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62:不安と光明
しおりを挟む「はい、あーん」
目の前に差し出されるキャラメリゼナッツ。
これを食べさせるのは、オーギュ様の趣味なのでしょうか?
私が公爵家に来てから毎日、オーギュ様が仕事などで不在の時以外は毎日、本当に欠かす事無く私にナッツを食べさせるのです。
甘かったり塩っぱかったり、素材そのものの味だったり、色々です。
種類も本当に沢山で、コーヒー豆まで食べられると知った時には、本当に驚きました。
それは良いのです。
私が飽きないように、色々な木の実を取り寄せているのは、素直に嬉しいです。
で、でも、子供達の前でしなくても良くないですか?
「はい、あーん」
最近はミルクコーティングという新しい技法の物まであるのですよ!
この誘惑には抗えません。
素直に口を開けてしまいました。
「アリス、はいあーん」
ギャスパルがアリスティドにアーモンドチョコを食べさせます。
「キャシィ、はい、あーん」
今度はアリスティドが、ギャスパルにソルティーアーモンドを食べさせました。
そして二人でこちらを見て、ニヤリと笑います。
親をからかうのは止めなさい!
「アリス」「キャシィ」と言う呼び名は、普段ならば絶対にしないし、許さないくせに、親をからかう時にだけ使います。
それ以外の使い道としては、誰かが自分達に成りすました時に、この呼び名で確かめるのだそうです。
許す時と許さない時の塩梅は、二人にしか解らないのです。
「アリス、あーん」
オーギュ様がアリスティドに笑顔でナッツを差し出します。
あら、怒るかと思いましたが、アリスティドが大人しく口を開けました。
「キャシィも、あーん」
同じようにギャスパルもナッツを食べました。
普段ならオーギュ様相手でも怒るのに、まさか偽者!?
「今日は駄目な日だった!」
「父上はやはり難しい」
双子らしく同じ仕草で身を寄せ合い、何やらボソボソと話しています。
オーギュ様を見ると、笑顔で子供達を見ていました。
あら、よく見ると口角が片側しか上がっておりません。
先程までは普通の笑顔でしたのに。
子供達の言うように、今日は駄目な日のようです。
偶に有るのですよね。
私の世話をやたらと焼きたがる日が。
いつもはどこか親鳥的な感じなのですが、こういう日は溺愛と言う言葉がピッタリの行動をします。
甘やかすという意味では、いつもと同じなのですが。
子供達が私とオーギュ様の頬に挨拶のくちづけをして、部屋を出て行きました。
二人が居なくなった途端、オーギュ様は私を自分の膝に抱えあげます。
足は下におりていますが、オーギュ様の太腿に横座りする形になりました。
きゅっと抱きしめられました。
甘やかされているのか、甘えられているか、どちらなのでしょう?
どちらでも嬉しい事に変わりはありませんが。
「ナターシャ。エステルは奴隷落ちが決まったよ」
オーギュ様が私を抱きしめたまま、耳元で話し始めます。
「他の貴族に誤解を与え、間違った方向へと誘導した罪が1番重いのかな」
エステルが王太子の婚約者に内定していると誤認識をしていた貴族の子女が多かったですものね。
「それに、ナターシャを娼婦だなどと、許せる訳が無い」
あ、そちらもありましたわね。
「でも、今更ですか?」
10年以上も前の罪ですよね。
「執行猶予中だった、と言えば良いのかな。国家転覆とか反逆罪までいかない、微妙な……だが許してはいけない罪だっただろう?」
あぁ、解る気がします。
社交禁止3年という、貴族としては致命的な罰は与えられていました。
犯した罪の割には、軽い罰ではありましたが、その後7年も王家主催の催し物には呼ばれませんでした。
「その上に今回の不敬罪が上乗せされた」
子供の教育もしていないようでした。
エステルは、母親になっても何も変わっていなかったのです。
しかも夫も、その愛妾も、伯爵家の人間としては失格でした。
王家と、いえ上位貴族と直接交流する機会の無い男爵や準貴族ならば、まだましだったのかもしれませんが……。
「婿養子と愛妾は、労働刑が確定した」
どこに配置されるかまでは、聞かなかったそうです。
「子供達が成人する前には、出られるだろう」
多分、という言葉が気になりましたが、特に質問はしませんでした。
「子供達は、ピラートル伯爵領の孤児院へ預けられた」
孤児院ならば、働くための教育も受けられるし、生活も保障されてますので安心ですね。
ラスペード公爵領は、領地が広いので何ヶ所か孤児院があります。
どこの施設も、いつ行っても子供達が元気で健康で、前を向いて生きています。
ブルーキンク辺境伯領でも、それは変わりません。
子供達には、ピラートル伯爵家よりも、良い環境かもしれませんね。
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