャーロットが着ていた時よりも場末の娼婦感が強く、見るのを躊躇ってしまったのだ。
あの真っ赤なドレスは、シャーロットの派手な顔立ちと完璧なスタイル、そして凛とした雰囲気が有って、ギリギリ淑女としての面目が保たれていたのだろう。
似合わないのはティファニーの自業自得なのだが、婚約者が変わっても赤い派手なドレスを着ているという事は、このドレスがジョナタンの趣味なのだと周りには認識されるだろう。
まぁ、それもジョナタンの自業自得である。
「シャーロットお嬢様、第三王子殿下がお迎えにいらっしゃいました」
メイドかシャーロットを呼ぶ。
執事は父親であるウェントワース侯爵を呼びに行ったのだろう。
その後ろから、もう一人メイドが来た。
「ティファニーお嬢様、ジョフロワ公爵令息が迎えに来ました」
シャーロットとティファニーが同時に席を立つ。
長女と次女というよりは、パートナーの格の違いからだろうか。
メイド達は自然に、シャーロットを先に案内した。
深い碧色の生地に金色の刺繍がされたドレスを着たシャーロットは、今までとは全然雰囲気が違い、とても高貴で完璧な淑女だった。
勿論デザイン自体も、今までのように胸元が開いていたりしない。
「とても良く似合っているね」
セザールがシャーロットへ手を差し出した。
「セザール様もなぜか碧色ですが、とても素敵ですわ」
同じように碧色の生地に金の刺繍がされた服を着ているセザールの手に、シャーロットはそっと自身の手を乗せる。
刺繍の意匠は違うのだが、絶妙に対になっていて、却ってお互いを引き立てていた。
本来のシャーロットを見たジョナタンは、目を見開いた後で舌打ちした。
シャーロットの後ろに居るティファニーが目に入ったのだろう。
「最初からその姿なら、俺の隣に置いてやったものを」
ジョナタンがまたシャーロットへと視線を戻し、吐き捨てるように呟く。
「あら、私は婚約者からの贈り物のドレスを着ていただけですわ」
シャーロットは蔑むようにジョナタンを見た。
いや、実際に軽蔑していた。
婚約者としての義務を果たさなかったくせに、まるでシャーロットに非があるかのように言ったのだから当然と言えた。
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