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54:夢の後 観客達

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 厳粛に行われるはずだった卒業式。
 愚かな者の愚かな行動で、学園の歴史に刻まれる事になった。
 所謂いわゆる黒歴史だ。

 第二王子が婚約者に寃罪を着せて、婚約破棄をしようとした。
 それだけでも酷い行いなのに、実は婚約者ではなく婚約者候補で、そもそも婚約破棄など必要としない。
 他の候補者を選べば良かっただけなのだ。


 くだんの二人は、宰相に命令された騎士によって退場させられた。
 国王と王太子もこっそりと席を辞する。王妃は先に意識消失で運び出されていた。
 唖然とした表情で舞台を眺めていたオッペンハイマー侯爵夫妻も、騎士に声を掛けられ会場を去った。

 フローレスはアダルベルトに連れられ、プリュドム公爵……教授の元へと挨拶に行っている。
 それを見て、保護者席でオッペンハイマー侯爵家のホープはほくそ笑んでいた。
 ペアラズール国第二王子より、オルティス帝国第三皇子の方が大物である。
 自分の代の侯爵家は安泰だと、自然に上がる口角を止められずにいた。



 卒業式は一時中断となり、生徒はそのまま席で待っていた。
 しかし、何も話さず静かにしているわけは無い。
 そこかしこで、今回の出来事を噂している。
 いや、今までの第二王子とルロローズの事も話していた。

「真実の愛とか何とか言って、自分も婚約者候補だったなんて」
 一人の令嬢が周りに聞こえるように話す。
「えぇ、本当に。何も障害など無い関係でしたのよ?今までの話はどこまでが真実なのかしら?」
 仲間内で話をしているように見せ掛けて、実は周りの生徒に聞かせている会話。

「それに見ました?オルティス帝国第三皇子殿下は自分に懸想けそうしているとか言ってましたけど、殿下は虫でも見るような目で見てましたわよ」
 一際大きな声でコロコロと笑うのは、例の侯爵令嬢だ。


「でも!婚約者候補同士なら、尚更相手を蹴落とそうとするのではなくて?」
 近くの席の令嬢が、会話をしている三人の令嬢へと反対意見を述べる。
「あら、貴女は変わったご趣味をお持ちなのね」
 侯爵令嬢の言葉に、「何ですって!?」と反対意見を述べた令嬢が激高する。

「あら、だって私ならばペアラズール国第二王子殿下より、オルティス帝国第三皇子殿下の方を選びますわ」
「見た目も中身も地位も、全部……ねえ?」
「しかも片方は他の方に傾倒していて、片方は自分を愛してくれていますのよ?」
 三人の令嬢の視線は、関係者席にいるフローレスとアダルベルトだ。


「あら、でも長年婚約者だったのでしょう?執着があってもおかしくないわ」
「そ、そうよ!」
「目の前で他の女とちちり合う男に?」

「そ、そもそも、フローレス様がルロローズ様を虐めていたのを私は見た事無いです……」
「でも実際に足を怪我して」
「あの日、ルロローズ様は誰も居ない廊下を走っておられましたよ」

 そこかしこで同じような討論がされている。
 今までは少数派で沈黙していた小説に踊らされていない令嬢達が、ここぞとばかりに頑張っていた。


 何やら白熱している卒業生達の席を、フローレスはチラリと見て、溜め息を吐き出した。
 予定通り第二王子と結婚はしなくて良さそうだが、思ったよりも大事おおごとになってしまった。

 最初の予定では、『可愛くて一途で優秀なルロローズを選びます!』で終わるはずだったのになぁ、と遠くを見つめた。


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