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26:聖女と嫁ぎ先
しおりを挟むアッロガンテの愚かな一行がウサギに姿を変え、野菜を腐らせて口から吐き出し、街の恐ろしさを実感している頃。
アフェクシオン開拓団一行は、空を駆けるが如くと称される魔馬の全速力と、騎士団の魔法の力で国境を越えていた。
かなりな強行軍でアフェクシオン国内へと帰って来た開拓団は、それを感じさせない、相変わらずの呑気な食事をしていた。
最近では、ミレーヌの為にデザートの種類が増え、女性陣が喜んでいる。
「やっぱ、ケーキがあると違うっすね!」
一部男性陣にも好評のようである。
「アッロガンテ王国内で何日か泊まるのだと思ってましたわ」
実際にミレーヌの輿入れ時には、王都までの間に何泊かしていた。
「いやいや。うちの大切なお姫様を、あんな国に1日だって置いておきたくないですな」
騎士団長が呵々と笑う。
「それにしても、結局私は何も手助け出来なかったです」
辺境の土地を豊かにしても、作った野菜はアッロガンテ国民に拒否されてしまったし、土地を浄化した事によって消滅した魔物は目の当たりにしていないので、実感が無い。
魔物が湧く原因だった魔物の森が結界で囲まれた事や、魔物の住処になっていた山に聖泉が出来た事で聖域になった事なども、ミレーヌは知らない。
「本来、ミレーヌ様と婚姻して大切にするだけで、アッロガンテ王国内から全ての魔物が消滅していたはずだったのです」
ここ最近、専属の護衛のように側に居るオリヴィエが、ミレーヌに非は無い、と告げる。
「そうっすよ~。それに、今だって魔物の総数は確実に減ってるはずっすからね! ミレーヌ様は充分に仕事されましたって!」
副団長補佐官のテランスが3個目のケーキを手に持ちながら言うと、ニノンがその皿に4個目のケーキを載せた。ご褒美のようである。
「お城に帰ったら、新しい嫁ぎ先を探さなくてはいけませんね」
皆に慰められたと思ったミレーヌは、今度こそ嫁ぎ先で役に立たなくては、と小さく握り拳を作っていた。
アフェクシオン王宮では、緊急会議が行われていた。
議題はミレーヌの結婚である。
ミレーヌがアッロガンテ王国に嫁ぐ話は、瞬く間に広がった。聖女の婚姻なのだから当然だろう。
そしてアフェクシオン国に戻って来る事も、既に知られている。
その為に、正妃ではなく側妃に迎えようとする国や、親子ほど年の離れた王など、前回は遠慮していたのであろう相手からの申し込みが来るようになった。
実際は婚姻自体が成立しておらず、出戻りでは無いのだが、勘違いしている国は多かった。
「この国は既に2回断ってるのに、また送って来たのか!」
王太子が机に手紙を投げつける。
「こちらなど、王族ですら無いただの公爵家ですわ。しかも次男ですって」
王妃が手に持った手紙をフルフルと振る。
婚姻すれば侯爵を叙爵出来るらしいが、完全に下に見られている。
「これなど後宮入りの話だよ。あぁ、信仰心の低い事で有名な皇帝だ」
国王が言った途端に、手紙が燃え上がり灰も残さず消えた。
シ……ンと、会議場内から音が消える。
「ミレーヌは、国内の者に嫁がせましょう」
王太子が言う。
「時間が掛かっても良いわ。好きな相手、せめて聖女としての使命とか関係無く、一緒に居たいと思う相手を探させましょう」
王妃も王太子の意見に賛成する。
「そうだな。我が国の国民ならば、創造神の逆鱗に触れるような事は無いだろう」
国王も、ミレーヌの結婚相手は国内に求める事に決める。
王家がそう決定したのならば、と会議場内に居た大臣達も賛成した。
聖女ミレーヌを他国へ嫁がせる予定は無い事が、アフェクシオン国から聖教国グラウベンへと報告された。
それは各国の神官へと通達され、そのままその国の管理者へと伝えられた。
大抵の国はそれで諦めたが極稀に、理解力か信仰心の低い者が居た。
そういう輩は、何日か高熱で寝込み、目覚めた時には「食べ物が腐る」「ウサギの姿になり、悪人に追いかけ回された」と、悪夢の内容を口にしていたらしい。
「夢で良かったですね」
治療の為に呼ばれた神官は、どこの国でもそう言って冷たい笑顔を浮かべるそうだ。
公にはされていないが、アッロガンテの愚行は、クロワール教の聖地である聖教国グラウベンでは有名である。
教訓として、ウサギの話も、特殊な結界の話も、国名は伏せているが教皇から話されている。
緘口令が敷かれているので、聖教国グラウベンからその話が漏れる事は無いが、アッロガンテ王国に出入りしている商人達から広まるのも、そう遠く無い未来の話だろう。
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