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114:予想外の出来事
しおりを挟む可愛い雑貨屋の中をフローレスとマティアスが見て回っていると、フワフワの可愛いワンピースを着た女性が近付いて来た。
「あれぇ?マティアスじゃない~。えぇ!?偶然~やだ、何してるの?」
うふふ、と可愛く笑って見せているが、その視線は明らかにフローレスを値踏みしていた。
「一人で来たけど、淋しいなって思ってたんだ~」
偶然会ったように装っているが、独りで来たにしては服装に気合いが入り過ぎている。
これは、絶対にマティアスと会うのを狙って来ていた。
その証拠に、マティアスの横に居るフローレスの事は完全に無視している。
「へ二……フローレスさん、こちらはうちの出版社の近くの食堂で働いている方です」
マティアスは、フローレスをエスコートしているので優先するのは当然なのだが、女性側はそれが気に食わなかったようだ。
マティアスがフローレスの方へ向いている間、凄い目つきでフローレスを睨んでくるのだ。
そしてマティアスの顔が向くと、途端に可愛い雰囲気を表情にのせる。
そのあまりの変わりように、フローレスは感動すら覚えた。
「これが、恋する乙女の本性なのですね」
目をキラキラさせたフローレスが、マティアスと知り合いの女性を見る。
「私の知っている世界とは全然違いますのね。打算も駆け引きも無く、立場も関係無く、ただ本能のままに感情をぶつける……素敵」
彼女の行動は、フローレスの僅かに有る作家としての琴線に触れてしまったようである。
「マティアスさん、お茶をしに行きましょう」
フローレスの突然の申し出に、マティアスは焦りながらも了解する。
「それでは、私達はこれで……」
マティアスが女性に挨拶をして分かれようとすると、フローレスが「え?」と驚く。
「え?」
フローレスが驚いた事に、今度はマティアスが驚く。
「彼女も一緒に決まってますでしょう」
当然のように言うフローレスに、マティアスは更に驚き、女性は怪訝な表情をする。
しかし、女性はすぐ立て直す。
「何?自分の方が優位だって示したいの?マティアス~私も一緒に行って良いんだって~」
前半はマティアスには聞こえない小声で、後半はマティアスの腕に自分の腕を絡めながら、上目遣いで甘えた声を出した。
同僚お薦めのカフェは、女性を口説くのに相応しい雰囲気の店だった。
「わぁ!前から来てみたかったの!」
店で可愛く喜んだのは、フローレスではなく女性の方だった。
フローレスは女性の反応を見て喜んでいる。
「この前、マティアスの職場の女性達がね、食堂で色々なお店のお話してたの~」
二人掛けのソファ2つの四人席。
マティアスと女性が一緒に座っている。
フローレスは、ソファに一人で座っていた。
フローレスを席に座らせたマティアスは、自分はその前のソファに座った。
そこは貴族としての身に付いた習慣である。
恋人や婚約者で無い男女は、通常並んで座らない。
そして女性は平民の常識として、狙っている男の隣に座ったのだ。
名前も知らない女性に隣に座られたマティアスは、ただただ内心で焦っていた。
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