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対決編
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しおりを挟む翌日は、いつも通りニコラウスはクラウディアを迎えに来て、二人で仲良く学園へ向かった。
いつも通り教室へ行き、いつも通りクラウディアの席の近くで話をする。
「おはようございます」
そしていつも通りイサベレが声を掛けてきた。
いつもと違うのは、普段ここで偉そうに声を掛けてくるヨエル王太子が自席で中空をみつめている事だろうか。
「馬車の中でもあのような?」
クラウディアがイサベレへ小声で問い掛ける。
ヨエル王太子は、婚約者の義務として毎朝イサベレを迎えに行くように、と議会からの命令が出ている。
命令しなければ迎えに行かない、という事だろう。
「ずっと小声で何か呟いてましたけれど、聞き取れませんでしたわ」
心底嫌そうに答えたイサベレを、クラウディアとニコラウスは同情の瞳で見つめる。
元々仲は良くなかったが、イサベレは貴族の義務としてヨエル王太子へ嫁ぐ気だった。今ではその気持ちも揺らいでいるように見える。
「このような時に申し訳無いのですが……」
本当に申し訳無さそうにクラウディアが話を進める。
「ルードルフお兄様の結婚式を辞退するとお返事が来てますの」
クラウディアの視線がチラリとヨエル王太子を見る。
イサベレは王太子の婚約者として参加するだろうと、個別で招待状を送っていない。
イサベレの父には、侯爵としてではなく宰相補佐として招待状を送っているので、妻しか同伴出来ない。
本当にヨエル王太子が不参加ならば、このままではイサベレは式に参加出来なくなってしまうのだ。
「確認してまいりますわ」
重い溜め息を吐き出してから、イサベレはヨエル王太子の元へと向かった。
声までは聞こえないが、何やら話しているのは判る。
二人は段々と興奮していき、声が大きくなっていく。
「だから、なぜ婚約者である私に相談せずに断ったのかと聞いているのです!」
「愛しのカミラが行きたいと言ったのだから、当たり前だろう!」
二人の会話がハッキリと聞こえ、クラウディアとニコラウスは顔を見合わせる。
今までヨエル王太子がカミラ妃に懸想している様子など、ただの一度も見た事無かった。
ヨエル王太子が急にカミラを、第一王子の妻を、「愛しの」などと呼ぶ理由が無い。
無い、はずだ。
「ねぇ、ネロ」
クラウディアが指で小さな丸を作る。あの桃色の宝石と同じ位の大きさだ。その丸を胸へと持っていく。ネックレスを表しているのだろう。
魅了の魔法の事を示していた。
「そうだね、僕もそう思うよ」
ニコラウスが頷いた。
それ以外に突然の変化の理由が思い当たらなかったからだ。しかし残念な事に、カミラがヨエル王太子を魅了した理由は判らないし、解らない。
それでも先日の、王宮侍女がニコラウスを狙って来た件を鑑みても、敵の標的はクラウディアのように思われた。
それから何日か経っても、ヨエル王太子の態度は変わらなかった。
あの日、クラウディア達が学校へ行っている間にマティアスが桃色の宝石を王宮へ届けようとしたら、煙となって消えてしまったそうだ。
証拠を残さないように、時間制限を設けてあったのかもしれない。
それでも一応バリエリーン宰相補佐へとペンダントを届け、状況説明を行ったそうだ。
色々と調べられたペンダントは、なぜかまたアッペルマン公爵家へと戻って来た。
「凄いな」
台座だけが残っているペンダントヘッドを摘みながら、ニコラウスが本気で感心していた。
「何が凄いの?」
クラウディアはニコラウスの横に座り、頬が触れそうな程の近距離で、同じようにペンダントヘッドを見つめている。
「魔法の種類が違うと言われればそれまでだけど、僕は自分の魔法を宝石に込める事は……今は出来なくは無いけど、前回は多分出来なかった」
「そうなの?」
驚いたクラウディアが顔を横に向けると、今度は唇が頬に触れそうになる。
「ん! うぅぅん!」
態とらしい大きな咳払いっぽい声が部屋に響いた。
「おーい。私が居る事を忘れてないだろうね?」
マティアスが向かい側のソファから顔を寄せ合っている二人に声を掛ける。
「忘れていませんわよ、失礼ね」
クラウディアが心外な! と怒るが、それに対してマティアスは「忘れていなくてその態度か!」と、反論した。
それを見てニコラウスが笑う。
一頻り戯れあった後、三人して同時に息を吐き出した。
溜め息とはまた違う、諦めでは無いがそれに近いもの。
「現実逃避しても仕方が無いね」
ニコラウスが居住まいを正し、座り直した。
「魅了魔法の使い手は、十中八九カミラ妃ですわね」
クラウディアも背筋を伸ばし、ソファに浅く座る。
「そしてなぜか、ディアに敵意を持っている」
マティアスはソファに浅く腰掛け、自身の膝に両肘を突いて前屈みになっている。
視線の先には、仲良く寄り添って座るクラウディアとニコラウスが居た。
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