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05:最高と最低
しおりを挟む彫像のように固まってしまったタイテーニアを見て、オベロニスは溜め息を吐き出した。
それはタイテーニアに対して呆れているとかではなく、失敗した……という自分を責めるものであったが、タイテーニアは肩を揺らす。
「私の話を聞いてくれるか?」
タイテーニアが了承する前に、長くなるから食事をしながらにしよう、とオベロニスは勝手に話を進めた。
オベロニスの話は、自身の子供の頃からの体質についてだった。
健康なのに、いくら医者が調べても何も異常が無いのに、突然体調が悪くなるのだという。
邸内で生まれた時から仕えてくれている使用人と家族としか接しない時には、何も無かったそうだ。
それが新しい使用人、親戚等と接するようになった途端に、体調を崩すようになった。
しかし体調不良に一貫性が無いので、最初は子供の嘘だと思われて本当に辛かった事。
大人になるにつれて、女性が居ると体調を崩しやすくなる事に気付き、未だに婚約者も居ない事。
この前タイテーニアに肩を叩かれ、身内とだけ過ごしていた幼少期以来の体の楽さを感じた事等を淡々と話していた。
「今も……こんなに食事を美味しく感じたのはいつぶりだろう」
本当にそう感じているのがわかるほど、オベロニスはゆっくりと噛み締めながら、一口一口大切に食べていた。
後はデザートで食事が終わるという時に、それは起こった。
今まで給仕は全て男性従業員だったのに、最後のデザートは女性が運んで来たのだ。
服装からして給仕係ではなく、厨房の人間なのだと判った。
「こちらのデザートは私が作りました」
そう言いながら、オベロニスの前にデザートの皿を置く女性。
その女性からは赤黒いモヤが立ち昇っており、タイテーニアからは本来の服の色が判らない程だった。
女性は無言でタイテーニアの前に皿を置く。
自分に纏わりついてきた黒いモヤを、タイテーニアはパンパンと軽く払った。
給仕が終わったのに女性は部屋を出ず、そのままテーブル脇に立つ。
何かおかしくない?と自分のデザートを見て、オベロニスへと顔を向け、その違和感に気付いた。
「あの、このアイスクリームは何味ですか?」
タイテーニアが女性に質問すると、チラリと馬鹿にしたような視線の後「バニラです」と素っ気無く答える。
「オベロニス様のアイスクリームも同じですか?」
しつこく質問するタイテーニアに、女性がイライラとしてくるのが伝わってくる。
「当たり前です!早く食べないと溶けちゃうでしょう!?」
女性の態度に確信を持ったタイテーニアは、スプーンを置いた。
「オベロニス様、それはお食べにならずに調べた方が良いですよ」
タイテーニアの台詞に、オベロニスはすぐに警備員を呼び女性を拘束してから、支配人を呼んだ。
女性は「長年勤めた私と、今まで来た事も無い貧乏人のどちらを信じるのですか!」と騒いでいたが、アイスクリームは国の研究機関で調べられる事が決まった。
「私を信じて大丈夫ですか?」
タイテーニアの言葉に、オベロニスは今までで最上の笑顔を見せる。
「勿論ですよ。妻になる女性を信じられなくてどうしますか」
「は?」
予想外過ぎる返答に、タイテーニアは声以上に間抜けな顔をしていた。
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