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49:幸せな食事風景

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「はい、あーん」
 ラスペード公爵家に新しい家族が増えてから、半年が過ぎました。
 すっかり体調も戻りました。
 将来が楽しみな、オーギュ様似の双子も離乳食を食べ始めました。
 そして今日も私は食事の時間に、元気に

「もう、普通に食べられますわ」
 オーギュ様に差し出された食事を口にしながら、私はいつもの言葉を口にします。
 今では普通に食事が出来るのに、オーギュ様は相変わらず横から「あーん」と食べ物を食べさせてくるのです。

 出産後に、全てお願いしてしまったのが悪かったようです。
 余程嬉しかったのか、私の体調が戻っても、しばらくは自分で食事をさせて貰えない程でした。


 今は……子供達の代わりに、私に食べさせているのでしょうか?
 子供達には、お義父様とお義母様が乳母のメロディに指導されながら餌付け……ではなく、離乳食を食べさせています。
 昔お義母様が「餌付け」と言っていた意味が解りました。

 確かにこれは、警戒心無く口を開け過ぎですね。
 相手を信用しているからなのですが、誰彼構わず食べ物を貰わないように躾なければいけません。

 視線を感じたのでオーギュ様の方へ顔を向けると、優しい顔で微笑んでました。
「ナターシャが母親の顔してる」
 母親ですからね。
 微笑み返すと、頬にチュッとくちづけられました。
「母親だけでなく、妻で有る事も忘れないでね」
 耳元で囁かれました。



「ヴァレリアン様。それでは量が多過ぎます!」
 メロディの声が聞こえてきました。
「ラシェル様。そんなに丁寧に1回1回拭いていたら、口の周りが真っ赤になってしまいますわ」
 今度はお義母様が注意されています。
 前公爵夫妻にもしっかりと指導しているメロディは、私の乳母でもあったです。

 実は予定より早く妊娠してしまった為、まだ結婚披露宴は出来ておりません。
 結婚式の招待状を送った方々に、延期の連絡をしたのはオーギュ様です。
 勿論、お義母様命令ですわ。

 そして招待状とその延期の連絡の手紙を握りしめ、メロディがラスペード公爵家へと訪ねて来たのです。
「乳母は必要ありませんか?」
 対応に出たセバスに招待状と延期の手紙を見せ、そう微笑んだそうです。
 延期の連絡に、妊娠の事など書いてありません。
 でも察したのでしょう。

 彼女の行動力に、感謝感動しました。


 ピラートル伯爵家を解雇された後、おじさまの紹介で他の伯爵家で働いていたそうです。
 おじさまに「ナターシャ様を救ってください」とお願いしに行ってくれたのです。
 元気な私の姿を見た彼女は、大粒の涙を流しながらも喜び、そして母親のような慈愛の表情をしていました。

 後で聞いたのですが、私に心配させない為に再会の場では我慢していたそうですが、使用人部屋へ案内された後に号泣したそうです。


「ゆっくり過ぎると、寝始めてしまいますよ!」
 メロディの元気な声が聞こえます。
 怒鳴りつけるようなピラートル伯爵夫人の不快な声とは違う、私の大好きな声。
 お義母様とも、また違うのです。

 乳母のメロディは、私のもう一人の母なのです。
 一人は無論、お義母様です。


「ナターシャ様、母乳をあげましょうか」
 メロディがギャスパルを抱いて連れて来ました。
 離乳食を食べ終わったので、母乳をあげるのです。
 アリスティドも食べ終わったのか、もう一人の乳母が抱いてます。

「オーギュ様」
 食事は終わっているので、席を立つ事の許可をオーギュ様に求めます。
「いってらっしゃい。サロンで待ってるよ」
 オーギュ様が笑顔で、こころよく送り出してくれました。
 家によっては、育児は完全に乳母に任せる所もあるそうです。
 それこそ授乳も。

 私はラスペード公爵家に、オーギュ様に嫁いで来られて、本当に幸せです。


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