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46:伯爵家のお茶会

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「いやぁん、ヘレン、久し振り!」
「タイニーも元気だった?色々大変だったみたいね」
「その呼び方はお父様と一緒だから止めてって言ってるのに!もう!」
 出迎えた伯爵夫人とタイテーニアは、学生のようにキャッキャとはしゃぐ。
 初めて見た妻の姿に、オベロニスが表情を崩して見守る。
 先に我に返ったのは、伯爵夫人の方だった。

「あ!失礼いたしました。お越し頂きありがとうございます。シセアス公爵、公爵夫人」
 ヘレンと呼ばれた伯爵夫人が迎えの挨拶をする。
「こちらこそ、招待いただきありがとうございます」
 オベロニスが挨拶を返すと、ヘレンの頬が赤く染まる。

「眺めるだけなら、やはり美形は良いわね」
 ヘレンがこっそりタイテーニアに言う。
「面食いなのに、本命は熊さんなのよね。未だに理解出来ないわ」
 タイテーニアもこっそり返す。
 全部聞こえてますよ、とは言わないオベロニスだった。


 のんびりした雰囲気は、ここまでだった。
 お茶会の会場である庭へ足を踏み入れた瞬間、今まで見た事の無い量の青黒いモヤがタイテーニアを襲う。
 それと変わらない量の赤や黒のモヤがオベロニスを包んだ。

 タイテーニアは自分のモヤも払いつつ、オベロニスのモヤを積極的に落とす。
 オベロニスは体調に変化が出てしまうからだ。

「怖っ!何これ怖っ!」
 モヤには距離による制限があり、まだ入口付近の人からしかモヤは来ていないはずである。
 それなのに渦巻くモヤ。
「オーベンの背中をぶっ叩きたい」
 ある程度の力で叩けば、一気に落とせるからだ。

「ティア、落ち着いて」
 オベロニスがタイテーニアの腰に手を回し、引き寄せた。
 会場内のあちこちから悲鳴があがる。
「帰るまで位なら問題無いから」
 耳元で囁いた後、オベロニスはチュッとタイテーニアの頬へとくちづける。
「オーベン!恥ずかしいから!」
 頬にくちづけられたタイテーニアは、照れ隠しにオベロニスの背中を思いっ切り叩いていた。


「見事な作戦でした」
 顔を真っ赤にしたタイテーニアが呟く。
「いや、別に作戦じゃなく、ティアが可愛かっただけなのだが」
 苦笑するオベロニスには、モヤはたかっていない。

「まだ背中がジンジンしてるよ」
 フフッと笑いながらタイテーニアの手を取り、チュッとくちづける。
「もう、私への嫉妬が凄いから止めてください」
 女性陣が溜め込むモヤを見て、タイテーニアは溜め息を吐き出した。

 シセアス公爵夫妻の居る席に、他の人は居ない。
 お茶会の後半で主催者の伯爵夫妻が来る予定だが、それまでは無人だ。
 それが今回参加する条件だった。


 時間になり、伯爵が挨拶をしてお茶会が始まった。
「庭でのお茶会にしたのは、個別テーブルにする言い訳が出来るからかもしれませんね」
 チラチラと自分をうかがう令嬢達の視線を感じながら、オベロニスが言う。
「そうなのですか?私、少人数の気心が知れたお茶会にしか出た事なくて」

「室内では大きなテーブルな事が多い気がします。周りの席は女性ばかりだし、両隣の女性はやたら触って来るし、良い記憶は有りませんね」
 そりゃ若くして有能な公爵様に婚約者もいなかったら、若い未婚女性は肉食獣並みにハンターになるよ!と心の中でツッコミを入れるタイテーニアだった。


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