上 下
58 / 81
金儲けをしようじゃないか!

58:青天の霹靂

しおりを挟む



 今日は朝から夜だった。
 どんより曇った日本晴れ。

 いやいやいや。
 童謡している場合じゃないぞ。
 あるぅ日、森の中、クマさんに、出会ぁった
 ……違う。
 その童謡じゃない。
 動揺だ。

 監禁されて衰弱していたタルトとマルリの両親が無事に回復したので、うちで預かっていた二人を迎えに来た。
 あのギンギンギラギラ夫婦の兄夫婦だと思って、正直あなどっていた。
 ところがどっこい、とても上品で見目の良い夫婦が訪ねて来たんだよ!

 顔が少し似てるような気がしないでもない気もするようなしないような。


 偽物の可能性を疑うほど、それはそれはあの弟とこの兄が似ていなくて……。
「パパ!ママ!」
 マルリが部屋に連れられて来た途端に駆け出した。
「マルリ!」
 女性……母親がしゃがみ込んで走って来たマルリを抱きしめる。
 うん。本物だね、間違い無く。

 タルトは何も言わずに、ただ部屋の入口で立っていた。
 いや、よく見ると目は今にも涙が溢れそうだし、手は小さな握り拳を作っている。
 泣かないように、必死に我慢しているの だろう。
「タルト」
 父親が両手を広げて、タルトを呼んだ。


「うああぁぁぁぁん!!」
 大号泣しながら、タルトが父親に駆け寄り抱き着いた。
 きっと妹に心配を掛けないように、ずっと気を張って頑張っていたのだろう。
 そして感動の再会の場面なのに、俺は『こういう時は親が駆け寄って抱き上げるんじゃないのか?』などと、ちょっと斜め上の事を考えていた。

〈自分から行く事で、感情が出せたのでしょう〉
 へぇ……そういうものなのか。
 アートモはそういうのも分析出来るのか?優秀だな。
 まあ個人差はあるんだろうけどな。
 そしてよく見ると、タルトは母親似でマルリは父親似だった。子供達を抱き上げたまま夫婦で近寄り四人の顔が並ぶと、それがありありと判る。

 うんうん、良かったね。

 俺の素直な感動かったのはここまでだった。
 家族の感動の場面の横で、いかにも仕事が出来ます!というオッサ……壮年の男性がスススッと近付いて来て、流れるように名刺を差し出されたのだ。


「初めまして。ワタクシ、ゴルト商会で責任者をつとめておりますスエヒロと申します」
 渡された名刺には、印鑑のようになっている「末広」の文字が左上に印刷されている。
 これは俺にだけ翻訳で見えているのではなく、マークのような物になっていると思われる。そもそもこの国の言葉は、全てひらがなで見えるからな。
 でもこの人、顔は完全にこの世界の濃ゆ~い顔だ。

〈ゴルトもドイツ語で黄金だし、召喚された人の子孫かもな〉
 マジか!でもガイアの言う事だしなぁ。
〈ゴルト商会は、300年前に異世界から来たと言う青年が作ったものです〉
 アートモがガイアの言った事を肯定する。
 あれ?でも、タルトとマルリの両親が会長じゃないのか?

「この度は、姪孫てっそんを助けていただきありがとうございました」
 オッサ……サンス・スエヒロさんが頭をさげてくる。
 てっそん?
〈この方から見て、兄弟姉妹の孫にあたる方の事です〉
〈こいつ、マルリの爺さんの弟だろ、多分〉
 なぜ弟限定?
〈会長がタルト達の父親として、おそらく本家なのでしょう。そしてこの方が分家でスエヒロを名乗るなら、会長の父の弟と予想されます〉
 はい。了解です。
 こんな時だけ仲良しだね、お前達。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の三下取り巻きに転生したけれど、チートがすごすぎて三下になりきれませんでした

あいま
ファンタジー
悪役令息の取り巻き三下モブに転生した俺、ドコニ・デモイル。10歳。 貴族という序列に厳しい世界で公爵家の令息であるモラハ・ラスゴイの側近選別と噂される公爵家主催のパーティーへ強制的に行く羽目になった。 そこでモラハ・ラスゴイに殴られ、前世の記憶と女神さまから言われた言葉を思い出す。 この世界は前世で知ったくそ小説「貴族学園らぶみーどぅー」という学園を舞台にした剣と魔法の世界であることがわかった。 しかも、モラハ・ラスゴイが成長し学園に入学した暁には、もれなく主人公へ行った悪事がばれて死ぬ運命にある。 さらには、モラハ・ラスゴイと俺は一心同体で、命が繋がる呪いがオプションとしてついている。なぜなら女神様は貴腐人らしく女同士、男同士の恋の発展を望んでいるらしい。女神様は神なのにこの世界を崩壊させるつもりなのだろうか? とにかく、モラハが死ぬということは、命が繋がる呪いにかかっている俺も当然死ぬということだ。 学園には並々ならぬ執着を見せるモラハが危険に満ち溢れた学園に通わないという選択肢はない。 仕方がなく俺は、モラハ・ラスゴイの根性を叩きなおしながら、時には、殺気を向けてくるメイドを懐柔し、時には、命を狙ってくる自称美少女暗殺者を撃退し、時には、魔物を一掃して魔王を返り討ちにしたりと、女神さまかもらった微妙な恩恵ジョブ変更チート無限を使い、なんとかモラハ・ラスゴイを更生させて生き残ろうとする物語である。 ーーーーー お読みくださりありがとうございます<(_ _)>

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...