悪役令嬢の婚約者は頭がおかしい

お話し合い

　リナモモは、悪役令嬢シャルトリューを見つめてから、攻略対象である公爵子息のアンシャンテへと視線を移した。
「一応確認するけど、彼女も転生者？」
　リナモモの問いに、アンシャンテは首を振る。
「うえぇ～！？連れて来たから、お仲間だと思ってたよ！」
　思わず頭を抱えるリナモモの肩に、アンシャンテが手を置く。

「だって貴女が『一緒にいらして』って言ったんでしょう？」
「だって不安そうな顔してんだもん。そう言っておけば、下心とか無いって判るでしょ？」
　リナモモの言葉に、アンシャンテは笑った。

「貴女、良い子ね」
　アンシャンテがリナモモの頭を撫でる。
　それは、社会人が子供を褒める時の仕草だった。
「やっぱロリコン？」
　リナモモが呟くと、撫でていた手がアイアンクローへと変化した。
「あだだだだだ！痛い！マジで！」

　リナモモが苦しんでいると、突然上から影が降りて来た。
　アイアンクローをしていたアンシャンテの手を掴むと、後ろ手に拘束する。
「お嬢様に無体を働く事は許しません」
　お助けメイドだった。



「本当に居たのね、お助けメイド」
　アンシャンテがお茶を淹れているお助けメイドをしげしげと眺める。
　場所は、中庭の四阿あずまやである。

　シャルトリューに全てを説明するには時間が掛かるので、中庭入口で集合してから場所を移動したのだ。
「まずはここの世界観の説明をするわね」
　アンシャンテが簡単に話をした。
　ここが前世でやっていた乙女ゲームにとても類似した世界である事、リナモモがヒロインである事、自分が攻略対象である事、シャルトリューが悪役令嬢と呼ばれるキャラである事。

「ワタクシは、その中のお助けメイドというヒロインを助けるキャラクターです」
　お助けメイドが自己紹介をする。
「貴女も前世持ち！？」
　アンシャンテが驚く。
　それを見て初めて、リナモモもお助けメイドが前世持ちだと気が付いた。


「マジか～。前世持ち多いな、ヲイ」
　思わず呟いたリナモモの太腿を、お助けメイドがペシリと叩く。
「言葉遣い！」
　注意されたリナモモは、あれ？と首を傾げる。
　前にも同じ感覚があったからだ。
　何かを思い出しそうな……？