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23:お久しぶりです

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 準備期間僅か1週間で、アフェクシオン国の開拓団は、帰国の準備を整えてしまった。
 魔牛も牛も、既に自国へ転送済みである。広い牧場も今ではウサギの天下となっていた。

 畑は、商人が隣国から農家を呼び寄せて、引き継ぐ事に決まった。
 ミレーヌはアッロガンテ王国と揉めないかと心配していたが、商人達は「絶対に大丈夫です」と自信満々に答えていた。
 それはそうだろう。
 アッロガンテ国民は、この街では文句を言える姿でいられないのだから。


『では、この国の国民の為に、地続きにしてやろう』
 妖精王は、川で完全に隔離されていた街へ、自由に出入り出来るように大きな橋を掛けた。
 幅数十メートルもある橋である。

 その橋を渡った街の外側の所で、ミレーヌ達アフェクシオン国開拓団一行は、アッロガンテ王国国王一行を待っていた。
 一応の挨拶を交わしてから、自国へ帰る為である。
 街の外で待つように勧めたのは、隣国の商人達であった。

「街の中で会うと、やれ挨拶だ、やれ食事だと、無駄に時間が掛かりますよ。別れの挨拶をして、すぐに出立すると意思表示しておかないと、下手すると何日も引き止められるかもしれません」
 商人達は、そうミレーヌに助言していた。
 アッロガンテ国民が街に入るとウサギになってしまう事を、心優しい聖女様に知らせたくなかったのだ。

「そうですわね。婚姻が流れてしまって、お互いに気まずいですものね」
 素直なミレーヌは、商人達の助言を聞き、街の外でアッロガンテ王国国王サロモネ一行を待った。
 勿論、妖精達からの報告が有るので、直前まで街中でくつろいで過ごし、街の外で待ったのはホンの10分も無い程の時間である。



「なかなか殊勝な事だな」
 アフェクシオン国の一行が街の外で待っている、と馬車の中で聞いたサロモネは、顔をほころばせた。
 そこまでして迎えるのだから、やはり大国との繋がりが欲しくなったのだろうと自分に都合良く解釈したのだ。

 神司しんしと大公は反対したが、やはり婚姻の話を書いて良かったと思っていた。

 ミレーヌがサロモネに謝りすがり婚姻を結ぶ為に、街の外で待っていると思ったのだ。
 明け渡すだけなのならば、勝手に姿を消すだろうという、不義理な考えを持っていた。それがアッロガンテ王国では当然の事だから。


「出迎えご苦労!」
 サロモネが尊大に言うと、ミレーヌは不思議そうに首を傾げた。
 出迎えと言えば、出迎えかもしれないと思い、その件には触れない。
「お久しぶりです」
 ミレーヌが王族らしい、見事なカーテシーを披露する。
「それでは、皆様、ごきげんよう」
 続けて、別れの挨拶をした。本当はもう少しまともな挨拶を考えていたのだが、サロモネの態度にどう接して良いのか判らなくなってしまったようだ。

「街には森の管理の為の傭兵や冒険者も残っておりますし、畑や街については商人達に確認してください」
 一応は開拓団の責任者である騎士団団長ガストンが、サロモネに説明をした。
 頭を下げない無礼な態度なのは、無論、わざとである。

 ガストンは話をしながら、チラリとオリヴィエへ視線を送った。
 その視線に軽く頷いたオリヴィエは、黙礼をして側を離れる。

「ミレーヌ様。すぐに出発出来るように馬車へお乗りください」
 オリヴィエは、戸惑うミレーヌを馬車へと誘導する。ガストンから説明を聞いている間、チラチラとミレーヌを見るサロモンの視線に良からぬものを感じていた。

 今日もミレーヌは、妖精の織った肌触りの良い布で作られたドレスを着ている。派手さは無いが、ミレーヌの魅力を充分に引き出していた。
 アフェクシオンからミレーヌの服を作る為だけに来た服飾師の渾身の作である。
 当たり前だが、とても良く似合っていた。



 街の周りを、ほんのりと光が包みこんだ。
「おぉ!」
「神の御加護だ!」
「我等を歓迎しているのだな!」
 初めて見る大規模な結界の光に、アッロガンテ国一行は感動している。

 しかし、彼等は知らなかった。
 今までは悪意や害意が有る者は街に入れなかったのだが、その効果が切られた劣化版の結界に変わった事を。

 そして、創造神の怒りがおさまってなどいない事を。



「騎乗!」
 ガストン団長の声に、騎士達が全員魔馬に乗る。
 サロモネは、街の住民に威厳を示す為の、自分の為の行進だと気分良く馬車に戻り……窓の外を見て唖然とした。
 アフェクシオン国の一団が、街とは違う方向へ全速力で駆け出したからだ。

 魔馬での全速力である。
 激しい砂埃が舞い上がり、それが落ち着いた頃には、影も形も見えなかった。



 戸惑いながらも街に入った一行は、列の最後の一人が入るまでは何事も無く進んだ。
 少し離れた所から見ていた商人達は、アフェクシオンの国民が居なくなったから、アッロガンテ国民のウサギ効果が切れたのかと思って眺めていた。

 最後の一人が街に入った瞬間に、ポポポポポポポポポンと面白いくらいに人々がウサギに変化した。
 馬に乗っていた騎士は、馬の上でウサギに。
 馬車の馭者は馭者台でウサギに。
 馬車の中で偉そうにしていた人達は、馬車の中でウサギに。

 街に入ってすぐに変化しなかったのは、ただ単に先頭がウサギに変わってしまうと、後続が逃げてしまうからだった。

 1番後ろに居たウサギが、慌てて街を出ようとした。
 そこで、今までと違う現象が起きた。
 ウサギが見えない壁に阻まれて跳ね返り、街から出る事が出来なくなっていた。


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