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04:聖女の称号

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 水晶玉が眩しいほどに輝いた。
 今まで見た事も無い激しい光に、神司は戸惑う。
 自国の聖女の判定をした時には、ランプ程度の明るさだった。
 このように目を開けていられない程の光では無かったはず。

「しょ、称号は……『愛されるもの』です」
 神司の言葉に、神殿内がざわついた。
 ミレーヌは周りの反応が理解できずに首を傾げる。
 自分が『愛されるもの』なのは当然の事だったから。

「お前は聖女じゃなかったのか!?」
 サロモネがミレーヌを怒鳴りつける。
「私は確かに、自国では聖女と呼ばれておりました」
 困惑しながらも、ミレーヌは答えた。
 この国は、が必要だからと求婚してきたのでは無かったのだろうか、と。

 
「それならばなぜ、治癒魔法が使えないのか!」
 祭壇に置いてあったペンとインク壷を、サロモネは勢いよく払い落とした。
 飛んだインクは、ミレーヌの真っ白なウェディングドレスに飛び散り、広範囲に広がり黒い染みになる。

 神司は怒り狂うサロモネを見て、しょうがない事だと思っていた。
 本来聖女が水晶玉に触れると、『治癒魔法を使うもの』と浮かび上がるはずなのだ。
 しかしここで、神司は気付くべきだった。
 過去の聖女と呼ばれた者よりも、遥かにまばゆい光を水晶玉が放っていた事に。

「こんな結婚は無効だ! 聖女を寄越せと言ったのに、ニセモノを寄越しやがった! 大国アッロガンテを舐めているのか!?」
 祭壇の前にミレーヌを残したまま、国王サロモネは神殿を出て行ってしまった。



「治癒魔法など……」
 ミレーヌが呟く。
 神司はミレーヌを慰めようか迷う。
 小国の王女が溺愛され、聖女などと呼ばれて勘違いしてしまったのだろうと。
 それは本人のせいでは無いかもしれないが、大国アッロガンテをあざむこうとしたのは、決して許される行為ではない無い。

 治癒魔法という特殊な魔法が使える者は、とても少ない。
 そのため特別な地位を表すために、聖女と呼ばれるのだから。

「……治癒魔法など、国民全員が使える魔法ですのに」

「は?」
 神司がミレーヌを凝視すると、ミレーヌは首を傾げながら、本当に不思議そうに言葉を続ける。
「私の侍女であるニノンも使えますわよ」
 ミレーヌに示されたニノンは、神司の視線を受けて頷いた。


「そ、それならば! 先日の魔物との戦いで折れたそれがしの腕を!」
 参列者の中から、一人の軍人らしき男が進み出た。
 立派な軍服を着ているその腕は、三角巾によって吊られていた。

 侍女ニノンは軍人に近付くと、手をかざして「治癒」と呟いた。
 淡い光が腕を包む。
「お、おぉ!!」
 軍人は三角巾から腕を引き抜くと、指を開いたり閉じたりした後に握り、反対の手の平に勢いよく叩き付ける。
 パアンと小気味良い音が響いた。

「詠唱は? 魔法を使うには、精霊にお願いをする賛辞が必要だろう?」
 他の参列者が叫んだ。
「妖精王に愛されるミレーヌ様が生まれた国では、精霊を褒め称える必要はありません」
 ニノンが言う。
「そもそも自分を守る妖精が必ず側にいるのに、どこの誰かも判らない精霊を褒め称える? 意味が解りません」
 ニノンが掌を上に向けて胸の前まで持ち上げると、手の上の空間が淡く光った。

 アッロガンテ王国の人間には淡い光にしか見えていないが、アフェクシオン国の住人には可愛らしい妖精の姿が見えている。
「ドレスを届けてくれてありがとう。妖精王様にお礼を言いたいわ。でも、汚れてしまったの……」
 ミレーヌが妖精に話し掛けた。



「なんということだ……」
 神司は顔面を蒼白にして呟く。
 聖女にしか使えないはずの治癒魔法を、国民全員が使えるなど、そのような事があり得るのか?

「そ、そちらのニノン様に称号の確認をお願いしても?」
 神司は、もしやこの侍女の方が本当の聖女で、王女に手柄を譲っていたのでは? という考えに思い至った。
「かまいませんよ」
 ニノンは祭壇の前まで行き、水晶玉へと触れる。

 ミレーヌ程の光ではなかったが、神司の知っている聖女よりも遥かに輝いていた。
「火に長けたもの……?」
 出た称号は、火魔法を得意とする意味だった。『治癒魔法を使うもの』とは出なかった。

「私は、ミレーヌ様をお護りするのも重要な仕事ですからね」
 ニノンは出た称号を確認して、誇らしげに頷く。ニノンの周りでは、先程の光が踊るようにクルクルと舞っていた。
「さすがは火の妖精に守られているニノンですわ」
 ミレーヌも結果に納得している様子で、嬉しそうに微笑んでいた。


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