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対決編
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しおりを挟む「カミラ様が男児をご出産されたそうですよ」
クラウディア達の学年が最終学年に上がり、試験を1つ過ぎた頃。
イサベレから驚きの情報を教えられた。
「本当に16才までに後継者をお産みになられるとは」
クラウディアが素直に感心をする。
「でもあまり歓迎されないご婚姻でしたでしょう? 乳母も必要最低限で、授乳はご自分でされているそうですわ」
声を潜めて報告するイサベレは、どこか同情的である。
前回のカミラは、授乳は全て乳母に任せていたし、乳母自体も余る程付いていた。
自慢の胸が垂れたりしないようにと、随分と美容にも気を使っていた記憶がある。
「凄い鬼気迫る様子だったよ。睡眠不足で隈は凄いし、肌もボロボロだった」
クラウディアの耳元で、ニコラウスが囁く。
こっそりと王宮内に様子を見に行っているようである。
「それに第一王子? あいつは妻には見向きもせず、18才のメイドに夢中だ」
もしもニコラウスが日本人であれば、『雀百まで踊り忘れず』と例えた事だろう。
浮気者の性根は、相手が変わっても根本的に変わらなかったようだ。
「まぁ、どちらにしても、もう私達には関係有りませんわね」
クラウディアが微笑む。
本気でそう思っていたし、今はイサベレを理由に近付いて来るヨエル王太子の方が面倒だったので、カミラの存在も第一王子王子の存在も、すぐに忘れてしまった。
前回とは違う、ニコラウスやイサベレと一緒の学園生活が楽しいせいもあった。
学園は勉学だけを学ぶ場では無い。
それを初めて実感できていたクラウディアは、第一王子の退場もあってすっかり油断していた。
「ルー兄の結婚式に、第一王子夫妻が来る?」
とてもとても嫌そうな顔と声をしてしまったクラウディアは、悪くないだろう。
どの面下げて……と、ここにいる全員が思っていた。
「国王と王太子には招待状を送ったのだけど、王太子が学生を理由に断ってきた」
イェスタフが王家からの返事を見せる。
その手紙には、確かに王太子が行けない代わりに第一王子夫妻が行くと書いてあった。
「でも、今日学園で会った時には、イサベレ様と一緒に参加する気満々でしたわよ」
怪訝な顔を戻さず、クラウディアが事実を皆に説明する。
そう。確かにヨエル王太子は、学園でクラウディアへ「行ってやる」と偉そうに言っていた。
「それに今、第一王子の妻は子育て中でしょう? それこそ結婚式に出てる場合じゃ無いと思うのよね」
まだ1才にも満たない幼子を連れて他家の結婚式に出るなど、有り得ない話である。
それは子供を三人育てたヒルデガルドが1番よく解っている。
乳母が山程いた前回であっても、体面を考えて子供が2才を越えるまでは、社交は行っていなかった。公の場には元々出ていなかったので、非公式な友人を招いたお茶会ですら、議会に禁止されたのに。
「何かが王宮で起きている?」
今まで黙っていたマティアスが低い声で呟く。
今日に限ってネロが居ないのよね、とクラウディアは心の中で溜め息を吐く。
いつもは呼んでもいないのに、勝手にアッペルマン家に入り浸っているのに。
「何か、得体の知れない気持ち悪さがあるわ」
前回と違う何か、とクラウディアが言葉を零したが、両親と兄には聞こえていなかった。
翌日、学園へ行くのにニコラウスは迎えに来なかった。
入学式から今まで2年以上通っていて、初めての出来事である。
体調を崩したとの連絡も無く、先に行く、又は先に行ってほしい、等の連絡も何も無い。
「私が屋敷に様子を見に行くから、ディアは学園へ行きなさい」
優しく声を掛けてきたのは、兄のマティアスである。ルードルフは結婚式の準備で、既に出掛けている。
「でも……」
「もしも急を要する状態だったら、学園まで迎えをやるよ。それで良いだろう?」
不安そうなクラウディアに、マティアスは殊更優しい声を掛ける。
無言で頷き、渋々馬車に乗り込むクラウディアの後ろ姿を、マティアスは貼り付けた笑顔で見送った。
いつもなら絶対に気が付くマティアスの作り笑顔に気付かないほど、クラウディアは動揺しているようである。
「さてと。可愛い妹を心配させるお馬鹿な義弟を、優しい兄が見舞いに行きますかね」
今日は子供達と過ごす予定だったのに、と溜め息と共に呟きながら、馭者に馬車を用意させる。
「ダァ?」
daddyが上手く発音出来なくて「ダァ」になってしまう幼い息子を抱き上げ、その柔らかい頬に頬擦りをする。
きゃあ! と嬉しそうな声をあげる息子を、愛しい妻の元へと届ける。
愛しい妻は現在二人目を妊娠中である。
「ニコラウスが連絡無くディアを迎えに来ない。ちょっと様子を見に行って来るよ」
カルロッタはマティアスの話を聞いて、目を見開いて驚く。ニコラウスがクラウディアに連絡も無く会いに来ないなど、それくらい異常な事なのだった。
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