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45:貴族と義務と経済と
しおりを挟む皆が健康になり、幸せに暮らしましたとさ!チャンチャン!
……とならないのが貴族である。
いつまでも若々しく美しいヒッポリーナ前公爵夫人が、最近頓に磨きが掛かったと、社交界の専らの噂だった。
そのヒッポリーナが「息子夫婦のお陰かしら」と言えば、後の事は想像に容易い。
シセアス公爵夫妻へ、招待状が山程届く事になった。
「凄いな、女の執念は。派閥違いの家からも招待状が届いている」
シセアス公爵家は仕事柄、どこの派閥にも属していない。
しかし王家や大公と親戚なので、王制派とみなされている。
対立するのは貴族派。
届いた招待状は、王制派、中立派は勿論、貴族派からもある。
「個人的なお茶会なので、気楽にご参加ください」
オベロニスが招待状を読み上げる。
「いやいやいや!何様!?」
タイテーニアが驚いて声をあげた。
今読み上げたのは、貴族派の侯爵家からの招待状だ。
「馬鹿なのかしら?馬鹿なのね?公爵家当主への招待状よ!?」
差出人は侯爵家の令嬢だった。
「彼女の中では、うちの方が格下なのだろうな」
笑いながら招待状をスチュアートに渡している。
オベロニスは招待状を参加と不参加に分けているのだが、偶にスチュアートに渡しているのだ。
何か意味が有るのだろう、とは思ったが、タイテーニアは敢えて聞かない事にした。
参加するのは、王制派の公爵家のパーティーと、伯爵家のお茶会。
中立派侯爵家のパーティーと、貴族派の公爵家のパーティーにした。
唯一参加するお茶会を開く伯爵家は、タイテーニアの数少ない友人が嫁いだ先である。
久し振りに見る友人のちょっと丸っこい字を見て微笑んだタイテーニアを見て、オベロニスは即断で参加を決めた。
「パーティーには時間があるから、揃いの服を作ろうか」
オベロニスに笑顔で言われ、タイテーニアは「はい」と返事をするしかない。
貧乏伯爵家と違い、パーティー毎にドレスを作るのは義務なのだ。
経済を回すのは、金持ちの義務。
旅行の際はなるべく多くの街に立ち寄り、お金を落とす。
ドレスを着回さない。
高い美術品を買ったり、逆に無名の作家を支援したりする。
芸術に限らず、若い才能を育てる。
前にドレスを大量に作られた際に、オベロニスから聞いた話だった。
「金持ちって大変」
そう呟いたタイテーニアに、オベロニスは苦笑して「これからは、シャイクス伯爵家もこちらの仲間入りだけどね」と言っていた。
母はともかく、父は騙されないと良いなぁ~と、密かにタイテーニアは心配した。
その思いは今も変わっていない。
ドレスを作ったり、宝飾品を選んだり、畑で野菜を育てたり、美味しい野菜のレシピを教えにシャイクス家の料理人が来たりと、忙しくしていたら、あっと言う間にお茶会の日になった。
昼間のお茶会に着ていくアフタヌーンドレスも、例の王宮デザイナーが何着か作ってくれていた。
明るい色味でありながら、タイテーニアの持つ雰囲気にも合っている。
夜のギリギリを攻める官能的なドレスと違い清楚なドレスは、それはそれでオベロニスを大層喜ばせた。
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