26 / 30
25:神々の後悔
しおりを挟む「中途半端な挨拶しか出来なかったけど……あの様子では仕方ありませんわよね」
ミレーヌが流れるように変わっていく景色を見ながら、向かいに座るニノンへと話し掛けた。
魔馬の全速力で移動している馬車の中だが、空間魔法が施されているので部屋の中のように静かである。
「驚くほど多数の妖精達が上から狙ってましたものね」
表情は笑みを模っているが、ニノンの目は一切笑っていない。
あの場に居たアフェクシオン国民全ての守護妖精達が、アッロガンテ王国一行の上に集まり、いつでも攻撃出来るように待機していた。
あまり他国では知られていないが、妖精達は単独でも魔法が放てるのだ。実体の無い精霊とは根本的に違う。意思があり、感情があるのは精霊も妖精も同じだが、力を貸すだけの精霊とは違い積極的に動く。
あのままあの場所に居たら、ありとあらゆる攻撃魔法が展開されていただろう。
ミレーヌが知らない、聖女やアフェクシオン国を見下したサロモンやアッロガンテ王国の態度を、妖精達は知っていた。
「それにしても、1番に行動しそうなお方が居なかったですよね」
ニノンがこっそりと声を潜める。
「あぁ、ーー様」
ミレーヌが妖精王の名前を言うと、ニノンは自身の口に人差し指を当て「しーっ!」と焦った様子で言う。
いつもは強気で騎士との力比べを嬉々として行うニノンの、あまり見られない姿。
この姿を他の人の前でも見せれば、武闘派最強侍女などと言われて恐れられないのに、などと全然関係無い事を考えていたミレーヌだった。
武神シュトライテンは、額を地面に擦り付け、土下座していた。
気分的には、穴を掘って地面に埋まりたいほどである。
目の前では、創造神シャッフェンと妖精王が優雅にお茶を飲んでいた。
『結局、この国は何がしたかったのか、理解出来なかったな』
妖精王が呟くと、武神はビクリと肩を揺らす。
『朕の為に、偶像の聖女が欲しかったのだろう。あまり求心力のない国王だったのでは?』
創造神の言葉に、武神はその通りです、と答える。
仮に聖女と結婚していたとしても、自分は王都の安全な王城に居て、聖女だけ辺境の危険な地域へ行かせて酷使していただろう。
国の為、民の為に、他国の聖女を娶ったのだと宣伝しただろう。
思いの外大物の聖女……治癒魔法が使えるだけではない者が来てしまい、予定が狂ってしまった。
『ミレーヌが『愛されるもの』だと知れば、考えを改め大切にすると思っていたのだが……何も変わらなかったな』
創造神は溜め息を吐いた。
まさか『愛されるもの』の意味を知らない国があるなどと思っていなかったのだ。
その為に、ミレーヌに要らぬ苦労をさせてしまった。
本人は苦労だとは思っていなかったようだが、創造神は後悔していた。
ミレーヌの人生に過干渉はしないと、祝福を与えた時に決めていた。
だから結婚を決めた時にも、反対はしなかった。
『先に国ごと滅ぼしてしまえば、ミレーヌが嫌な思いをする事など無かったのにな』
創造神の後悔は、アッロガンテ王国の良心に期待した事だった。
武神シュトライテンは、後悔していた。
アッロガンテ初代国王に祝福を与えた事を。
当時から武力を重んじる民族だったアッロガンテは、他の国の民から蛮族と呼ばれていた。
迫害されてたどり着いたのが、今のアッロガンテ王国のある土地である。
魔物が跋扈する土地で生きていくには力が必要だろうと、蛮族の中で1番強かった者に祝福を与え、建国の手伝いをした。
武神シュトライテンを崇めるクレーデレ教が興された事も、それが国教になった事も、問題無かった。
いつの間にか、創造神シャッフェンを信仰するクロワール教を許さない風潮になってしまっていた事が問題だった。
邪教扱いや、禁教にしていたならば、逆に止める事が出来ただろう。
なんとなく、そんな感じ。
ゆっくりと時間を掛けて排斥されてしまい、完全にクロワール教の事は忘れ去られてしまった。迫害されて建国した国民性からか閉鎖的で、戦う力が何よりも重宝されすぎて、王侯貴族が傲慢になっていった。
神としてはまだ幼いとさえ言える故の、武神シュトライテンの失敗だった。
妖精王は、土下座している若い神を見下ろしていた。
正直、神々の事など興味が無い。
今は愛しいミレーヌを馬鹿にした者達の末路を見たいが為に、この場に残っただけだった。
『ウサギにするのは良い案だったな』
横に居る創造神を褒める。
弱く脆く戦うよりも、逃げる事に長けている動物。
声帯は無く、元が人間ならばお互いの意思の疎通も難しいだろう。
今までは悪意や害意が有るものは入れない結界だったが、今は魔物が入れないだけだ。
ウサギの天国ではなくなってしまった。
それなのに、街の外に逃げる事も出来ないので、人間に戻る事も出来ない。
『善人だけは、結界を抜けられるぞ』
創造神の言葉に、彼の言う善人とはどこまでの善を求めるのだろうか、と妖精王は首を傾げた。
もしかしてそれは『善人』ではなく『聖人』では? と思ったが、心の中に留めておいた。
38
お気に入りに追加
1,041
あなたにおすすめの小説
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。
弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。
浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。
婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。
そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった――
※物語の後半は視点変更が多いです。
※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。
※短めのお話です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる