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02:むすめに会いました
しおりを挟む「はじめまして! アタシ、パパのむすめのレヒニタって言うの!」
初めて会う義娘は、どう大目に見ても成人しています。
結婚式に参列していた時、真っ白いワンピースドレスに白い花飾りを頭に着けていて、常識の無い装いが気になった方でした。
ベールを被ったら、私よりも花嫁らしい衣装です。
「カリナ・フォルテアと申します」
軽く会釈して挨拶をすると、レヒニタさんは横に座る私の夫の腕に自分の腕を絡ませて、体を密着させました。
そう。私は一人で座り、向かいの席に夫とレヒニタさんが並んで座っているのです。
「ねぇ、レグロぉ。カンナさんってばおっかしいのお~。自分の名前間違えてるぅ」
アハハハと大口あけて笑う姿は、確かにきちんとした教育を受けたとは思えません。私の名前は態と間違えているのか、きちんとした発音が出来ないのか、どちらなのでしょう。
「そうだよ、カリナ。君はもうフォルテアじゃなくて、俺の妻のアレンサナ夫人だろ?」
本当にそう思っているのならば、そのレヒニタさんの腰へ回した腕をどうにかしてください。
結婚した途端に態度が変わる男性の事はよく耳にしますが、ここまで酷い方は少ないでしょうね。
ゆっくりと家族になろうと本気で思っていた自分が、滑稽で、哀れで仕方ありません。
私が敢えて「フォルテア」と名乗った嫌味にも気付かず、二人は馬車の中で体を寄せ合い、恋人のように振る舞います。
いえ、実際に恋人なのでしょう。
何せ血の繋がりのない親子なのですから。
新居までの道程が、とても長く感じます。
二人は私など居ないかのように、クスクスと笑いながら会話をしています。
もしかしたら、態と聞かせているのでしょうか?
「ねぇパパ。こうしゃく? が怒って私の世話をする人が居なくなっちゃったじゃな~い? 明日からは、カンナさんが私の面倒を見てくれるんでしょ? だって母親だしぃ~?」
貴女が本当に幼い子でしたらそれもありましたが、成人しているのでその限りではないですわね。
「当たり前だろう。その為に結婚したんだからな」
この男は何を言ってるのでしょうか?
雇用契約の書面を交わしたわけでもないですし、成人している義娘を養育する義務はありません。
お断りいたします。
結婚前に調査はしましたが、彼の言葉に嘘は無かったので騙されました。
貴族の養子は、親族でなければ子供の年齢を調べられないのも災いしました。
全て公開してしまうと、お家騒動が露見してしまう危険があるからしょうがないのですが……。
前の奥様と離婚してすぐに養子を迎えていたのを、公式記録で確認しました。
「義娘」の話は嘘では無かったのです。
愛人でも居て、その人が子供を産んだのが原因で離婚になったのだろう、と予測していました。世間体もあり「血の繋がりがない」と言っているのだと、勝手に納得していました。
そこら辺の話は、調べても出て来なかったのです。
ただ、離婚後に外に愛人を囲っている様子が無かったので、子供を引き取って関係を精算したのだと思ってました。
愛人を作った事は褒められませんが、子供を引き取って育てる誠実さは有るのだと、そう思っていたのです。
まさか中に引き入れていたとは、思いませんでした。
「学校に行けないのできちんとした教育を受けさせたい」。
年齢的に、今更学校へ行けませんものね。
「人とあまり接して来なかったので社交界の規則を教えてやりたい」。
正式に結婚しなかったという事は、平民出身なのでしょう。
「難しい気質なので気のおけない相手に世話をして欲しい」。
侯爵家として、醜聞を完璧に隠したいのですね。
今までの事を思い返していたら、馬車が止まりました。
新居へ着いたのでしょう。
夫が先に降り、レヒニタさんの手を取り降ろします。
そして私へ手を差し伸べてきました。
無視していると、車体を強く叩いてきました。
「おい! さっさと降りろ! 再婚してすぐ離婚なんて、恥ずかしくて出来ないんだから諦めろ!」
確かに、ただでさえ私は伯爵家で、相手は侯爵家です。
「カンナさ~ん、駄々こねてないで早くしてよ~。お腹空いた~」
レヒニタさんにまで急かされ、私は益々意固地になっていました。
「いかがいたしました? 旦那様」
馬車が停まったのになかなか主人が入って来ないからでしょう。
使用人が声を掛けてきました。
私の座っている席からは、相手の姿は見えません。
でも、でも、この声は……?
「新しい妻だ。部屋へ案内して、適当に皆へ紹介しておけ」
私を降ろす事よりレヒニタさんを優先する事にした夫は、私を使用人に任せて部屋へと入って行きました。
でも、それで良かったのです。
私は彼の顔をゆっくりと確認出来るのですから。
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