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17:強引なのは重々承知
しおりを挟む「それで結局、アカネはどこで見学したのだ?」
姿変えネックレスを外してエリザベスの姿になった『茜』は、王族専用サロンでサンドイッチを食べている。
万が一に備えて、学園の制服は着ていた。
今居る面子は、第二王子ダニエル、第三王子セザール、シャーロット、そして王家の護衛である。
「今日は、護衛の方に籠を抱えていていただきました。セザール様のお弁当のフリです」
朝一の教室で『リズ』入りの籠がシャーロットからセザールへ渡された。
シャーロットの友人達どころか、まだ誰も来ていない時間に登校したのだ。
付き合わされたティファニーは、馬車の中でずっと不機嫌だった。
さすがにドリーもおらず、シャーロット的には万々歳だったのだが、明日からはそうもいかないだろう。
「王族専用サロン集合だと、これから私は参加が難しくなりますわね」
シャーロットは溜め息を吐き出す。
今日は、いつも一緒に昼食を摂っている友人達を何とか誤魔化して、隠れるようにしてシャーロットはここまで来たのだ。
「確かにそうですね」
セザールも難しい顔をする。
「それならば、セザールの婚約者候補にしてしまえば良い」
あっけらかんとダニエルが言う。
「は?」
「あ?」
「えぇ!?」
驚く三人を気にせず、ダニエルは話を続ける。
「婚約者候補は婚約者と違って、もし駄目になっても瑕にはならないだろう」
良い考えだというダニエルに、『茜』が待ったを掛ける。
「ちょっと待ってよ、ダニー。シャーロットは相手有責ではあるけれど、既に婚約破棄をしているの。これでまた婚約が成立しなかったら、痛くもない腹を探られちゃうわよ」
呆れたように言う『茜』に、思わずセザールは拍手を贈った。
「では、『リズ』だけ王族専用サロンに来るのはどうでしょう?」
シャーロットが提案する。
それならば、朝、セザールの護衛にバスケットを渡してしまえば済む。
「えぇ!?それは嫌よ。淋しいわ、シャーロット」
心底残念そうに言う『茜』に、中身は違うと解っていても、ダニエルがムッとした顔をする。
「結局イライ……アカネはどうしたいのだ?」
ダニエルが『茜』に問う。
気を抜くと「イライザ」と呼んでしまうようだ。
「そうね。やはり授業は聞いておきたいかな」
通常の勉強の水準は、やはり日本の方が高かったので問題はなさそうだった。
しかし日本に無い魔法学や、精霊術の話は、単純に聞いていて面白いのだ。
「解った。帰りまでには何か策を考えておこう」
ダニエルが静かに頷いた。
問題は、昼休み中に解決した。
王族専用サロンからこっそりと教室へ向かっていたシャーロットは、ドリーの奇襲を受けたのだ。
「シャーロット様!ティファニーから話は聞きました!酷いです!ジョン有責で婚約破棄なんて!」
嘘である。
ティファニーは婚約破棄の件は知っていても、ジョナタン有責だとは知らないはずなのだ。
学園内でそれを知っているのは、当事者のシャーロットとジョナタンだけのはずだった。
「それは誰から聞きましたの?」
シャーロットが問い掛ける。
その声は、あくまでも冷静である。
「え?だからティファニーに……」
ドリーは目に涙を浮かべて、自分が被害者だとでもいうように震えている。
シャーロットはその様子を見て、大袈裟に溜め息を吐いた。
「ワタクシからティファニーに、婚約者が変更になっただけですわ」
「え?」
シャーロットの言葉に、ドリーは目を見開いて驚いている。
どうやらジョナタンもティファニーも、自分に都合の悪い事は黙っていたようである。
「嘘言わないで!ジョナタンに相手にされなかったからって、嫌がらせで婚約破棄したんでしょう!?」
ドリーが興奮して叫んだ。
親友のティファニーが婚約者では、都合が悪いらしい。
その様子を、多くの生徒が目にしていた。
別に暴力を受けた訳では無い。
しかし侯爵令嬢が元婚約者の愛人に、理不尽に絡まれたのだ。
しかも元婚約者の新しい婚約者は、実の妹である。
今後、元婚約者の公爵令息がどのような手段を取るのか不明である。
危険を避ける為、第三王子が侯爵令嬢の保護をかってでた。
多少強引だが、周りを黙らせる事は出来た。
────────────────
「は?」セザール
「あ?」茜
「えぇ!?」シャーロット
です(笑)
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