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02:汚れた貴族

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「大丈夫ですか?」
 公爵家嫡男であるオベロニスが街中でいきなり声を掛けられたのは、いつもの理由わけのわからない体調不良を起こしかけた時だった。
 突然起こる体調不良は、起こる症状も違えば状況も毎回違った。
 唯一共通しているのは、始まる前に目の前が一瞬暗くなる事だけだった。

 貧血を起こしたように血の気が引く時もあれば、体中の力が抜ける時もあり、顔が真っ赤になるほど熱が上がる時もあった。

 声を掛けて来た令嬢は、オベロニスの顔を見た後に視線を左肩にズラした。
「失礼します。汚れが……」
 そう言うと、予想以上に強い力で肩をバンバンバンと叩いた。
「いっ!何を!」
 知らないとはいえ公爵家の人間に何て事を!と怒りをあらわにしようとして、体調不良が治っている事に気付いた。


 微笑んだ令嬢は、確信を持ってそう告げた後、颯爽と去って行った。
 オベロニスは、その後ろ姿を眺めていた。



「あれだけなんて、高位貴族の方かしら?」
 タイテーニアは、手についた汚れをパンパンと払った。
 パラパラと落ちた汚れは、赤と青と黒。
「凄いわ、フルコースね。私は絶対に遠慮したいフルコースだけど」
 男性が見えない位置まで来てから、タイテーニアは後ろを振り返る。

「きっと、またすぐにしまうのでしょうね」
 どこか哀しげに見える表情は、タイテーニアだけが知っている無力感のせいだ。
 貴族は性根がまっすぐでは生きていけないのだろうか。

 大好きな父と、大嫌いな婚約者の顔が脳裏に浮かんだ。



 そんな出会いがあって数日。
 今日も婚約者であるニーズに急に呼び出され、豪華な食事をしている婚約者と派手な化粧をして着飾った子爵令嬢を前に、ただの水を飲んでいた。

「お前は俺のお陰で生活出来ているんだぞ」
 またいつもの話だ、とタイテーニアは内心で溜め息をく。
 本当に溜め息など吐こうものなら、どんな嫌味が飛び出してくるかわからないので、実行に移した事は無い。
 この前の貴族とは違う意味で、自分の婚約者は汚れているとタイテーニアは悲しくなった。

 新しいが出来る度に、この最低な婚約者は、タイテーニアを馬鹿にする為だけに呼び出すのだ。
 一度、どうしても抜けられない用事の為に呼び出しを断ったら、女と一緒に家にまで押しかけて来た。
 更にそれから何度もデートの度に呼び出され、今回のように何も食べられずに一日中引っ張り回された。


 ニーズにとってタイテーニアは、婚約者ではなく奴隷だった。
 自分の自尊心を満足させる為の存在でしかない。

 だから何も贈らないし、一緒に食事も食べさせない。
 逆らう事は許さないし、何をしても良いと思っていた。

 今日も新しい恋人に自分の凄さを見せびらかす為だけに、タイテーニアを高級なレストランに呼び出し、豪華な食事をする自分達を眺めさせていた。


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