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61:王国の貴賓室にて
しおりを挟むフローレスが自由を満喫していた頃。
アダルベルトはペアラズール王国の貴賓室で、フローレスが無事にオルティス帝国領に入った報告を受けていた。
「そうですか。出国も問題無く?」
「身分証明書提出や出国審査も全て免除されました」
「国としては問題ですが、こちらとしては助かりましたね」
アダルベルトが言いながら鷹揚に頷く。
些細な仕草でも、ベリル第二王子とは格の違いを感じる。
王太子でも、ここまでの威厳や風格は出せないだろう。
そして、フローレスと一緒に居る時のアダルベルトとは、また違う雰囲気を持っていた。
フローレスと共に居る時のアダルベルトは、完全なプライベートな彼だった。
そしてフローレスは、その貴重性を理解していない。
ルロローズに緑属性の授業をしていた時や、卒業式でのアダルベルトを対外的な姿だと理解はしていた。
但し、自国に戻ってもその姿だとは無論気付いていない。
そしてアダルベルトは、一刻程後に慌てた様子で「フローレス様に撒かれました」と言う部下の報告を聞いて、フローレスを甘く見ていた事に気付くのである。
「まさか、出国の為だけに利用された……?」
ショックを受けているアダルベルトに、更なる追い打ちが掛けられる。
「フローレス様からの伝言を店主が預かっておりまして『馬車をありがとう。これからは平民として暮らします』だそうです」
それは暗に、平民になるからもう関わるなと言っていた。
「フローレス様と、どのようなお話になっていたのですか?」
アダルベルトの落ち込みように、側近が確認するように問い掛ける。
「話してはいないですね」
「はい?」
「フローレス嬢ではなく、彼女の侍女と話して決めました。そして彼女には当日まで内緒にするように、侍女にお願いをしておきました」
側近は、呆れた表情を隠さず、アダルベルトを見つめた。
「私が彼女の立場でも、撒いて逃げます。信用出来ませんからね」
「なぜです?」
「自分の国に連れ込むのに、当日まで隠しておく男なんて怖いですよ。そのまま拉致される危険もありますし」
「そんな事はしません!」
間髪入れずに否定したアダルベルトへ、側近は首を横に振って見せる。
「そこまで信用されるほど、深い信頼関係が?当日まで黙っていたのに?」
アダルベルトは口を噤んだ。
確かに前もって言えば断られるのが目に見えていたので、当日まで内緒にしていた。
しかしそれは決して悪い事を考えていたのではなく、親切心からだったのだ。
下心が全く無かったとは言わない。
しかし護衛も無く、フローレスが普通の貸馬車での移動をする事が、アダルベルトは不安だったのだ。
盗賊に襲われ、奴隷として売られるかもしれない。
そうなるともう、一生会えなくなるだろう。
いや、むしろ逆にどこかの国の貴族や豪商の屋敷で見掛けるかもしれない。
そんな事になったら、間違い無くその国を攻め滅ぼす自信があった。
愕然としているアダルベルトを見て、側近は細く息を吐き出す。
「フローレス様を見付けても、直ぐに訪ねてはなりません。暫くは遠くから見守って差し上げてください」
アダルベルトは緩々と視線を側近へ向ける。
「どれくらい?」
「出来れば1年。少なくとも半年は必要ですね」
アダルベルトは、素直に頷いた。
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