上 下
2 / 115

02:理不尽と優しさ

しおりを挟む



 フローレス・オッペンハイマー。
 第二王子の婚約者で、侯爵家長女。
 二つ上の兄と一つ下の妹が居る。

 利己主義で自分が良ければ何でも良い兄の、ホープ。
 見た目は可愛いが我儘で自分至上主義の妹、ルロローズ。
 とてもよく似た兄妹である。

 そして兄は父親に、妹は母親によく似ていた。
 見た目ではなく、性格の話である。



 王子妃教育が予定より3年も早く終わったフローレスは、魔術学園入学までの3年間をどう過ごそうかとワクワクしていた。
 男子と違い女子は、初等科学校への入学は必須では無い。
 殆どの女子は、16歳から通う魔術学園が初めてであり、最後の学生生活になる。
 卒業したら結婚するからだ。

 それまでの交友はどうするかというと、各家で催されるお茶会である。
 どの家のお茶会に招かれるかによって、社交が決まるのである。
 当たり前だが本人の意志など関係無く、そこは親の交友関係に一任されていた。



 幼い頃のフローレスは、母親とルロローズと三人でお茶会に参加するのが当たり前とされていた。
「王子妃など、うちのフローレスには荷が重いわ」
 そう言いながらも、顔は得意気な母親。
 扇の陰の口元は、嫌らしくつり上がっている。
「可愛さだけならルロローズが選ばれるのに、ね」
 自分の左側にルロローズを座らせ、世話をしながら話す母親の背中を見て、フローレスは紅茶を一口飲み込んだ。
 右利きの母親が左側に座るルロローズの世話をすれば、体ごと左を向くので、フローレスにはほぼ背中を向ける事になるのに、母親は全然気にしていない。


 フローレスはそっと溜め息を吐き出した。
 来たくもないお茶会に無理矢理連れ出されるのは、侯爵家の令嬢としては我慢できる。
 しかし母親が放置するので、他の家の人がフローレスに話し掛けられないのだ。
 気を遣った夫人が取っ掛かりを作ろうと王子の婚約者である話を振ってくれても、先の様に話をルロローズの方へ強引に変えてしまう。
 フローレスの皿が空かないように、主催の夫人が使用人を側に付けてくれる気遣いが無かったら、フローレスは独りでただ座っているだけだっただろう。



「私が認めた社交以外の時間は、全て勉強にてなさい」
 12歳で王子妃教育が一段落したフローレスに、母親は冷たく言い放った。
 母親からの理不尽な命令は、フローレスのワクワクした気持ちを叩き潰した。
 自由に遊び回るルロローズを横目に王子妃教育を頑張ったのは、「早く終われば好きな事が出来ますよ。王子妃教育の成人用は16歳からしか出来ませんから」と言う教師の言葉を聞いたからだ。
 それなのに、学園入学まで自由時間は無いという。

 12歳からは、親が居なくてもお茶会に参加する事が出来るようになる。
 子供だけのお茶会なども、この年齢から始まるのだ。
 しかし母親の口調から、親同伴以外のお茶会に参加させる気は無いのだろう。

 フローレスは、余りにも理不尽過ぎて、家出をしようかと本気で計画したくらいだ。
 その計画書を侍女に見付かってしまい、泣きながら反対されたので断念した。
 意気消沈したフローレスに、使用人達は優しかった。
 勉強時間には、コッソリ巷で流行りの小説等を差し入れてくれた。
 復習する必要など無い優秀なフローレスは、その小説を読みまくった。
 休憩時間に出されるオヤツは、ルロローズに出される物に加え、街で評判の店のお菓子が添えられていた。公休の使用人が交代で買って来てくれるのだ。
 勿論、使用人の自腹である。

 フローレスは落ち込むのをやめ、屋敷内に閉じ込められても、それなりに生活を楽しむ事にした。


しおりを挟む
感想 235

あなたにおすすめの小説

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

王妃はわたくしですよ

朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。 隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。 「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」 『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

妹がいらないと言った婚約者は最高でした

朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。 息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。 わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

処理中です...