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しおりを挟む「大人達の会話を盗み聞きして、許可も取らずに突撃した……という感じか?」
マティアスが視線を令嬢から手元の紅茶へと移す。
「傍迷惑な」
ニコラウスも視線を落とした。
ルードルフはまだポカンと令嬢を見ていたが、クラウディアに腕を引かれて視線を逸らした。
「ニコラウス卿、それでそのお菓子は?」
クラウディアが令嬢を居ないものとして、四人でのお茶会を再開する。
「これは僕の瞳のような赤いゼリーを、クラウディア嬢の髪のような白い砂糖で包んだお菓子です。ゼリーの水分を減らして、日持ちを良くしたのだとか」
ニコラウスの手から、小さい菓子箱がクラウディアへと渡される。
「綺麗ですわね」
9つに仕切られた箱の中には、形違いの赤いゼリーが並んでいた。
「はい。これは違う色」
今度は大きめの箱がルードルフに渡された。
「わぁ!」
15に仕切られた箱の中は、赤も含めた多彩なゼリーが入っていた。
「自分の色だけ別に持って来るとか……」
呆れた顔を隠しもせず、マティアスが言う。
「クラウディア嬢を楽しませるのは、常に僕だけで良いですから」
「いえ。他の色も食べますよ。これ、模した果物の味がするゼリーですよね」
にこやかに会話しているが、そこはかとなく怖い。
「美味しそう! 食べて良い?」
箱の中から紫葡萄を模したゼリーを摘んだルードルフが言う。
マティアスが笑顔で頷く。
「では私はこれを」
緑葡萄型のゼリーを摘まもうと伸ばしたクラウディアの手はニコラウスに掴まれ、反転させられたと思ったら掌の上には苺の形のゼリーが載せられていた。
「せめて1個目くらいは赤にしてください」
真剣な表情のニコラウスに苦笑し、クラウディアは大人しく赤いゼリーを受け取った。
「では僕も、赤をしっかりと噛みしめるとしようかな」
林檎型のゼリーを摘みながら、マティアスが言った。
和やかな雰囲気の四人を見ながら、令嬢は体の横で拳を握りしめ、体をワナワナと震わせていた。
今まで侯爵令嬢として生きてきて、これ程までに無下に扱われた事などあるわけもなく。
「どうか本日はお引取りを」
静かに声を掛けてきた、公爵家の執事を睨み付けた。
「うるさいわね! 私を誰だと思ってるの?! 早く席を用意しなさい!」
令嬢が執事を突き飛ばすようにして怒鳴る。
誰だも何も、ここは公爵家であり、一緒に居るのは筆頭侯爵家の令息である。
どう考えても、ここに居る子供の中で1番身分が低いのは令嬢本人だ。
しかし今までの経験が、令嬢の愚かで悲しい勘違いを加速させていた。
「街の衛兵を呼んで来るのと、うちの私兵に拘束させるのと、どちらの方が良いか」
軽く折り曲げた指を顎に当てながら、マティアスが考える振りをする。
そもそも考えを口に出すような愚行は起こさない。これは令嬢に対しての威嚇行動だ。
それに対して正しい対応をすれば問題無い。
「何を馬鹿な事を! この私を捕まえる? あははははは。出来るわけ無いじゃない」
令嬢は間違えた。完璧に。
1番最悪な態度を取ってしまった。
衛兵を呼ぶでも、私兵に拘束させるでも無い、第3の選択肢。
「ヘルストランド卿、後はお任せしますね」
マティアスがニコラウスへ笑顔を向ける。
「それは、私への依頼と考えても?」
ニコラウスが笑う。
「いやいや。それでは川に浮かんでしまうでしょう? あくまでもディアの兄としてのお願いですよ」
マティアスの言葉に、ニコラウスの視線がクラウディアへと向く。
「そうね。私、あのような方がお義姉様になるのは絶対に嫌だわ」
クラウディアが赤いゼリーを口に入れた。
令嬢のあまりの蛮行にルードルフが怯え始めた頃、公爵家の私兵がお茶会の席の周りを囲んだ。
完全に拒否されたのを実感したのは、令嬢本人よりも付き従っていた侍女達だった。
「お嬢様、帰りましょう」
「公爵家から正式に抗議されてしまうと、婚約に支障が出ます」
「後日、こちらがお茶会を開催して招待すればよろしいかと」
必死に令嬢を説得している。
残念ながらこの令嬢と共に行動してきた侍女である。主人を諌める事をせず、助長させた者達。
「ふん、しょうがないわね」
令嬢が踵を返し、去って行く。
執事の横を通る時に「私が主人になったら、アンタは1番にクビにしてやるわ」と言っていたのを、他の使用人は困惑した表情で見つめた。
公爵家では、この令嬢を婚約者として迎える予定は無いし、おそらくこの先も無いからだ。
今日、ヒルデガルドが侯爵家のお茶会に参加したのは、令嬢との婚約は絶対に無いと宣言する為だった。
それほど、この令嬢は公爵家で嫌悪されていた。
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