上 下
20 / 35

19:パーティードレス

しおりを挟む



 パーティー当日。
 シャーロットは家族用の居間でセザールを待っていた。
 さすがに今日は『リズ』は居ない。
 今朝早く、キャンピアン公爵家へエリザベスになる為に帰って行った。
 勿論、籠に入って『リズ』のままである。
 公爵家の自室で、姿変えのネックレスを外し、『茜』になるのだ。

「エリザベス様のドレス姿、楽しみだわ」
 同じ赤系統でも、今までシャーロットが着ていた品の無い派手な赤とは違い、エリザベスのドレスは深い紅でとても上品だった。
 いつもパーティーで見かける度に、どうせ赤いドレスならば、あのような物を選んで贈ってくれれば良いのに……とシャーロットは思っていた。

 そうして昔のパーティーを思い出していると、扉が開かれた。
 ノックも無く入って来たのは、その下品な赤いドレスを着たティファニーだった。


 シャーロットは、無言で目を逸らした。
 口を利きたくないのも有ったのだが、とても貧相でシャーロットが着ていた時よりも場末の娼婦感が強く、見るのを躊躇ためらってしまったのだ。
 あの真っ赤なドレスは、シャーロットの派手な顔立ちと完璧なスタイル、そして凛とした雰囲気が有って、ギリギリ淑女としての面目めんもくが保たれていたのだろう。

 似合わないのはティファニーの自業自得なのだが、婚約者が変わっても赤い派手なドレスを着ているという事は、このドレスがジョナタンの趣味なのだと周りには認識されるだろう。
 まぁ、それもジョナタンの自業自得である。

「シャーロットお嬢様、第三王子殿下がお迎えにいらっしゃいました」
 メイドかシャーロットを呼ぶ。
 執事は父親であるウェントワース侯爵を呼びに行ったのだろう。
 その後ろから、もう一人メイドが来た。
「ティファニーお嬢様、ジョフロワ公爵令息が迎えに来ました」

 シャーロットとティファニーが同時に席を立つ。
 長女と次女というよりは、パートナーの格の違いからだろうか。
 メイド達は自然に、シャーロットを先に案内した。


 深い碧色の生地に金色の刺繍がされたドレスを着たシャーロットは、今までとは全然雰囲気が違い、とても高貴で完璧な淑女だった。
 勿論デザイン自体も、今までのように胸元が開いていたりしない。
「とても良く似合っているね」
 セザールがシャーロットへ手を差し出した。

「セザール様もなぜか碧色ですが、とても素敵ですわ」
 同じように碧色の生地に金の刺繍がされた服を着ているセザールの手に、シャーロットはそっと自身の手を乗せる。
 刺繍の意匠は違うのだが、絶妙に対になっていて、却ってお互いを引き立てていた。


 本来のシャーロットを見たジョナタンは、目を見開いた後で舌打ちした。
 シャーロットの後ろに居るティファニーが目に入ったのだろう。
「最初からその姿なら、俺の隣に置いてやったものを」
 ジョナタンがまたシャーロットへと視線を戻し、吐き捨てるように呟く。

「あら、私は婚約者からの贈り物のドレスを着ていただけですわ」
 シャーロットはさげすむようにジョナタンを見た。
 いや、実際に軽蔑していた。
 婚約者としての義務を果たさなかったくせに、まるでシャーロットに非があるかのように言ったのだから当然と言えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

乙女ゲームが始まってるらしいです〜私はあなたと恋をする〜

みおな
恋愛
 私が転生した世界は、乙女ゲームの世界らしいです。 前世の私がプレイした乙女ゲーム『花束みたいな恋をあなたと』は伯爵令嬢のヒロインが、攻略対象である王太子や公爵令息たちと交流を深め、そのうちの誰かと恋愛をするゲームでした。  そして、私の双子の姉はヒロインである伯爵令嬢のようです。  でもおかしいですね。 『花束みたいな恋をあなたと』のヒロインに妹なんていなかったはずですが?

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

悪『役』令嬢ってなんですの?私は悪『の』令嬢ですわ。悪役の役者と一緒にしないで………ね?

naturalsoft
恋愛
「悪役令嬢である貴様との婚約を破棄させてもらう!」 目の前には私の婚約者だった者が叫んでいる。私は深いため息を付いて、手に持った扇を上げた。 すると、周囲にいた近衛兵達が婚約者殿を組み従えた。 「貴様ら!何をする!?」 地面に押さえ付けられている婚約者殿に言ってやりました。 「貴方に本物の悪の令嬢というものを見せてあげますわ♪」 それはとても素晴らしい笑顔で言ってやりましたとも。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

処理中です...