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04:敵なのか味方なのか
しおりを挟む「こんな店、二度と来ないからな!」
ニーズは怒りに任せて立ち上がり、膝上のナフキンを食べている途中だった料理の上に叩きつけた。
「はい。ありがとうございます」
にこやかに笑顔を返す店員。
その態度は、ニーズがこの店に、二度と足を踏み入れる事が出来ない事を表していた。
所謂出入り禁止『出禁』である。
「パティ、行くぞ」
席を立ったニーズは、子爵令嬢へ声を掛けた。
しかし当の令嬢はその声が聞こえていないのか、返事もしない。
振り返ったニーズは、パティの視線を辿る。
そこには、男性の手を取り席を立つタイテーニアが居た。
「な!おい!お前も帰るんだよ!」
ニーズがタイテーニアの腕を掴もうと手を伸ばすが、その手は恐ろしい程の力で叩き落された。
その力と、自分を睨む視線の強さに、ニーズの怒りは男性ではなく、タイテーニアへと向かう。
「お前!一緒に来ないなら婚約は破棄だ!良いのか?うちの援助が無くなるぞ?」
下卑た顔で告げるニーズへ答えたのは、タイテーニアでは無く、隣に立つ男性だった。
「それは僥倖。手続きはこちらで済ませよう。そちらからの破棄で、原因は新しい恋人が出来たからで良いな。王宮から届く書類を楽しみにするが良い」
冷たい笑顔の男性の台詞に、ニーズの顔が青くなる。
本気で婚約を破棄するつもりなど無かったからだ。
「な、勝手に何を……」
焦っているニーズに向かい、男性の笑みが深くなる。
「勝手では無い。お前が婚約破棄を宣言したのを、私、オベロニス・シセアスが公爵家当主として証人になってやっただけだ」
相手の身分を知り、伯爵家の息子でしかないニーズは、その場に座り込んでしまった。
茫然と座り込んでしまったニーズは、警備の男性によって店の外へと案内された。
子爵令嬢は、オベロニスとタイテーニアに付いて来ようとして、やはり警備の女性に店外へ案内された。
タイテーニアは、オベロニスの体に纏わりつく赤が徐々に黒く変化するのを見て、床に躓いたフリをしてその背中を叩いた。
驚いた顔をしてオベロニスが振り返る。
「すみません。緊張して足元が」
態とらしい言い訳だと自分でも思ったタイテーニアだったが、オベロニスは何も言わなかった。
案内された部屋は、ニーズと一緒どころか貧乏になる前の伯爵家としてでも来た事の無い、何に触るのも怖いくらいの部屋だった。
テーブルクロス1枚でも汚した日には、伯爵家の食費何日分が飛ぶだろうかと、タイテーニアは戦々恐々としていた。
カチコチに緊張して固まっているタイテーニアに、オベロニスは苦笑を浮かべる。
「それほど緊張しないでくれ。君にはこの前のお礼がしたかったたけだから」
オベロニスの言葉に、タイテーニアは首を傾げる。
この前とは、おそらく初めて街で会った時の事を言っているのだろうと、予想はついた。
だが今まで、自分のした事がバレた事は無い。
逆を言えば、感謝された事も無いのだ。
「前回は気のせいかとも思ったが、先程私の背中を叩いただろう?あれで確信した」
オベロニスの説明に、タイテーニアがヒュッと小さく息を吸う。
若干、顔色も悪い。
「君は、何か不思議な力を持っているだろう?それで私を助けた。違うか?」
タイテーニアは、頷く事も、首を横に振る事も出来なかった。
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