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リセット王国
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しおりを挟む「聖女様! 聖女様万歳!」
いきなり、本当にいきなり目の前が明るくなり、気が付いたら変な場所に居た。
映画の撮影かと思うような、中世ヨーロッパのような服を着た男の人達と、ゲームの「我が教会に どんな ご用かな?」や「おお!〇〇よ! 死んでしまうとは何ごとだ!」と教会で迎えてくれる神父みたいな人も居る。
高校の時の体育館位の広さの、高そうな石……大理石の床に、私は転んだ時の体勢のまま座っていた。
転んだ、というか転ばされた? いや、あれは落とされたと言うのよね。
職場で下の階に書類を届けに行くのに、丁度良いエレベーターがなかったので階段で行く事にして、後ろから押されたのよ。
私と一緒に来てしまった書類が、かなりの広範囲に散らばっている。
セキュリティの為、データはポケットの中のUSBに保存してあり、このUSBは帰りに会社の金庫に保管する。
まだ了承されていないから、データは会社のバックアップにもあげていなかった。
これ、明日の取引で使うのよね。
私の抱えてる案件の中でもかなり大きい、億単位のお金が動く取引に。
私は会社の同僚を信用してなかったから、上司に了承されるまではバックアップはUSBの中だけにしていた。
皆はこまめに会社のバックアップにあげていたから、私もそうだろうと勝手に誤解したのだろう。
私を突き落とした同僚も。
彼と二人で、と言われていたけれど、アイツは私に全て押し付けて、自分は定時に上がって受付の女とデートしてた。
顔と要領が良い同僚は、他の人の手柄を横取りしていた。
正確には、殆ど携わっていないのに、さも自分も一緒にやったような顔をして、業績をあげるのだ。
今までは同僚の男達に、自分の手垢の付いた女を紹介したり、その手を付けられた方の女と手柄を折半したりしていたので、問題が無かったのだろう。
いや、会社としては大問題だと思うけどね。
とにかく、今回は男を紹介すると言っても、食事に誘っても、一向に靡かない私に焦ったのだろう。
会社のバックアップにデータが無いから、上司に誤魔化しも出来ないしね。
そして奴は私を階段から突き落とした。
USBが欲しかったのか、書類が欲しかったのかは、もう判らない。
「大丈夫ですか? 聖女様」
声を掛けられて、そちらの方へと顔を向けた。
何でアンタがここにいんのよ。
しかも金髪碧眼になって。
社会人らしくないからまとめろって言ってるのに、サラサラな方が女にモテるから、と中途半端な長さの髪型もそのまま。
ただ、色だけが違う。
そして、胡散臭い笑顔もそのまま。
アンタ、さっき舌打ちしてたよね?
私が神父を見てる時、舌打ちしてたよね?
とりあえず散らばっていた書類を集めて、通し番号を確認しながら並べる。
どうやら異世界召喚とかいう、最近アニメで流行りのアレに遭ったらしい。
でももし帰れたら、書類が揃って無いと私は会社でペナルティを食らうので、一応集めたのだ。
「聖女様は聖魔法で、私達の国を守ってくださるだけで良いのです」
胡散臭い笑顔の、同僚そっくりの金髪碧眼は、この国の王太子とかいうのだった。
「……だけ?」
いやいや。こちとら魔法の無い世界から勝手に喚ばれてんだけど?
私の都合は?
「ラーシャルード王国を守るだけで、私の妻となれるのですよ」
ナルシルトか? 最後には泉のほとりて水仙になるのか? この男は。
あの胡散臭い笑顔で、本気でそう思っている口調で、話をする男に心底むかついた。
「まぁ! 聖女様! またそのような服装で!」
朝自分で着替えると、侍女だとかいう世話役の女性に文句を言われる。
用意されたドレスには袖を通さず、平民のちょっと裕福な男性が着るような服ばかりを身に着けているからだ。
いつもパンツスーツだったので、このシャツにズボンとベストという姿が落ち着くのだ。
しかも傷付いた兵士を治療しろだとか、病気の貴族を治せだとか、壊れた聖具を修復しろだとか、果ては教会の高い塔の天辺まで登り、国の結界を維持する為に祈れだとか、人をこき使うのだ、この国は。
あんな重くて動き辛い服など着ていられない。
「またそのようなだらしない格好を」
ゴテゴテに飾り付けたジャケットを着た王太子が、教会へ向かう私を見て、顔を顰めた。
「これから塔を登りますので」
手摺りも無い螺旋階段を登り降りするのだ。身軽な方が良いに決まっている。
それに私はここに来る前に階段から落ちている。
正直、トラウマだ。
「それにしてもだ。私の婚約者としての自覚を持て」
王太子の台詞に、周りに侍っている令嬢達がクスクスと笑う。
お前もな! と言う台詞は、グッと飲み込む。
こっちの世界では知らないが、日本ではお前の行動は浮気と言うんだよ。
婚約者が聞いて呆れるわ。
「それでは婚約者らしく、王太子も塔に登り、一緒に祈ってください」
私が聖女の仕事である結界維持の祈りに誘うと、王太子は高い塔を見上げて「今度な」と言って去って行った。
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