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59:色々と大変らしい
しおりを挟むオベロニスから王太子の話を聞いたタイテーニアだったが、結局判った事は王太子が腹黒く、人から恨みを買いやすいだろうという事だけだった。
それなら前々から感じていた事だし、何も進展していない。
はぁ……タイテーニアはベッドの中で溜め息を吐く。
「奥様、大丈夫ですか?」
溜め息を聞いて、メイドが聞いてくる。
王太子のモヤの事を考えていたタイテーニアだが、メイドは体調不良の事での溜め息だと思ったようだ。
「大丈夫よ。情けないわね、私。世の奥様方は凄いわ」
オベロニスと夫婦の営みをすると、何回かに1回はタイテーニアは朝起きられなくなる。
「奥様は悪くありませんわ!旦那様の股間の凶器が悪いのです!」
「股間の凶器……」
メイドのあまりの物言いに、タイテーニアは思わず笑ってしまった。
このメイドは、元は前公爵夫人付きのメイドだった。
オベロニスが結婚してタイテーニアが来るまで、オベロニスの湯浴み係もしていた。
若いメイドでは、オベロニスが危険だったからの特別措置である。
本来はレディースメイドなので、当主の世話などはしない。
シセアス公爵家では、シャイクス伯爵家と違い、一人のメイドが色々やる事は無い。
完全な分業制で、それこそキッチンの野菜係のメイドまで居たし、ランドリーメイドなどその中で更に細かく何を洗濯するのか分かれている程だ。
レディースメイドが湯浴み係を兼任するなど、有り得ないのだ。
因みにこのメイドの前は、ナースメイド所謂乳母がやっていた。
乳母が対応する年齢などとうに越えても、他のメイドには任せられなかったからだ。
もし、自分が後継の男児を産んだら、同じような事になるのかと、タイテーニアは少し不安になった。
オベロニスの天上の美しさではなく、自分に似て欲しいと、まだ何も入っていない下腹部を撫でた。
大事をとって2日程休んでから、タイテーニアは職場復帰した。
オベロニスの部下達の歓迎の激しさに若干引くが、その姿を見ては納得するしかない。
どこで拾ったの?誰と会ったの?と問い詰めたくなるほど、皆一様に黒いモヤを纏っていた。
それでも初めて会った時よりも全然マシなのだが、一度快適な環境?健康な状態?を味わってしまったので、尚更辛く感じるのだろう。
「仕事前にちょっとだけやりましょうか」
タイテーニアがそっと右腕の袖を捲り上げた。
「シセアス公爵夫人が来てるって!?」
ノックの後、返事も待たず入室して来たのは、予想通りの王太子だ。
オベロニスの職場の方ではなく、タイテーニアの居る休憩室の方の扉である。
ここから出入りするのは、タイテーニアと王太子のみだ。
「王太子殿下、せめて返事を待ってから扉を……」
タイテーニアは扉から入って来た王太子に苦言を呈しようとして、言葉を止めた。
「どうぞこちらへ」
ソファへ座るよう促し、護衛に会釈してから扉を閉める。
王太子は、会った当初と同じ位、真っ黒なモヤに包まれていた。
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